Polygon (2003/2/10) 204p ISBN: 0748663274
ふさぎ込んでいたミスターJ.L.B.マテコシも徐々に明るさを取り戻し、No.1レディース探偵社に平穏な日が戻ったかに見えた。だが、あいかわらず探偵社のやりくりは苦しい。先行きを案じる秘書のマ・マクチは男性のみを対象とするタイピングスクールを始める。孤児院から引き取った師弟はそれぞれなりの鬱屈を抱えていることが明らかになり、さらに、ライバルとなる私立探偵事務所が華々しく登場する。
ボツワナの女性探偵マ・ラモツエを主人公とする人情ミステリ第4作。2006年8月に第3作『No.1レディース探偵社、引っ越しす』が翻訳出版された。シリーズ全体にいえることだが、ミステリとしてのおもしろさには欠けるものの読後にほんわりとした暖かさが残る。このあたりで好みが分かれそうだが、血なまぐさいミステリやハラハラするサスペンスの合間に読むにはいいかもしれない。
2006年05月30日
『フクロウは夜更かしをする』コリン・ホルト・ソーヤー 中村有希訳
"MURDER BY OWL LIGHT" Corlin Holt Sawyer
創元推理文庫 ISBN: 4488203043
〈海の上のカムデン〉でまたまた殺人事件発生! 今回の犠牲者はホームに出入りしていた自販機業者エンリケ・オルテラーノと庭師ロロ・バグウェルだった。
多忙なマーティネスにかわって事件を担当したハル・ベンソンの制止をものともせず、アンジェラとキャレドニアのお元気コンビは今回もまた、あれこれ理由をつけてつつき回す。
犯人の見当もつかないまま、また新たな殺人事件が起こる。事件とカムデンとの関係は? カムデンの平和を脅かす犯人は?
〈海の上のカムデン〉シリーズ第3作。アンジェラとキャレドニアはますますお元気で、いやみなベンソン部長刑事と途中で交代したマーティネス警部補はますますかっこよく、スワンソンとチータはお熱く、と絶好調。だが、インパクトはさほどない。3作目にしてだれ気味かな? フクロウって夜行性でしたよね?
創元推理文庫 ISBN: 4488203043
〈海の上のカムデン〉でまたまた殺人事件発生! 今回の犠牲者はホームに出入りしていた自販機業者エンリケ・オルテラーノと庭師ロロ・バグウェルだった。
多忙なマーティネスにかわって事件を担当したハル・ベンソンの制止をものともせず、アンジェラとキャレドニアのお元気コンビは今回もまた、あれこれ理由をつけてつつき回す。
犯人の見当もつかないまま、また新たな殺人事件が起こる。事件とカムデンとの関係は? カムデンの平和を脅かす犯人は?
〈海の上のカムデン〉シリーズ第3作。アンジェラとキャレドニアはますますお元気で、いやみなベンソン部長刑事と途中で交代したマーティネス警部補はますますかっこよく、スワンソンとチータはお熱く、と絶好調。だが、インパクトはさほどない。3作目にしてだれ気味かな? フクロウって夜行性でしたよね?
2006年03月09日
『ナイン・テイラーズ』 ドロシー・L・セイヤーズ 浅羽莢子訳
"THE NINE TAILORS" Dorothy L. Sayers (1934)
創元推理文庫 ISBN: 4488183107
大晦日の宵、車が故障したため、ピーター卿とお供のバンターは東アングリアの小村で年を越す羽目となった。その村フェンチャーチ・セント・ポールの教会ではその夜、9時間にわたる鐘鳴曲を演奏しようとしていたが、蔓延する流感のため鐘の鳴らし手が足りなくなっていた。鳴鐘術に覚えのあるピーター卿は助っ人を買って出る。
春、フェンチャーチ・セント・ポール教会の鐘が9回鳴った。その九告鐘(ナイン・テイラーズ)は、赤屋敷の当主の死を告げた。当主の遺骸を先に亡くなった夫人の傍らに葬ろうとしたとき、その墓に見知らぬ男の死体が埋められているのが発見された。ピーター卿の名声を記憶にとどめていた老牧師は、卿の助力を願って再度の来村を要請する。求めに応じて村を再訪した卿は、かつて赤屋敷で貴重なエメラルドが盗まれたことがあったと聞く。見知らぬ男の正体は? そしてエメラルドはどこに? 低地地方の小村を舞台に卿の推理が展開される。
とどろく水音、響く鐘の音が耳に残る。聖なる響きでありながらどこかまがまがしさを帯びた鐘の音。闇に沈む鐘たちは、まるで長い長いときを生きてきたかのようだ低地地方の教会でともに過ごしたひととき。人の力を超えた大きな力に突き動かされたような気がしている。
ピーター卿シリーズを読むのは『学寮祭の夜』『五匹の赤い鰊』に次いでこれが3冊目。『学寮祭の夜』でピーター卿ファンになったものの『五匹の赤い鰊』はいまひとつピンと来なかった。読めるかどうか確信が持てないままこの本を手にとったが、鳴鐘術の専門用語と人々の訛りに翻弄されながらも一息に読み、深い余韻を楽しんだ。
どうやらわたしは、このシリーズでは蘊蓄系の方が性に合うようだ。
創元推理文庫 ISBN: 4488183107
大晦日の宵、車が故障したため、ピーター卿とお供のバンターは東アングリアの小村で年を越す羽目となった。その村フェンチャーチ・セント・ポールの教会ではその夜、9時間にわたる鐘鳴曲を演奏しようとしていたが、蔓延する流感のため鐘の鳴らし手が足りなくなっていた。鳴鐘術に覚えのあるピーター卿は助っ人を買って出る。
春、フェンチャーチ・セント・ポール教会の鐘が9回鳴った。その九告鐘(ナイン・テイラーズ)は、赤屋敷の当主の死を告げた。当主の遺骸を先に亡くなった夫人の傍らに葬ろうとしたとき、その墓に見知らぬ男の死体が埋められているのが発見された。ピーター卿の名声を記憶にとどめていた老牧師は、卿の助力を願って再度の来村を要請する。求めに応じて村を再訪した卿は、かつて赤屋敷で貴重なエメラルドが盗まれたことがあったと聞く。見知らぬ男の正体は? そしてエメラルドはどこに? 低地地方の小村を舞台に卿の推理が展開される。
とどろく水音、響く鐘の音が耳に残る。聖なる響きでありながらどこかまがまがしさを帯びた鐘の音。闇に沈む鐘たちは、まるで長い長いときを生きてきたかのようだ低地地方の教会でともに過ごしたひととき。人の力を超えた大きな力に突き動かされたような気がしている。
ピーター卿シリーズを読むのは『学寮祭の夜』『五匹の赤い鰊』に次いでこれが3冊目。『学寮祭の夜』でピーター卿ファンになったものの『五匹の赤い鰊』はいまひとつピンと来なかった。読めるかどうか確信が持てないままこの本を手にとったが、鳴鐘術の専門用語と人々の訛りに翻弄されながらも一息に読み、深い余韻を楽しんだ。
どうやらわたしは、このシリーズでは蘊蓄系の方が性に合うようだ。
『氷の女王が死んだ』コリン・ホルト・ソーヤー 中村有希訳
"MURDER IN GLAY AND WHITE" Corinne Holt Sawyer
創元推理文庫 ISBN:4488203035
〈海の上のカムデン〉でエイミー・キンゼスが体操用の棍棒で撲殺された。〈カムデン〉全入居者の中でも横柄で権高なエイミー・キンゼスはとびきりの嫌われ者だった。とはいえ、手を下したのが誰かは見当もつかない。マーティネス警部補から協力を要請されたアンジェラとキャレドニアは、今回もまた張り切って調査に乗り出す。
〈海の上のカムデン〉シリーズ第2作。設定が気に入ればそれなりに楽しめる本シリーズ、ハチャメチャさは前作よりもパワーアップしている。アンジェラとキャレドニアという、いずれ劣らぬ強烈なキャラクターの個性がより鮮明に浮かび上がってくる。
今回は、アル中のグローガン翁をめぐるエピソードの方が前面に出て、事件の影が薄くなっているように思う。こういう点でも好みが分かれるかもしれない。
創元推理文庫 ISBN:4488203035
〈海の上のカムデン〉でエイミー・キンゼスが体操用の棍棒で撲殺された。〈カムデン〉全入居者の中でも横柄で権高なエイミー・キンゼスはとびきりの嫌われ者だった。とはいえ、手を下したのが誰かは見当もつかない。マーティネス警部補から協力を要請されたアンジェラとキャレドニアは、今回もまた張り切って調査に乗り出す。
〈海の上のカムデン〉シリーズ第2作。設定が気に入ればそれなりに楽しめる本シリーズ、ハチャメチャさは前作よりもパワーアップしている。アンジェラとキャレドニアという、いずれ劣らぬ強烈なキャラクターの個性がより鮮明に浮かび上がってくる。
今回は、アル中のグローガン翁をめぐるエピソードの方が前面に出て、事件の影が薄くなっているように思う。こういう点でも好みが分かれるかもしれない。
『老人たちの生活と推理』コリン・ホルト・ソーヤー 中村有希訳
"THE J.ALFRED PRUFROCK MURDER" Corline Holt Sawyer
創元推理文庫 ISBN: 4488203027
温暖な南カリフォルニアはサンディエゴ近郊の小さな町カムデンにある高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉。ある朝、〈カムデン〉から砂浜に下りる階段の下に、司書だったスィーティーことサラ・ジェーン・ギルフィランの死体が転がっていた。本の虫だったスィーティーの死は事故か、それとも他殺? 平穏な日常にあきあきしていた元提督夫人アンジェラとキャレドニアは、映画女優だったナン、東部の名家のお嬢様だったステラを巻き込んで、探偵活動に乗り出す!
