2007年12月23日

"MURDER ON MULBERRY BEND" Victoria Thompson

Berkley Prime Crime 343p

 ガス灯またたく街路に馬車が行き交う20世紀初頭のニューヨーク。3年前、医師だった夫トムを殺人事件で亡くしたサラ・ブラントは、裕福な実家に戻らず、助産師として働いて、ひとりでつつましく暮らしていた。サラは、亡き夫の事件の捜査を通じて、フランク・モリーという警官と知り合った。警官フランクは、妻を亡くした後、障害のある幼い息子ブライアン、未亡人である自分の母とともに暮らしていた。

 ある夜、サラは、良家出身のリチャード・デニスとオペラを見に行く。妻ヘイゼルを熱病のため亡くしたリチャードは、自分が無関心だったために妻を死なせてしまったのではないかという自責の念に駆られていた。ヘイゼルは生前、マルベリー通りにある貧しい少女たちのためのシェルターでボランティア活動に打ち込んでいた。リチャードはサラに、亡き妻を少しでも理解するため、シェルターへの同行を依頼する。

 日曜日の午後、サラはリチャードとともにシェルターを訪問する。そこで、伝道師だった亡夫の意志を継いでシェルターの運営を続けているミセス・ウェルズの献身的な生き方に感銘を受け、ボランティア活動をしようと決心する。

 翌週の日曜、フランクは、女性の遺体が見つかったという呼び出しを受けて市役所の向かいにある公園に赴く。現場に着いたフランクは愕然とする。遺体のそばに残された、古ぼけたみっともない帽子に見覚えがあった。サラの帽子だ!


 20世紀初頭の若い国、アメリカを舞台に、さまざまな歴史を背負った人々の姿が生き生きと描き出されている。なかでも、貧民層の少女たちの姿と移民同士の確執がずしりと残った。巻末の解説によると、著者はイタリア系移民の系譜につながるとのこと、その経歴が十分に生かされた作品である。セツルメント活動に関連して、シカゴのハルハウスの名が出てきたことも、個人的にはとても嬉しかった。

 富裕層出身の女性としがない警官という組み合わせは、アン・ペリーを思い起こさせる。主要な登場人物のほとんどが配偶者を亡くしている。亡くした経緯は事件あり、病死ありとさまざまであり、読み応えのあるサイドストーリーがいくつも展開されており、それもまた、物語としてのおもしろさに奥行きを加えている。

 著者がかつてはヒストリカル・ロマンス作家だったためか、テーマは重いものの、人間関係がうまく描かれており、会話にも味があって、読みやすい作品に仕上がっている。ミステリとしても骨格がしっかりしており、最後まで楽しめた。注目したい作家である。

 本作は、ガス灯ミステリ・シリーズ第5作。本国では毎年新作が出ている人気シリーズであり、第2作 "MURDER ON ST. MARK'S PLACE" は2001年MWA賞ペーパーバック賞候補に挙げられた。2007年6月には第9作 "MURDER IN CHINATOWN" の刊行が予定されている。シリーズを通して読んでみたい。


著者のサイト http://www.victoriathompson.com/
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2006年05月30日

『天使の背徳」アンドリュー・テイラー 越前敏弥訳

"THE JUDGEMENT OF STRANGERS" Andrew Taylor
講談社文庫 ISBN: 4062749750

 妻を亡くした牧師デイヴィッドはロンドン郊外のロスで司牧に当たっていた。デイヴィッドの教会の世話役ともいえるオードリー・オリファントはロスの歴史に関する本を出そうとしており、出版社を捜していたデイヴィッドは、夫亡き後出版社を引き継いだヴァネッサと出会う。美しいヴァネッサに惹かれたデイヴィッドはやがて求婚し、牧師館で新生活を始める。

 旧知の友人アップルヤード夫妻の息子でデイヴィッドが名付け親となったマイケルを預かり、寄宿学校生の娘ローズマリーも帰省した。穏やかな生活が続くかと思われたが、陰惨な事件をきっかけに、教区は暗い影におおわれる。そして――。

〈The Roth Trilogy〉第2作。デイヴィッドの一人称で語られる本作は、デイヴィッドの男としての欲望と牧師としての務めのせめぎ合いが延々と描かれ、息が詰まるほど陰鬱で重苦しい。一方で、解説にもあるように、幻聴のように登場する天使の羽音が神秘的な翳りを添えている。

