ISBN: 4152085959
9.11から半年がたとうとしている2002年3月。恋人のジャーナリスト、モレリがアフガニスタンへ取材に発ち、寂しさと不安を隠せないヴィクことV・I・ウォーショースキーのもとへ長年の顧客ダロウ・グレアムから依頼が来る。郊外の高級住宅地にグレアム家が所有していた邸宅ラーチモント館に不審者が侵入している気配があるので調査してほしいという。
鬱屈していたヴィクは早速深夜ラーチモント館に潜入するが、そこでバックパックを背負った少女に出くわす。少女を追ったヴィクは足を滑らせ、池に落ちる。水草につかまろうとしたヴィクがつかんだのは人間の手だった――。
ラーチモント館の池で死んでいたのは、気鋭の黒人ジャーナリスト、マーカス・ウィットビー。マーカスは1930年代にローズヴェルト大統領が始めた連邦劇場プロジェクトにかかわっていた黒人女性舞踏家カイリー・バレンタインについての本を書くため、関係者に取材し、資料を収集していた。
折しも、保守派を代表する著名人、オリン・タヴァナーが退職者ホームの自室で死んでいるのが発見される。
ラーチモント館でヴィクが出会った少女は、シカゴきっての名門女子校ヴァイナ・フィールズ学園に通うキャサリン・ベイヤードだった。学園では、台所で働いていたエジプト人少年ベンジャミンが失踪し、FBIがその行方を追っていた。
調査を進める中で、ヴィクは、この事件の裏に1950年代から1960年代にかけて全米を吹き荒れた「赤狩り」が関係していることに気づく。
「赤狩り」――1947年10月、非米活動委員会第1回公聴会に始まる大々的な反共キャンペーン。ブラックリストに載せられること、それは破滅を意味していた。
アメリカでは、9.11のわずか1カ月半後に愛国者法(the Patriot Act)が成立し、テロ容疑がかかった場合、弁明のいとまもなく、逮捕される事態が起こりうることとなった。エジプト人少年ベンジャミンもまた、イスラム教徒であるがゆえに、身に覚えがなくても「テロ容疑者」としてFBIに追われていたのである。
黒人ジャーナリストの死から始まる捜査は、かつてのブラック・リスト、そして現代のブラック・リストとの対峙をも余儀なくさせる。
豪壮な邸宅に住む人々から野心的なジャーナリスト、皿洗いの少年ら、さまざまな階層、民族の人々を取り巻く嵐の中で、ヴィクは池に潜り、廃墟となった屋敷の洗面所の窓から飛びおりるという、超人的な活躍を見せてくれる。
そして、キャサリンを追い、北へ向かったヴィクが見たものは――。
魔女狩りの様相を呈し始めた現代アメリカ社会にサラ・パレツキーが抱いている憂いがストレートに伝わってくる。ヴィクとともに駆け回る中で、容赦なく人を断罪する恐ろしさが実感される。そして、抱き続けた恋慕と憎悪、早すぎる恋の切なさに、ページを置いたあと、しばし考え込んでしまった。
時代の流れの中で人としてどうあるのかということまで考えさせる渾身の作。
2004年CWA賞ゴールド・ダガー受賞。