高級老人ホームを舞台に元気な老婦人が活躍するミステリ「海の上のカムデン」シリーズ第1作。裕福なおばあちゃまたちという設定にいささか落ち着かないものを感じるが、少しずつひとりひとりの顔が見えてくるにつれ、気にならなくなってくる。どこに住んでいても、同じ人間なのだなという感じかな。最後の方は、ちょっぴりつらく、切なかった。
「調査」の名目で現場はむちゃくちゃにするし、推理というより思い込みで動いているようなところもあるが、設定とキャラクターのおもしろさで読ませるシリーズだと思う。みずからの老後も考えながら読むのもまた一興であろう。
創元推理文庫 ISBN: 4488203027
温暖な南カリフォルニアはサンディエゴ近郊の小さな町カムデンにある高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉。ある朝、〈カムデン〉から砂浜に下りる階段の下に、司書だったスィーティーことサラ・ジェーン・ギルフィランの死体が転がっていた。本の虫だったスィーティーの死は事故か、それとも他殺? 平穏な日常にあきあきしていた元提督夫人アンジェラとキャレドニアは、映画女優だったナン、東部の名家のお嬢様だったステラを巻き込んで、探偵活動に乗り出す!
高級老人ホームを舞台に元気な老婦人が活躍するミステリ「海の上のカムデン」シリーズ第1作。裕福なおばあちゃまたちという設定にいささか落ち着かないものを感じるが、少しずつひとりひとりの顔が見えてくるにつれ、気にならなくなってくる。どこに住んでいても、同じ人間なのだなという感じかな。最後の方は、ちょっぴりつらく、切なかった。
「調査」の名目で現場はむちゃくちゃにするし、推理というより思い込みで動いているようなところもあるが、設定とキャラクターのおもしろさで読ませるシリーズだと思う。みずからの老後も考えながら読むのもまた一興であろう。
2006年01月27日
"NIGHTS IN RODANTHE" Nicholas Sparks
ISBN: 0446691798
若くして結婚したエイドリアンは夫と別れ、女手ひとつで3人の子どもを育ててきた。エイドリアンの心を痛めるのは相思相愛の夫をガンで亡くした娘アマンダのこと。悲しみのあまり、アマンダは我が子への関心を失っていた。娘を案じるエイドリアンは、これまで自分の胸に秘めていた思いを語る。
うーん、評判はよかったのだけど、わたしにはちょっと……。展開が見えていたし、よかったと思うのは描写がきれいだったことくらいかな。
わたしはどうもスパークスとは合わないらしく、彼の作品を読んで泣いたことはない。それなりにきれいだし、そこそこいいとは思うけど。
どうやら、わたしは、スパークスとは合わないようだ。
若くして結婚したエイドリアンは夫と別れ、女手ひとつで3人の子どもを育ててきた。エイドリアンの心を痛めるのは相思相愛の夫をガンで亡くした娘アマンダのこと。悲しみのあまり、アマンダは我が子への関心を失っていた。娘を案じるエイドリアンは、これまで自分の胸に秘めていた思いを語る。
うーん、評判はよかったのだけど、わたしにはちょっと……。展開が見えていたし、よかったと思うのは描写がきれいだったことくらいかな。
わたしはどうもスパークスとは合わないらしく、彼の作品を読んで泣いたことはない。それなりにきれいだし、そこそこいいとは思うけど。
どうやら、わたしは、スパークスとは合わないようだ。
2005年10月13日
"THE LITTLE PRINCE" Antoine de Saint-Exupery Richard Howard 訳
A Harvest Book ISBN:0156012197
砂漠に不時着した飛行士のわたしは、不思議な少年に出会う。自分の星を離れ、さまざまな星を訪ねた後、地球にやってきたという「王子」は、わたしに羊の絵を描いてくれと頼む。そして、王子は、自分の星でのできごと、これまで出会った人々のことを語り始める――。
フランス語からの英訳。平易でありながら深みのある表現に魅せられた。しんとした寂しさを感じながらも、心の奥底にひっそりと咲く一輪の薔薇を愛おしく見つめているような、そんな不思議な感覚が残っている。
一度読んだだけでは、この世界をかすめただけでしかないのだろう。折に触れ、読み返したくなる本である。"ONE CHILD" Tory Hayden(邦題『シーラという子』)の中でも、この物語が印象的に取り上げられていた。
カラー版イラストがついているのが嬉しい。
砂漠に不時着した飛行士のわたしは、不思議な少年に出会う。自分の星を離れ、さまざまな星を訪ねた後、地球にやってきたという「王子」は、わたしに羊の絵を描いてくれと頼む。そして、王子は、自分の星でのできごと、これまで出会った人々のことを語り始める――。
フランス語からの英訳。平易でありながら深みのある表現に魅せられた。しんとした寂しさを感じながらも、心の奥底にひっそりと咲く一輪の薔薇を愛おしく見つめているような、そんな不思議な感覚が残っている。
一度読んだだけでは、この世界をかすめただけでしかないのだろう。折に触れ、読み返したくなる本である。"ONE CHILD" Tory Hayden(邦題『シーラという子』)の中でも、この物語が印象的に取り上げられていた。
カラー版イラストがついているのが嬉しい。
2005年06月11日
『愛の年代記』塩野七生 新潮文庫 ISBN*:4101181012
中世末期からルネッサンスにかけてのイタリアでのさまざまな愛の形を描いた短編集。
日陰の身から大公妃にのぼったビアンカ、実験台にされたジュリア、ただ一度だけ相まみえた男を思い続けた伯爵夫人マリア、道ならぬ恋に身を焼いた侯爵夫人パリシーナ、貞淑なキアラが死ぬ前に考えたこと、才気ある若者の将来を破滅に陥れた美貌の奥方、そして法王位にのぼったジョヴァンナ――
『ダ・ヴィンチ・コード』に関連して、そう言えば女性教皇がいたという話を読んだことがあるけど、どこに書いてあったのか気になっていた。少し調べればすぐわかった。この本だった。
実は、わたしはこの本を高校時代に読んでいる。学校の図書室か、市立図書館か、どこで借りたのかは定かではない。歴史でルネッサンスを学んでいたとき、この方のチェーザレ・ボルジアについての本を読み、そのあと、この本を読んだように記憶している。かなりきわどい描写もあるが、著者の筆致がからっとしているので、高校時代のわたしでも、動揺することなく、さらっと読んでいた。
そのときも一気に読んだが、今回もまた、おもしろくて一気に読んでしまった。わずかに残された史実から今もそばにいるかのようにいきいきと血の通った人物を描き出す手腕は見事だ。
純愛あり、道ならぬ恋あり、不倫あり。ここに描かれるロマンスは濃く、激しい。ありきたりな小説など色あせて見えるほどである。ロマンスここに極まれり、という感じだ。もしかしたら、この本でロマンスを堪能してしまったから、他のロマンス小説が読めなくなってしまったのかもしれない。