 デイヴィッドの一人称で語られてはいるものの、17歳になるローズマリーの存在感が大きい。だれとも親しまず、笑顔を見せることもないこの寡黙な美少女は、孤高にそびえる雪をいただいた山のようだ。デイヴィッドの名づけ子である11歳のマイケルもまた、印象的な存在である。

 影谷陽氏の解説が余韻を深めてくれる。これ以上、語るべき言葉はない。
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2006年03月09日

『天使の遊戯』アンドリュー・テイラー 越前敏弥訳

"THE FOUR LAST THINGS" Andrew Taylor
講談社文庫 ISBN: 4062739542

 ロンドン郊外のセント・ジョージ教会。副牧師の職についてまだ日の浅いサリー・アップルヤードは部長刑事の夫マイケルと4歳の娘ルーシーと暮らしていた。聖職にある妻と職務に追われる夫との間はぎくしゃくし始めていた。ある日、ベビーシッターの家に預けたルーシーが失踪した。翌日、子どものものと思われる切断された手が発見された。動転する夫婦をあざ笑うかのように、次はタイツに包まれた小さな足が見つかる。

 原題の"THE FOUR LAST THINGS"とは、キリスト教神学における4つの終末である死、審判、天国、地獄を指す。

『天使の背徳』『天使の鬱屈』と続く〈The Roth Trilogy〉第1巻。エンジェルの存在とマイケルと名付け親であるデイヴィッド・バイフィールドの奇妙な親密さが謎めいた雰囲気をかもし出している。

 仕事と子育てをめぐる夫婦の葛藤は息苦しいほどだった。サリーの辛さを今実際に味わっている人がどれほどいることか。

 レンデルを思わせるところがあるが、本作には大河小説の趣がある。デイヴィッドとマイケル、アップルヤード家とバイフィールド家のかかわりなど、無数の謎を残したまま、本作は幕を閉じる。次作以降でどのような展開が見られるのか、読まずにいられない気持ちにさせる物語である。 
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『天使の鬱屈』アンドリュー・テイラー 越前敏弥訳

"THE OFFICE OF THE DEAD" Andrew Taylor 
講談社文庫 ISBN: 406275326X

『天使の遊戯』『天使の背徳』に次ぐ〈The Roth Trilogy〉最終巻で、CWA賞最優秀歴史ミステリ賞受賞作品。

 この作品の感想は、3巻すべて読了後アップします。
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2006年01月27日

『推定無罪(上・下)』スコット・トゥロー 上田公子訳 文春文庫

"PRESUMED INNOCENT" Scott Turow
ISBN: 4167527073 4167527081

 地方検事予備選挙戦のさなか、検事補キャロリン・ポルヒーマスの遺体が自宅で発見された。捜査に当たったサビッチ主席検事補は、かつて被害者と愛人関係にあった。捜査を進めるなかで、サビッチに容疑がかかり、被告として法廷に立たされる――。

 法と人間のあり方について考えさせられる作品である。臨場感溢れる法廷シーンと、人間の苦悩がみっしり描かれている。まさに人間ドラマである。なるほど評価が高い作品だというのはよくわかる。だが、好みの作風ではない。カタルシスがなく、何かもやもやしたものが読後に残った。リーガルミステリをさほどたくさん読んだわけではないが、リーガルミステリには緊張感もさることながら、ある種のカタルシスをわたしは求めている。

 読み始めたとき、ぐじぐじした夫と陰険な妻の組合せにうんざりしたのが最後まで響いた。殺されたキャロリンのなりふり構わずのし上がろうとするところも鼻につく。共感できるかなと思った部分もあったが、嫌悪感が最後まで残ってしまった。人物たちの闇の部分が重すぎたのだろうか? サビッチと妻バーバラの息子ナットのこれからが気になる。

 アメリカの司法について知るにはいい本である。陪審のあり方や法廷での駆け引きが手にとるようにわかる。裁判の場面では、かつてある裁判を傍聴したときのことが思い出された。鳥肌が立つほど水際だった弁護、眠かった専門家尋問、そして被告とされた方のこと、その人生の重さを改めて突きつけられたような気がする。

 うらやましく思ったのは、アメリカでの裁判の迅速さとときとして法廷にユーモアすら漂う点である。日本の裁判は時間がかかりすぎるのではないか? 