イタリアに行ったことはないが、イタリアの空や海の色はきっと、目もくらむほど鮮やかなのだろう。本を読み終えた今、まぶたの裏に残る激しく生きた女性たちの生のように。
大公妃ビアンカ・カペッロの回想録
ジュリア・デリ・アルビツィの話
エメラルド色の海
パリシーナ侯爵夫人の恋
ドン・ジュリオの悲劇
パンドルフォの冒険
フィリッポ伯の復讐
ヴェネツィアの女
女法王ジョヴァンナ
日陰の身から大公妃にのぼったビアンカ、実験台にされたジュリア、ただ一度だけ相まみえた男を思い続けた伯爵夫人マリア、道ならぬ恋に身を焼いた侯爵夫人パリシーナ、貞淑なキアラが死ぬ前に考えたこと、才気ある若者の将来を破滅に陥れた美貌の奥方、そして法王位にのぼったジョヴァンナ――
『ダ・ヴィンチ・コード』に関連して、そう言えば女性教皇がいたという話を読んだことがあるけど、どこに書いてあったのか気になっていた。少し調べればすぐわかった。この本だった。
実は、わたしはこの本を高校時代に読んでいる。学校の図書室か、市立図書館か、どこで借りたのかは定かではない。歴史でルネッサンスを学んでいたとき、この方のチェーザレ・ボルジアについての本を読み、そのあと、この本を読んだように記憶している。かなりきわどい描写もあるが、著者の筆致がからっとしているので、高校時代のわたしでも、動揺することなく、さらっと読んでいた。
そのときも一気に読んだが、今回もまた、おもしろくて一気に読んでしまった。わずかに残された史実から今もそばにいるかのようにいきいきと血の通った人物を描き出す手腕は見事だ。
純愛あり、道ならぬ恋あり、不倫あり。ここに描かれるロマンスは濃く、激しい。ありきたりな小説など色あせて見えるほどである。ロマンスここに極まれり、という感じだ。もしかしたら、この本でロマンスを堪能してしまったから、他のロマンス小説が読めなくなってしまったのかもしれない。
イタリアに行ったことはないが、イタリアの空や海の色はきっと、目もくらむほど鮮やかなのだろう。本を読み終えた今、まぶたの裏に残る激しく生きた女性たちの生のように。
大公妃ビアンカ・カペッロの回想録
ジュリア・デリ・アルビツィの話
エメラルド色の海
パリシーナ侯爵夫人の恋
ドン・ジュリオの悲劇
パンドルフォの冒険
フィリッポ伯の復讐
ヴェネツィアの女
女法王ジョヴァンナ
2005年03月11日
"BOOTLEG" Alex Shearer
MACMILLAN ISBN 033041562X
ある日、突然、チョコレート禁止令が出る。政権を握る健全健康党から出されたのだ。禁止されたのはチョコレートだけではない。甘いものすべてだ。甘いものの中で食べていいのはプルーンやらさくさくりんごやらバナナだけ。
監視の車が巡回し、家々を点検する。学校にも監視官が見回りに来てお弁当の中身まで点検する。違反したものは再教育キャンプに送られる。それだけではない。健全健康党の下部組織「若き開拓者」らが学校内や級友たちの動向を逐一監視しているのだ。
そんな中で、スマッジャーとハントレーは志を同じくする大人たちとともにチョコレート復活に立ち上がる!
ハラハラドキドキしながら読める本。おもしろいけど怖い、怖いけどどこかおかしいお話。
恐れを知らないスマッジャーと慎重なハントレー、ふたりの性格の違いが徐々にあぶり出されてくる。パン屋の息子で小さい妹のいるスマッジャーと、早くに父を亡くし、医者である母と暮らすハントレー。ふたりの両親もまた、ちらっと出てくるだけではあるが、それぞれになかなかいい感じである。
回りの大人たちの中でも、少女のような雰囲気を残すお菓子屋さんのおばちゃんバビーさん、古本屋のおっちゃんブレーズさんがいい味を出している。
あとがきがお洒落。ほのかな懐かしささえ感じさせつつ、最後までにんまり笑わせてくれた。
続きを読む
ある日、突然、チョコレート禁止令が出る。政権を握る健全健康党から出されたのだ。禁止されたのはチョコレートだけではない。甘いものすべてだ。甘いものの中で食べていいのはプルーンやらさくさくりんごやらバナナだけ。
監視の車が巡回し、家々を点検する。学校にも監視官が見回りに来てお弁当の中身まで点検する。違反したものは再教育キャンプに送られる。それだけではない。健全健康党の下部組織「若き開拓者」らが学校内や級友たちの動向を逐一監視しているのだ。
そんな中で、スマッジャーとハントレーは志を同じくする大人たちとともにチョコレート復活に立ち上がる!
ハラハラドキドキしながら読める本。おもしろいけど怖い、怖いけどどこかおかしいお話。
恐れを知らないスマッジャーと慎重なハントレー、ふたりの性格の違いが徐々にあぶり出されてくる。パン屋の息子で小さい妹のいるスマッジャーと、早くに父を亡くし、医者である母と暮らすハントレー。ふたりの両親もまた、ちらっと出てくるだけではあるが、それぞれになかなかいい感じである。
回りの大人たちの中でも、少女のような雰囲気を残すお菓子屋さんのおばちゃんバビーさん、古本屋のおっちゃんブレーズさんがいい味を出している。
あとがきがお洒落。ほのかな懐かしささえ感じさせつつ、最後までにんまり笑わせてくれた。
続きを読む
2005年03月04日
"WHITE TEETH" Zadie Smith (訳:小竹由美子)
原書で読みかけていたのですが、どうも読みとれていないような気がしたので、図書館で翻訳書を借り併読しています。翻訳書で読んでみても、原書で読んだときと同じ解釈しかできないのだけど……。わたしの読み方が変なのだろうか、と、ちょっと考え込んでいます。
優柔不断で冴えないアーチーと、バングラディシュ出身で誇り高いムスリム、サマード。戦場で出会った二人の奇妙な友情を軸に、年若い妻たち、異国で生まれ育った子どもたち、そして、彼らの回りのさまざまな人々が描かれています。
アーチーの妻クララはジャマイカ出身、クララの母は熱心なエホバの証人。民族も宗教もそれぞれ違う人々が悲喜こもごもの人生模様を繰り広げます。これって、舞台はロンドンよね、と、確認したくなるほどです。 混沌、猥雑、そんな言葉がぴったりきます。
英国文学というより、エスニック文学といった方が適切かもしれません。カズオ・イシグロに代表されるような、陰影やちょっと皮肉な笑いではなく、原色、哄笑の世界。歯をむき出し、という感じかな。
翻訳上下2巻のうち、上巻を読み終えたところで、ちょっとなじめないものを感じました。あまりにナマっぽいので。それはそれで、おもしろいのですけどね。 別に上品ぶるつもりはありませんが、正直言って、このあたりで、モンゴメリか、ピルチャーでも読みたい気分になっています。
アブナイ遺伝子工学者、イスラム原理主義者……一体どうなるのだろう、とハラハラしつつ迎えた終章の見事なカタストロフ! 文句を言っていたわたしまで、ぐいぐい引き込んでいったお手並みは、これが24歳の筆によるものかと思うと、息を呑むばかりです。本を閉じたあと、鳥肌が立ちました。そのあまりの才能に、現代を切り取るそのあまりの才筆に!
でも、わたしには、この本をいきなり原書で読むのは、やはり無理だったと思います。テーマが広すぎて、大きすぎて何が何やら、で終わってしまったことでしょう。結局、字面を追うだけになっていたと思います。
翻訳で読んで圧倒されましたが、次はこの本を原書で読んで、今度はじっくりと噛みしめてみたいと思います。2度目のお楽しみというところでしょうか? ぶっ飛びたい方にはお薦めかも?
追記
優柔不断で冴えないアーチーと、バングラディシュ出身で誇り高いムスリム、サマード。戦場で出会った二人の奇妙な友情を軸に、年若い妻たち、異国で生まれ育った子どもたち、そして、彼らの回りのさまざまな人々が描かれています。
アーチーの妻クララはジャマイカ出身、クララの母は熱心なエホバの証人。民族も宗教もそれぞれ違う人々が悲喜こもごもの人生模様を繰り広げます。これって、舞台はロンドンよね、と、確認したくなるほどです。 混沌、猥雑、そんな言葉がぴったりきます。
英国文学というより、エスニック文学といった方が適切かもしれません。カズオ・イシグロに代表されるような、陰影やちょっと皮肉な笑いではなく、原色、哄笑の世界。歯をむき出し、という感じかな。
翻訳上下2巻のうち、上巻を読み終えたところで、ちょっとなじめないものを感じました。あまりにナマっぽいので。それはそれで、おもしろいのですけどね。 別に上品ぶるつもりはありませんが、正直言って、このあたりで、モンゴメリか、ピルチャーでも読みたい気分になっています。
アブナイ遺伝子工学者、イスラム原理主義者……一体どうなるのだろう、とハラハラしつつ迎えた終章の見事なカタストロフ! 文句を言っていたわたしまで、ぐいぐい引き込んでいったお手並みは、これが24歳の筆によるものかと思うと、息を呑むばかりです。本を閉じたあと、鳥肌が立ちました。そのあまりの才能に、現代を切り取るそのあまりの才筆に!
でも、わたしには、この本をいきなり原書で読むのは、やはり無理だったと思います。テーマが広すぎて、大きすぎて何が何やら、で終わってしまったことでしょう。結局、字面を追うだけになっていたと思います。
翻訳で読んで圧倒されましたが、次はこの本を原書で読んで、今度はじっくりと噛みしめてみたいと思います。2度目のお楽しみというところでしょうか? ぶっ飛びたい方にはお薦めかも?
追記
"THE NOTEBOOK" Nicholas Sparks
老人ホームらしき施設。かすかに聞こえる泣き声。わたしはその部屋に入り、ベッドの傍らに座り、ノートを広げる。
1946年秋。軍隊から帰ったノアは、ふるさとノースカロライナの豊かな自然に抱かれて、犬のクレムと静かな生活を送っていた。その胸に今も刻まれているのは、17歳の夏を共に過ごした初恋のひと、アリーの面影だった。
ノアの住むニューバーンに夏を過ごしに来たアリーはノアと出会い、二人は一目で恋に落ちる。めくるめく夏の日々。だが、夏が終わり、アリーは街に帰る。
アリーは裕福な家庭のお嬢様。家族は貧しいノアとの恋愛を冷ややかに見ていた。ノアが書いた手紙にも返事がないまま時は過ぎていき、ノアはニュージャージーで職を見つけ、そして、戦争へ。その間もノアはアリーの面影を抱き続けていた。
そんなノアの前に再びあらわれたアリー。アリーは有能な弁護士と婚約し、結婚式を間近に控えていた。二人は……。
一応純愛ものなのでしょうけど、ヒロインのアリーがどうも身勝手に思われて入り込めません。結婚が決まってから昔の恋人が住む街を訪れる、その気持ちはわかるけど、でも、会ってどうするというのでしょう? どういう結果になるにしろ、それで自分の気は済むかもしれませんが、昔の恋人も婚約者もどちらも傷つくのに……。これってルール違反じゃない? 想いを封じ込めて生きる方がオトナの選択じゃない? 親に決められた婚約などではなく、自分で選んだ相手を苦しめるようなことをどうしてしてしまうのだろう? それって、自分が選んだことに責任を持たないということ?
ほんとの自分を大事にしたいという気持ちもわかる。だけど、そのためにだれかを、自分を愛してくれる人を傷つけてもいいものだろうか? 自分が選んだ生活の中で自分を生かしていくことは可能だと思うし、もしそうできなければ、そして、どうしてもその生活が自分らしくないと思うなら、一人で暮らすことを選ぶ。自分を大切にしたいなら、それぞれくらいの覚悟と気迫は必要なのではないだろうか? 身勝手なわたしが言うのもなんですけど(^^;)、はっきり言ってこのヒロイン、キライです。
ノアは詩が好きでカヌーが好きな心優しい青年です。自然描写の美しさは胸が痛くなるほど見事です。二人の気持ちの動きもとても繊細に描かれているので、まだ許せますけど(許してほしいなんてだれも言ってない)、そうでなければ投げ出していたでしょう。うーん、最後まで読んだら、また違う目で見られるのかな? "A Walk to Remember"は、ちょっとお涙頂戴的なところもあったけど、若い二人の恋がけれん味なく描かれていてそれなりに読後感もよかったのだけど、この作品はちょっと……。
どうもわたし、純愛ものとか感動ものとか、ダメみたいです(^^;)
病気がわかってからのアリーは立派でしたが、いいなと思ったのはそこだけでした。
愛に生きるのもいいけれど、他に自分を賭けるものはないのかとかと考えてしまいました。そんなふうに思うのは、役者ならば舞台で死ぬというような、そんな死に方にあこがれているせいかもしれません。
死ぬ前には家族の写真だけではなく、自分がなし遂げたもの――できれば形になっているもの――を見たい、わたしはそう思っています。
確かに「愛の奇跡」なのでしょうけど"love""beatiful"の連発には食傷いたしました。作家ならば、そのものズバリの単語を連発するのではなく、他の表現で読者に"love""beatiful"を感じさせてほしい――求めすぎでしょうか? わたしの悪い癖なのですが、どうしてヘルパーさんを雇って自宅で過ごせなかったのかなとか、夫婦で暮らせる部屋はなかったのかなと考えたり……症状にもよりますし、今ならまた事情は変わっているかもしれませんが……そんなところにばかり目が行ってしまいました。
何もここまで難癖をつけなくてもいいと思ってはいるのですが……。この本がお好きな方、ごめんなさいね。 きっと感動するだろうと期待して読んだのがいけなかったのかな?
たぶん、もうSparksは読まないだろうと思います。
続きを読む
1946年秋。軍隊から帰ったノアは、ふるさとノースカロライナの豊かな自然に抱かれて、犬のクレムと静かな生活を送っていた。その胸に今も刻まれているのは、17歳の夏を共に過ごした初恋のひと、アリーの面影だった。
ノアの住むニューバーンに夏を過ごしに来たアリーはノアと出会い、二人は一目で恋に落ちる。めくるめく夏の日々。だが、夏が終わり、アリーは街に帰る。
アリーは裕福な家庭のお嬢様。家族は貧しいノアとの恋愛を冷ややかに見ていた。ノアが書いた手紙にも返事がないまま時は過ぎていき、ノアはニュージャージーで職を見つけ、そして、戦争へ。その間もノアはアリーの面影を抱き続けていた。
そんなノアの前に再びあらわれたアリー。アリーは有能な弁護士と婚約し、結婚式を間近に控えていた。二人は……。
一応純愛ものなのでしょうけど、ヒロインのアリーがどうも身勝手に思われて入り込めません。結婚が決まってから昔の恋人が住む街を訪れる、その気持ちはわかるけど、でも、会ってどうするというのでしょう? どういう結果になるにしろ、それで自分の気は済むかもしれませんが、昔の恋人も婚約者もどちらも傷つくのに……。これってルール違反じゃない? 想いを封じ込めて生きる方がオトナの選択じゃない? 親に決められた婚約などではなく、自分で選んだ相手を苦しめるようなことをどうしてしてしまうのだろう? それって、自分が選んだことに責任を持たないということ?