 登場人物たちに共感できなかった中で、ほうとため息をついたのは弁護士サンディ・スターンの仕事ぶりだった。第2作『立証責任』では、サンディが主人公とのことなので、読んでみたい。今、アマゾンで見てみたら、ユーズドでしか手に入らないようだが、図書館にあるのを確認した。折を見て読んでみたい。
 
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2005年03月04日

『時の娘』ジョセフィン・ティ   小泉喜美子訳 ハヤカワ文庫ジョセフィン・ティ   小泉喜美子訳 ハヤカワ文庫

"THE DAUGHTER OF TIME"
                      
 足の骨を折り、入院生活を送るグラント警部はふとしたことからリチャード三世の肖像画を手にする。甥である二人の王子を殺した残虐非道な王として悪名高いリチャード三世。だが、本当に彼は王子たちを殺したのか? 彼でないなら誰が手を下したのか?

 協力者を得て各種の文献に当たりつつ、事件の真相に迫る。そして、明らかにされた真実とは……。

 英国史にさほど詳しくないが、それでも一応薔薇戦争ぐらいは教わってきた。ヨーク家とランカスター家の王位簒奪戦争である薔薇戦争を舞台に繰り広げられる欲望の物語。そこで描かれる人間の真実。

 リチャード三世についてはほとんど知らないも同然だったが、読み出したら止まらないほどおもしろかった。もともと歴史物は好きだし(『ベルばら』全巻揃えて持っていました(^^;))

 安楽椅子探偵ならぬベッド探偵。自分は動かないけれども、協力者を得て資料を収集し、推理を働かせる。推理の王道を見せられたような気がする。

 かなり前の訳(1977年)なので、今の基準で見たとき、ちょっと問題になりそうな言葉が使われていたのが気になる。

 題名は、巻頭に掲げられた「真理は時の娘 ――古い諺――」に依っている。
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"THE LORD OF THE RINGS The Two Towers" J.R.R.Tolkin

 ゴクリことスメアゴルにはなぜか親近感を覚える。あの醜悪な姿、それが確かに自分の中にあるという気がするから。欲望にとりつかれたあの姿、それを飼い慣らして旅していく二人。そして、その旅は何かを得るためではなく、捨てに行く旅。
 旅する二人も苦しいだろうが、これは読む方も苦しい。頼りになるのは、忠実なるサムだろう。サムと共に、しばし旅に出よう。

 スメアゴルに捕ってこさせたうさぎでシチューをつくるサム。レンバスだけでは飽きるものね。

 2人はボロミアの弟ファラミアに出会う。ホビットたちを不審に思いながらも、共に食事し語り合う中で、ファラミアのホビットたちへの疑惑は解けていく。懐かしいロスロリエン、麗しのガラドリエル、遠い昔のように思われる。
 もともと、ホビットさんは穏やかな暮らしが好きな人たちだから、久しぶりにふつうの食事にありつけて、ゆっくりベッドで眠れて、幸せだったでしょう。

8章で、この冒険がいつか伝説になるかもしれないと語り合う2人の姿は、この巻の中で最も心に残る場面である。

 サムは、1巻に続いてこの巻でも最後に泣かせてくれました。ゴクリことスメアゴルもけっこう生き生きと描かれていますね。
 
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"THE LORD OF THE RINGS The Fellowship of the Ring" J.R.R.Tolkin


 おじのビルボから指輪を託されたホビット族のフロドは、旅をする中で出会った仲間とともに、悪の帝王を封印するため、指輪を捨てる旅に出る。

 指輪物語第1作。魔法使い、エルフ、ゴブリン、人間とさまざまな存在と出会い、さまざまな冒険を経てきずなを深めていく過程が描かれている。

 物語の初めからぐいぐいと引き込まれるものを感じる。20世紀ファンタジーの金字塔と呼ばれるのにふさわしい作品である。

 物足りないのは、女性が活躍する場面がほとんどないこと。気になったのは、やたらと"son of 〜"と出てくること。

 わたしのお気に入りはサム。最後に泣かせてくれた。

 続きを読まずにはいられない気持ちにさせてくれる作品である。
 
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"MARY POPPINS" P.L.Travers 

 東風に乗ってバンクスさんちにやってきたナニー、メアリ・ポピンズは不思議な力を持っている。空中でお茶会をしたり、動物と話ができたり、羅針盤で世界中を旅したり。空飛ぶ雌牛や昴の姉妹とも知り合いのメアリさんって、一体何者? メアリさんと子どもたちの不思議なお話。

 イギリスの魅力満載というところでしょうか。不思議なナニーに連れられて冒険の旅に出るような気持ちにさせてくれるお話です。ちょっとキュンとするお話もありますし、大人に対する風刺もピリリ。侮れません。
posted by 如月 at 15:54| Comment(0) | TrackBack(0) |