ほんとの自分を大事にしたいという気持ちもわかる。だけど、そのためにだれかを、自分を愛してくれる人を傷つけてもいいものだろうか? 自分が選んだ生活の中で自分を生かしていくことは可能だと思うし、もしそうできなければ、そして、どうしてもその生活が自分らしくないと思うなら、一人で暮らすことを選ぶ。自分を大切にしたいなら、それぞれくらいの覚悟と気迫は必要なのではないだろうか? 身勝手なわたしが言うのもなんですけど(^^;)、はっきり言ってこのヒロイン、キライです。
ノアは詩が好きでカヌーが好きな心優しい青年です。自然描写の美しさは胸が痛くなるほど見事です。二人の気持ちの動きもとても繊細に描かれているので、まだ許せますけど(許してほしいなんてだれも言ってない)、そうでなければ投げ出していたでしょう。うーん、最後まで読んだら、また違う目で見られるのかな? "A Walk to Remember"は、ちょっとお涙頂戴的なところもあったけど、若い二人の恋がけれん味なく描かれていてそれなりに読後感もよかったのだけど、この作品はちょっと……。
どうもわたし、純愛ものとか感動ものとか、ダメみたいです(^^;)
病気がわかってからのアリーは立派でしたが、いいなと思ったのはそこだけでした。
愛に生きるのもいいけれど、他に自分を賭けるものはないのかとかと考えてしまいました。そんなふうに思うのは、役者ならば舞台で死ぬというような、そんな死に方にあこがれているせいかもしれません。
死ぬ前には家族の写真だけではなく、自分がなし遂げたもの――できれば形になっているもの――を見たい、わたしはそう思っています。
確かに「愛の奇跡」なのでしょうけど"love""beatiful"の連発には食傷いたしました。作家ならば、そのものズバリの単語を連発するのではなく、他の表現で読者に"love""beatiful"を感じさせてほしい――求めすぎでしょうか? わたしの悪い癖なのですが、どうしてヘルパーさんを雇って自宅で過ごせなかったのかなとか、夫婦で暮らせる部屋はなかったのかなと考えたり……症状にもよりますし、今ならまた事情は変わっているかもしれませんが……そんなところにばかり目が行ってしまいました。
何もここまで難癖をつけなくてもいいと思ってはいるのですが……。この本がお好きな方、ごめんなさいね。 きっと感動するだろうと期待して読んだのがいけなかったのかな?
たぶん、もうSparksは読まないだろうと思います。
続きを読む
"MACBETH" William Shakespeare
ERC古典読書会で読みました。
原書で読む初めてのシェイクスピア作品。Penguin Classicsの分厚い本を買ったので解説には事欠かないのですが、脚注までは読んでいません(^^;) Hamlet、Othello、King Learも収録されています。
第一幕を読んでみました。戯曲というものもほとんど読んだことがないので(日本語でも)慣れるまでちょっと大変そうです。Thyとかは"Anne of Green Gables"でよく出てきたので(アンはこんな言葉づかいが好きなのです)とっつきにくいわけではないのだけど。 やっぱり翻訳書を手元に置いておく方がよさそうです(^^;) "
どうもイメージがわかないので、福田恒存訳(新潮文庫)を参考にしながら読んでいます。少しずつ舞台が見えてきたような気がしますが……。 これは、先に舞台を見た方がいいかもしれません。図書館にビデオがあるといいのだけど……。
福田恒存訳(新潮文庫)を読んでから原書に戻りました。どうにか絵が出てくるところまでこぎつけました(^^;) 古語というのでしょうか? これ何? と考えながら読まなくてはいけないので、ちょっと肩が凝ります。 というわけなので、一字一句、味わいながら読んでいます。じっくり読みながら少しずつ入り込んでいく、そしてまた読み返すのだろうと思いつつ、読んでいます。
前に書いた『若草物語』にも、また、今読んでいる『神学校の死』にもマクベスが登場しています。やっぱり必読なのですね、シェイクスピア。
どうにか読了しましたが、味わうという段階ではなく、解読していたというのが正直なところです。そんなレベルではありましたが、それでも4幕、5幕の緊迫感はぞくぞくするほどでした。剣がぶつかり合う音まで聞こえてくるようでした。
魔女の言葉に幻惑されて手を汚し、そして破滅していくマクベス夫妻。人はこんなふうに壊れていくのか、と暗澹たる気持ちに襲われました。魔女の言葉にこだわるマクベスは、人間の弱さを怖ろしいほど露呈しているのですね。怖かった!
その一方で、大衆受けしそうだとも思いました。怖ろしげな魔女に亡霊、チャンバラとでも言えそうな活劇っぽい戦闘場面。観衆のざわめきや興奮、ため息まで計算しているように感じました。
シェイクスピアを原文で読んだというだけで、わたしも興奮してしまっています。よくわからないところも多々ありますが、うん、やっぱりおもしろいね! というのが、今の感想です。
原書で読む初めてのシェイクスピア作品。Penguin Classicsの分厚い本を買ったので解説には事欠かないのですが、脚注までは読んでいません(^^;) Hamlet、Othello、King Learも収録されています。
第一幕を読んでみました。戯曲というものもほとんど読んだことがないので(日本語でも)慣れるまでちょっと大変そうです。Thyとかは"Anne of Green Gables"でよく出てきたので(アンはこんな言葉づかいが好きなのです)とっつきにくいわけではないのだけど。 やっぱり翻訳書を手元に置いておく方がよさそうです(^^;) "
どうもイメージがわかないので、福田恒存訳(新潮文庫)を参考にしながら読んでいます。少しずつ舞台が見えてきたような気がしますが……。 これは、先に舞台を見た方がいいかもしれません。図書館にビデオがあるといいのだけど……。
福田恒存訳(新潮文庫)を読んでから原書に戻りました。どうにか絵が出てくるところまでこぎつけました(^^;) 古語というのでしょうか? これ何? と考えながら読まなくてはいけないので、ちょっと肩が凝ります。 というわけなので、一字一句、味わいながら読んでいます。じっくり読みながら少しずつ入り込んでいく、そしてまた読み返すのだろうと思いつつ、読んでいます。
前に書いた『若草物語』にも、また、今読んでいる『神学校の死』にもマクベスが登場しています。やっぱり必読なのですね、シェイクスピア。
どうにか読了しましたが、味わうという段階ではなく、解読していたというのが正直なところです。そんなレベルではありましたが、それでも4幕、5幕の緊迫感はぞくぞくするほどでした。剣がぶつかり合う音まで聞こえてくるようでした。
魔女の言葉に幻惑されて手を汚し、そして破滅していくマクベス夫妻。人はこんなふうに壊れていくのか、と暗澹たる気持ちに襲われました。魔女の言葉にこだわるマクベスは、人間の弱さを怖ろしいほど露呈しているのですね。怖かった!
その一方で、大衆受けしそうだとも思いました。怖ろしげな魔女に亡霊、チャンバラとでも言えそうな活劇っぽい戦闘場面。観衆のざわめきや興奮、ため息まで計算しているように感じました。
シェイクスピアを原文で読んだというだけで、わたしも興奮してしまっています。よくわからないところも多々ありますが、うん、やっぱりおもしろいね! というのが、今の感想です。
『学寮祭の夜』 ドロシー・L・セイヤーズ 浅羽莢子訳 創元推理文庫
この本を選んだのは、わたしが元寮生だったからというだけのことなのですが――もちろん、この本の舞台になっているオクスフォードとかそんなんではなく――おもしろいです!
オクスフォードの女子カレッジが舞台、これだけでも十分惹かれます。そして、人物がいい! 探偵小説作家のハリエットの気の強さもいいし、対するピーター卿も完璧にわたしの好みです(^^;)
カレッジでのさまざまな学生たちの姿、学問に生きる女たちの姿が生き生きと描かれています。寮の門限や規則など、読んでいるうちに学生時代にかえったような気がしてきます。
かなり古い作品らしく(1935年刊行)章の初めに引用されている文章は日本語でも理解できているかどうか……。英語で読めるかな? 読んでみたいけど、ちょっと無理かな?
舞台設定こそ古めかしいけれども、現代にも通じる問題を提起しています。ピーター卿とどのようにかかわっていくかというハリエットの悩みは、今も同じ悩みをいだいている人がいるように思えてきます。
知と情、そのあり方。学問の世界に生きる女たちに向けられる偏見。それはそのまま、知的なことに関心を持つ女たち、ひいては本を読む女たちに今も向けられている、そんな気がします。 これが1935年の作品だということに驚いています。
「悪意の手紙」物と言えばいいのでしょうか。謎解きの章では何とも言えない恐怖を感じました。
ついでながら、これほど風雅ではなかったのですが、大学生活への郷愁もかき立てられてしまいました。学衣に学帽、学餐、この雰囲気、いいですね〜。 テムズでの舟遊び、憧れますね〜。
人物がみな生き生きと描写されていました。ハリエットもピーター卿もとても魅力的です。惚れてしまいそうです(^^;)
ずっしりと読みごたえがあり、あとに何かが残る作品でした。セイヤーズ、すばらしい作家です。
オクスフォードの女子カレッジが舞台、これだけでも十分惹かれます。そして、人物がいい! 探偵小説作家のハリエットの気の強さもいいし、対するピーター卿も完璧にわたしの好みです(^^;)
カレッジでのさまざまな学生たちの姿、学問に生きる女たちの姿が生き生きと描かれています。寮の門限や規則など、読んでいるうちに学生時代にかえったような気がしてきます。
かなり古い作品らしく(1935年刊行)章の初めに引用されている文章は日本語でも理解できているかどうか……。英語で読めるかな? 読んでみたいけど、ちょっと無理かな?
舞台設定こそ古めかしいけれども、現代にも通じる問題を提起しています。ピーター卿とどのようにかかわっていくかというハリエットの悩みは、今も同じ悩みをいだいている人がいるように思えてきます。
知と情、そのあり方。学問の世界に生きる女たちに向けられる偏見。それはそのまま、知的なことに関心を持つ女たち、ひいては本を読む女たちに今も向けられている、そんな気がします。 これが1935年の作品だということに驚いています。
「悪意の手紙」物と言えばいいのでしょうか。謎解きの章では何とも言えない恐怖を感じました。
ついでながら、これほど風雅ではなかったのですが、大学生活への郷愁もかき立てられてしまいました。学衣に学帽、学餐、この雰囲気、いいですね〜。 テムズでの舟遊び、憧れますね〜。
人物がみな生き生きと描写されていました。ハリエットもピーター卿もとても魅力的です。惚れてしまいそうです(^^;)
ずっしりと読みごたえがあり、あとに何かが残る作品でした。セイヤーズ、すばらしい作家です。
『五匹の赤い鰊』ドロシー・L・セイヤーズ
スコットランドの芸術家たちの集まる村で、嫌われ者のキャンベルが殺された。二転三転する証言、込み入ったアリバイ。ピーター・ウィムジイ卿の推理はいかに!
時刻表でアリバイを崩していく本格ミステリ。(という言い方でいいのだろうか?)だれがいつどこにいたっけというのがわかりにくくてちょっとつらい。 じっくりと練り込まれ、構築されているミステリ。そして、豊富な引用! いつものことだが、日本語で読んでもピンとこない自分が悲しい。
容疑者全員の性格をきちんととらえ、行動を把握しながら読むのは一苦労である。どこまでとらえられているかは疑問。再読の必要あり!
ピーター卿の持って回ったような軽口と、忠実なる執事バンターが、いい味を出している。ピーター卿は横から見ている分には最高におもしろい。一緒にいるとちと鼻持ちならないだろうけど(^^;) でも、ほんとはふるふる震えるような繊細な心の持ち主なのだろうと思う。
原題 "THE FIVE RED HERRINGS" 赤い鰊"red herring"とは「ニセの手がかり」の意とのこと。
時刻表でアリバイを崩していく本格ミステリ。(という言い方でいいのだろうか?)だれがいつどこにいたっけというのがわかりにくくてちょっとつらい。 じっくりと練り込まれ、構築されているミステリ。そして、豊富な引用! いつものことだが、日本語で読んでもピンとこない自分が悲しい。
容疑者全員の性格をきちんととらえ、行動を把握しながら読むのは一苦労である。どこまでとらえられているかは疑問。再読の必要あり!
ピーター卿の持って回ったような軽口と、忠実なる執事バンターが、いい味を出している。ピーター卿は横から見ている分には最高におもしろい。一緒にいるとちと鼻持ちならないだろうけど(^^;) でも、ほんとはふるふる震えるような繊細な心の持ち主なのだろうと思う。
原題 "THE FIVE RED HERRINGS" 赤い鰊"red herring"とは「ニセの手がかり」の意とのこと。
『暗闇のなかで』 レイチェル・シーファー 高瀬素子訳
"THE DARK ROOM" Rachel Seiffert
ドイツを舞台に、第2次世界大戦時、戦後まもなく、そして現在。3つの時代を写真が結びつける。
1921年ベルリンで一人の男の子が生まれる。男の子の名はヘルムート。戦争の足音が近づくが、右腕に障害を持って生まれたヘルムートは兵役に就くことができない。ヘルムートが自分らしく生きられる唯一の場所、それは写真を現像するための暗室だった。
1945年。ローレの両親は5人の子どもを残して捕虜となる。母の言いつけに従い、ローレは、妹のリーゼ、双子の男の子ユリとヨッヘンに乳飲み子のペーターを連れて、ドイツ南部のババリアから祖母の住む北部ハンブルクまで、占領下のドイツを縦断する旅に出る。過酷な旅の途中、トーマスと名乗る青年に助けられる。トーマスは何者なのか? そして、ローレたちはハンブルクに着くことができるのだろうか?
1997年。英語教師ミヒャエルは、武装 SSだった祖父が何をしたのか突きとめるため、祖父の写真を手に祖父の駐屯先であるベラルーシに向かう。戦時中に見たことを話してもらおうと、村人コレニスクを訪ねるが、すげなく追い返される。村で起こったこととは……。そして、明らかにされたのは……。
ヘルムートの章では、戦時下のドイツの人々の生活が淡々と描かれていました。歴史的な事件であっても、当事者にとってはただの一こまだったのかもしれない、そんなことを考えさせられた。
ローレの章。ババリアからハンブルクまでは約500キロとのこと。鉄道ならばさほどの距離ではないのだけど、各国の軍に占領された当時のドイツでは、過酷な旅だった。まして乳飲み子を抱えて子どもだけでなんて……。
一番しんどかったのはミヒャエルの章だった。祖父が何をしたのかを突きとめずにはいられない気持ち、だけど、いざその場に立ってみると、知るのが恐い。忘れたい傷をほじくり返すようなことをしていいのかという自問を繰り返すミヒャエル。
直接自分が手を下したのではないけれど、知らないふりをして済ませるわけにはいかない歴史の現実……。一言でいえば「負の遺産」なのだが、その一言の重みを痛いほどに突きつけられた。
ドイツを舞台に、第2次世界大戦時、戦後まもなく、そして現在。3つの時代を写真が結びつける。
1921年ベルリンで一人の男の子が生まれる。男の子の名はヘルムート。戦争の足音が近づくが、右腕に障害を持って生まれたヘルムートは兵役に就くことができない。ヘルムートが自分らしく生きられる唯一の場所、それは写真を現像するための暗室だった。
1945年。ローレの両親は5人の子どもを残して捕虜となる。母の言いつけに従い、ローレは、妹のリーゼ、双子の男の子ユリとヨッヘンに乳飲み子のペーターを連れて、ドイツ南部のババリアから祖母の住む北部ハンブルクまで、占領下のドイツを縦断する旅に出る。過酷な旅の途中、トーマスと名乗る青年に助けられる。トーマスは何者なのか? そして、ローレたちはハンブルクに着くことができるのだろうか?
1997年。英語教師ミヒャエルは、武装 SSだった祖父が何をしたのか突きとめるため、祖父の写真を手に祖父の駐屯先であるベラルーシに向かう。戦時中に見たことを話してもらおうと、村人コレニスクを訪ねるが、すげなく追い返される。村で起こったこととは……。そして、明らかにされたのは……。
ヘルムートの章では、戦時下のドイツの人々の生活が淡々と描かれていました。歴史的な事件であっても、当事者にとってはただの一こまだったのかもしれない、そんなことを考えさせられた。
ローレの章。ババリアからハンブルクまでは約500キロとのこと。鉄道ならばさほどの距離ではないのだけど、各国の軍に占領された当時のドイツでは、過酷な旅だった。まして乳飲み子を抱えて子どもだけでなんて……。
一番しんどかったのはミヒャエルの章だった。祖父が何をしたのかを突きとめずにはいられない気持ち、だけど、いざその場に立ってみると、知るのが恐い。忘れたい傷をほじくり返すようなことをしていいのかという自問を繰り返すミヒャエル。
直接自分が手を下したのではないけれど、知らないふりをして済ませるわけにはいかない歴史の現実……。一言でいえば「負の遺産」なのだが、その一言の重みを痛いほどに突きつけられた。
"THE CATCHER IN THE RYE" J.D.Salinger
三つ目の高校を放校された十六歳のホールデン・コールフィールドが、ニューヨークをさまよった後、妹のいる自宅に帰る――。ストーリーとしては、これだけです。
この間のホールデンの思いが、ため息をつきながらつぶやいているような文体、ちょっと皮肉っぽい眼差しで描かれています。口汚い罵りの言葉の間から、傷つきやすい柔らかな心が見え隠れしています。
ホールデンは、いかにも何不自由なく育ったぼんぼん、物をなくしても平気だし、おつりをもらい忘れる、安っぽいスーツケースなんか見るのもいや。寂しがり屋だけど、呼び出してわざわざ来てくれた人を片端から怒らせている。いやなヤツですね、こういうところは。
きょうだいに対する愛情は深く、特に、白血病のため十三歳で亡くなった弟アリー、まだ十歳の妹フィービーには一方ならぬ思い入れがあるようです。
さすらいの過程でのホールデンの言動には、やりすぎじゃないかと思うところもありますが、フィービー、そして アントリーニ先生が登場してからは、一気に読ませます。
回転木馬のシーンは、つらくなるほど切なく心に残ります。
人との距離をうまくとれないもどかしさ、じれったさ。それでも、なお……。思春期だけではなく、年経てからもこんな思いを抱く人は少なくないでしょう。
この作品からは、死の匂いが濃厚に漂ってきます。そして、喪失。何かを失うこと。無垢な自分を失うこと。世の中との、また、人との関わりをなくしていくこと。
うまくは言えませんが――この作品が読まれてきた理由が少しわかってきたような気がします。
訳書は野崎孝氏訳と、今話題になっている村上春樹氏訳。関連書もいろいろあります。さまざまな視点から読み解いていくことができるというところが、この本の魅力かもしれません。
この間のホールデンの思いが、ため息をつきながらつぶやいているような文体、ちょっと皮肉っぽい眼差しで描かれています。口汚い罵りの言葉の間から、傷つきやすい柔らかな心が見え隠れしています。
ホールデンは、いかにも何不自由なく育ったぼんぼん、物をなくしても平気だし、おつりをもらい忘れる、安っぽいスーツケースなんか見るのもいや。寂しがり屋だけど、呼び出してわざわざ来てくれた人を片端から怒らせている。いやなヤツですね、こういうところは。
きょうだいに対する愛情は深く、特に、白血病のため十三歳で亡くなった弟アリー、まだ十歳の妹フィービーには一方ならぬ思い入れがあるようです。
さすらいの過程でのホールデンの言動には、やりすぎじゃないかと思うところもありますが、フィービー、そして アントリーニ先生が登場してからは、一気に読ませます。
回転木馬のシーンは、つらくなるほど切なく心に残ります。
人との距離をうまくとれないもどかしさ、じれったさ。それでも、なお……。思春期だけではなく、年経てからもこんな思いを抱く人は少なくないでしょう。
この作品からは、死の匂いが濃厚に漂ってきます。そして、喪失。何かを失うこと。無垢な自分を失うこと。世の中との、また、人との関わりをなくしていくこと。
うまくは言えませんが――この作品が読まれてきた理由が少しわかってきたような気がします。
訳書は野崎孝氏訳と、今話題になっている村上春樹氏訳。関連書もいろいろあります。さまざまな視点から読み解いていくことができるというところが、この本の魅力かもしれません。
"A BEND IN THE ROAD" Nicholas Sparks
高校時代からの愛を実らせて結婚したマイルズとミッシー。愛児ヨナに恵まれ、幸せいっぱいに見えた2人だったが、ある夜、ミッシーはひき逃げされて亡くなる。悲しみに打ちのめされながら、保安官でもあるマイルズは犯人捜しに奔走するが、手がかりがつかめないまま、二年が過ぎた。
母の死後、勉強に身が入らず、夜中に叫ぶようになったヨナ。ヨナの担任であるサラは、離婚して両親の住む町へ帰ってきたところだった。つらい過去を背負うマイルズとサラは、ヨナを仲立ちとして、少しずつ心を通わせていく。そして、明らかにされた真相とは――。
イタリックで書かれた文章が何とも意味ありげで、不気味である。
ロマンスからミステリーへ移るあたりが少しだれていた。その分、最後でもっと一人一人の思いが書き込まれていたら、もっと迫ってくるものがあったのではないかと思う。一人一人にとってのA Bend in the Roadの意味がもう少し突き詰められていれば、ラストシーンがもっと心に訴えてくるものになったのではないだろうか。
ミステリ仕立てのロマンスといったところだろうか。ハラハラドキドキしながらも心の中に温かいものが残るところが、Sparksらしい読後感と言えそうだ。
Cobenの"TELL NO ONE"と共通するものがあるが、わたしはこちらの方が読後感がよいので好き。
母の死後、勉強に身が入らず、夜中に叫ぶようになったヨナ。ヨナの担任であるサラは、離婚して両親の住む町へ帰ってきたところだった。つらい過去を背負うマイルズとサラは、ヨナを仲立ちとして、少しずつ心を通わせていく。そして、明らかにされた真相とは――。
イタリックで書かれた文章が何とも意味ありげで、不気味である。
ロマンスからミステリーへ移るあたりが少しだれていた。その分、最後でもっと一人一人の思いが書き込まれていたら、もっと迫ってくるものがあったのではないかと思う。一人一人にとってのA Bend in the Roadの意味がもう少し突き詰められていれば、ラストシーンがもっと心に訴えてくるものになったのではないだろうか。
ミステリ仕立てのロマンスといったところだろうか。ハラハラドキドキしながらも心の中に温かいものが残るところが、Sparksらしい読後感と言えそうだ。
Cobenの"TELL NO ONE"と共通するものがあるが、わたしはこちらの方が読後感がよいので好き。
"A WALK TO REMEMBER" Nicholas Sparks
57歳のわたし、ランドン・カーターは、40年前、17歳だったときのことを思い出していた。あの年、わたしの人生は変わった。
ぼんぼん育ちと言えそうなランドンと、聖書をいつも持って歩いている地味な女の子ジャミーとの物語。
どこにでもありそうな学校生活ですが、みずみずしく描かれているので、引き込まれていきます。いろいろな事件を経て、二人の心が少しずつ近づいていくところは、キュンとしてきます。
最後の方で結末は予想できるのですが、けれん味のない作風と主人公たちの性格がさわやかなので、素直に感動できます。
ひとを信じることに疲れたときにお薦めです。
ぼんぼん育ちと言えそうなランドンと、聖書をいつも持って歩いている地味な女の子ジャミーとの物語。
どこにでもありそうな学校生活ですが、みずみずしく描かれているので、引き込まれていきます。いろいろな事件を経て、二人の心が少しずつ近づいていくところは、キュンとしてきます。
最後の方で結末は予想できるのですが、けれん味のない作風と主人公たちの性格がさわやかなので、素直に感動できます。
ひとを信じることに疲れたときにお薦めです。
2005年01月14日
『ケルトの白馬』 ローズマリー・サトクリフ 灰島かり訳 ほるぷ出版
"SUN HORSE,MOON HORSE" Rosemary Sutcliff ISBN; 4593533775
紀元前1世紀、イギリス南部丘陵地帯には馬を飼育する「馬族」イケニ族が穏やかな暮らしを営んでいた。一族を治める族長ティナガンには妻サバと双子の息子ブラッチとコフィル、双子より2歳年下のルブリンがいた。ルブリンの肌は褐色で髪は黒かった。
5歳になったルブリンは父の戦車に乗せられて馬の大移動を見る。その中に1頭の白馬がいた。稲光に照らされた白い炎のような馬の姿は、ルブリンの心にしっかりと焼きつけられた。
その秋、妹が生まれ、テルリと名づけられた。イケニ族では、族長の後継ぎとなるのは族長の娘と結婚した男である。「世継ぎの姫」の誕生を祝う宴の席でルブリンと双子の兄たちがとっくみあいを始めたとき、ケンカを止めるため、男の子が飛び込んできた。直属戦士の隊長ドロクマイルの息子ダラだった。この日、ルブリンとダラは自分たちが深い絆で結ばれているのを知った。ふたりはいつの日か、若者たちを率いて北の国に行くのを夢見ていた。
母サバが亡くなり、テルリの婿選びの儀式が行われた。婿に選ばれたのはダラだった。族長となる定めのダラは部族を離れることはできない。ふたりの夢は砕け散った。
イケニの習わしに従い、14歳となったテルリとダラの婚礼の儀式が営まれた。その宴のさなか、急使が駆け込む。南からアトレバテース族が攻めてきたのだ。砦を守るため、ルブリンは女、子ども、年寄りとともに残れと父から命じられた。
戦いは終わった。圧倒的な戦力を持つアトレバテース族がイケニ族を征服した。新たに丘砦の長となったクラドックはルブリンに、丘の斜面に馬の絵を描くことを命じる。一族の生き残りの解放を条件に、ルブリンはその命を受ける。
ルブリンがつけた目印に沿ってイケニ族の人々は芝土をはがしとり、白亜の地層が露出するまで地面を掘り下げた。丘の上に真っ白な馬の姿が現れた。
約束の日が来た。イケニ族の人々は馬を連れて北へ向かった。一人残ったルブリンは族長の息子としての使命を静かに果たす。
サトクリフの歴史物はおもしろいと聞いて、いつかは読みたいと思っていた。子どもと一緒に図書館に行ったとき、児童書の棚に並んでいた中から、一番気になる題名の本を手にとった。それがこの『ケルトの白馬』である。
表紙は一面の緑の中に刻まれた真っ白な馬。躍動感にあふれたこの馬は一体いつの時代のものなんだろう? だれが描いたのだろう?
「はじめに」によると、これはバークシャ丘陵地帯のアフィントンにある白馬の地上絵で、紀元前1世紀ごろ古代ケルト人によって描かれたものだという。この地上絵に魅せられていたサトクリフは、T・C・レスブリッジの『魔女』"WITCHES"に触発されてこの作品を書いたという。古代ケルト人の魂の叫びが聞こえてくるかのように思えてくる作品である。
賢者が女神の言葉を聞くときのしきたり――薬草酒を飲んだ一族の祭司が神聖な場所に行き、彼らの偉大な母である馬の女神エポナからの託宣を受ける――など、『大地の子エイラ』につながるものを感じた。また、イケニ族を母系制社会としているところに興味を覚えた。日本でも卑弥呼がそうであったように、古代社会では一族を束ねる役割は女から女へと受け継がれてきたのではないかと、わたしも考えている。
ローズマリー・サトクリフの作品には、『第九軍団のワシ』、『ともしびをかかげて』(1959年度カーネギーメダル受賞)、『運命の騎士』3部作等がある。
紀元前1世紀、イギリス南部丘陵地帯には馬を飼育する「馬族」イケニ族が穏やかな暮らしを営んでいた。一族を治める族長ティナガンには妻サバと双子の息子ブラッチとコフィル、双子より2歳年下のルブリンがいた。ルブリンの肌は褐色で髪は黒かった。
5歳になったルブリンは父の戦車に乗せられて馬の大移動を見る。その中に1頭の白馬がいた。稲光に照らされた白い炎のような馬の姿は、ルブリンの心にしっかりと焼きつけられた。
その秋、妹が生まれ、テルリと名づけられた。イケニ族では、族長の後継ぎとなるのは族長の娘と結婚した男である。「世継ぎの姫」の誕生を祝う宴の席でルブリンと双子の兄たちがとっくみあいを始めたとき、ケンカを止めるため、男の子が飛び込んできた。直属戦士の隊長ドロクマイルの息子ダラだった。この日、ルブリンとダラは自分たちが深い絆で結ばれているのを知った。ふたりはいつの日か、若者たちを率いて北の国に行くのを夢見ていた。
母サバが亡くなり、テルリの婿選びの儀式が行われた。婿に選ばれたのはダラだった。族長となる定めのダラは部族を離れることはできない。ふたりの夢は砕け散った。
イケニの習わしに従い、14歳となったテルリとダラの婚礼の儀式が営まれた。その宴のさなか、急使が駆け込む。南からアトレバテース族が攻めてきたのだ。砦を守るため、ルブリンは女、子ども、年寄りとともに残れと父から命じられた。
戦いは終わった。圧倒的な戦力を持つアトレバテース族がイケニ族を征服した。新たに丘砦の長となったクラドックはルブリンに、丘の斜面に馬の絵を描くことを命じる。一族の生き残りの解放を条件に、ルブリンはその命を受ける。
ルブリンがつけた目印に沿ってイケニ族の人々は芝土をはがしとり、白亜の地層が露出するまで地面を掘り下げた。丘の上に真っ白な馬の姿が現れた。
約束の日が来た。イケニ族の人々は馬を連れて北へ向かった。一人残ったルブリンは族長の息子としての使命を静かに果たす。
サトクリフの歴史物はおもしろいと聞いて、いつかは読みたいと思っていた。子どもと一緒に図書館に行ったとき、児童書の棚に並んでいた中から、一番気になる題名の本を手にとった。それがこの『ケルトの白馬』である。
表紙は一面の緑の中に刻まれた真っ白な馬。躍動感にあふれたこの馬は一体いつの時代のものなんだろう? だれが描いたのだろう?
「はじめに」によると、これはバークシャ丘陵地帯のアフィントンにある白馬の地上絵で、紀元前1世紀ごろ古代ケルト人によって描かれたものだという。この地上絵に魅せられていたサトクリフは、T・C・レスブリッジの『魔女』"WITCHES"に触発されてこの作品を書いたという。古代ケルト人の魂の叫びが聞こえてくるかのように思えてくる作品である。
賢者が女神の言葉を聞くときのしきたり――薬草酒を飲んだ一族の祭司が神聖な場所に行き、彼らの偉大な母である馬の女神エポナからの託宣を受ける――など、『大地の子エイラ』につながるものを感じた。また、イケニ族を母系制社会としているところに興味を覚えた。日本でも卑弥呼がそうであったように、古代社会では一族を束ねる役割は女から女へと受け継がれてきたのではないかと、わたしも考えている。
ローズマリー・サトクリフの作品には、『第九軍団のワシ』、『ともしびをかかげて』(1959年度カーネギーメダル受賞)、『運命の騎士』3部作等がある。
「おれの魂の友よ」ダラが言った。「りんごの聖樹の地で、おれを待っていてくれ。あすかもしれない、あるいは北の国で多くの戦士の長となり、年老いて馬にも乗れず、刀も持てなくなってからのことかもしれない。でも必ずおまえのところに帰るから、それまで待っていてくれ。おまえをいつも思っているから、おれを忘れないでくれ」186ページ