St.Martin's Paperbacks
ピルチャーの短篇が14篇収録されています。"THE BLUE BEDROOM & OTHER STORIES"と続けて読むと、ある程度設定が読めてしまいますが、それでも読ませてしまうのは作家の筆力ゆえなのでしょうね。
たわいないお話が多いのですが、読んでいるときの気持ちによって、ぐっと心にしみてくることがあります。今回、わたしは、'Last Morning'に泣かされました。息子の結婚式の朝、思い出の海岸を母と息子が歩く、ただそれだけのお話なのですが、しばらく涙が止まりませんでした。
ほっとしたいとき、紅茶とマフィンをおともにお楽しみください。
"FAMILY HONOR" Robert B. Parker
Berkley Books 320p
父と同じ警官の道を歩んだサニー・ランデルは、ギャングの息子リッチーとの9年間にわたる結婚生活を解消し、今は私立探偵の仕事をしながら、画家としての修業にも励んでいる。相棒はイングリッシュ・ブル・テリアのロージー。
サニーのもとに、裕福なパットン夫妻から行方不明になった15歳のひとり娘ミリセントを探してほしいという依頼が来る。警察に知られないようにと念を押す夫妻の言動をいぶかしく思いつつも、サニーは調査を始める。友人らの協力を得てサニーはミリセントを見つけるが、ミリセントは家に帰ろうとしない。サニーはミリセントとともに暮らしつつ、ミリセントが抱える家族の問題を探ろうとする。
私立探偵がなにやらいわくありげな思春期の子どもとともに暮らし、その子の自立を促しつつ謎に迫っていくという構成は、同じ著者の作品で先に読んだスペンサー・シリーズ"EARLY AUTUMN" をしのばせるが、似ていながらも雰囲気の違いを感じるのは主人公である探偵の個性の違いであろう。
いかにもハードボイルドらしく苦み走ったスペンサーとは異なり、ときおり心の揺れを隠せないサニーには等身大の女性としての親近感を覚える。何か問いかけられても醒めた答えしかできず肩をすくめるミリセントは"EARLY AUTUMN"に登場する少年ポールを思い起こさせる。親を信じることができず、回りの大人たちから何も教えてもらえなかったミリセントに、サニーはひとりの人間として、また、女性として、自立して生きていくとはどういうことかを身をもって伝えようとする。その真摯なあり方を見ていると、思春期の娘を持つ親として、我が身を省みずにはいられなくなった。続けて読んでいきたいシリーズである。
父と同じ警官の道を歩んだサニー・ランデルは、ギャングの息子リッチーとの9年間にわたる結婚生活を解消し、今は私立探偵の仕事をしながら、画家としての修業にも励んでいる。相棒はイングリッシュ・ブル・テリアのロージー。
サニーのもとに、裕福なパットン夫妻から行方不明になった15歳のひとり娘ミリセントを探してほしいという依頼が来る。警察に知られないようにと念を押す夫妻の言動をいぶかしく思いつつも、サニーは調査を始める。友人らの協力を得てサニーはミリセントを見つけるが、ミリセントは家に帰ろうとしない。サニーはミリセントとともに暮らしつつ、ミリセントが抱える家族の問題を探ろうとする。
私立探偵がなにやらいわくありげな思春期の子どもとともに暮らし、その子の自立を促しつつ謎に迫っていくという構成は、同じ著者の作品で先に読んだスペンサー・シリーズ"EARLY AUTUMN" をしのばせるが、似ていながらも雰囲気の違いを感じるのは主人公である探偵の個性の違いであろう。
いかにもハードボイルドらしく苦み走ったスペンサーとは異なり、ときおり心の揺れを隠せないサニーには等身大の女性としての親近感を覚える。何か問いかけられても醒めた答えしかできず肩をすくめるミリセントは"EARLY AUTUMN"に登場する少年ポールを思い起こさせる。親を信じることができず、回りの大人たちから何も教えてもらえなかったミリセントに、サニーはひとりの人間として、また、女性として、自立して生きていくとはどういうことかを身をもって伝えようとする。その真摯なあり方を見ていると、思春期の娘を持つ親として、我が身を省みずにはいられなくなった。続けて読んでいきたいシリーズである。
"EARLY AUTUMN" Robert B. Parker
Dell Publishing 221p
ボストンに事務所を構える私立探偵スペンサーは、ゴージャスな装いに身を包んだ女性パティ・ジャコミンから、離婚した夫メルの元から15歳になる息子ポールを取り戻してほしいという依頼を受ける。スペンサーはすぐ行動に出、翌日ポールをパティの元に連れて行くが、母子の再会というにはあまりによそよそしい雰囲気が漂っていることに不審を抱く。何をきかれても自分の意思を表せず、肩をすくめるだけのポール。
3ヶ月後、パティからまた電話が入る。今度は、メルが強引にポールを取り戻そうとしているので、ボディガードとして住み込んでほしいという。ポールが気になるスペンサーはパティの依頼を引き受けるが、パティが誘拐され、ポールを返せと脅迫される。スペンサーの友人ホークの協力を得てすんでのところで脱出するが、身の危険を感じたパティは、しばらくの間、ポールを預かってほしいとスペンサーに頼む。スペンサーは、ポールをメイン州の山小屋に伴う。
ランニングにウエイトリフティング、そしてキャビンの建設。そんな中で少しずつポールは変わっていく。スペンサーとホークはメルとパティの身辺を探り、ボストンへ、ニューヨークへと赴く。メルとパティは何を隠しているのか? そしてポールは?
スペンサー・シリーズ第7作。少年の成長を描いたハードボイルド。スペンサーの恋人スーザン、謎めいた相棒ホークとのやりとりが軽妙。ボストンの町を歩く楽しみも味わえる。
スペンサーがなぜそこまでポールに入れ込むのかは今ひとつよくわからなかったが、誰にも愛されずに育ち、無気力だった少年が少しずつ自分の意志を表せるようになる過程には、いろいろ考えさせられた。
ぼんやりとテレビを見て時間をつぶし、何をきかれても肩をすくめるだけだったポールが「自律せよ」とスペンサーに言われたとき、初めて涙を見せる。その涙はおそらく、生まれて初めてだれかから愛されたことに気づいたからではないかと思う。スペンサーが自分をモノとしてでなくひとりの人間としてとらえ、正面からぶつかってきたとき、ポールはその奥にある愛情を感じ取ることができたのだろう。
子どもを巡るさまざまな問題が取りざたされる現在、子どもにとって何が必要か、何が幸福かを考えさせてくれる物語である。
ボストンに事務所を構える私立探偵スペンサーは、ゴージャスな装いに身を包んだ女性パティ・ジャコミンから、離婚した夫メルの元から15歳になる息子ポールを取り戻してほしいという依頼を受ける。スペンサーはすぐ行動に出、翌日ポールをパティの元に連れて行くが、母子の再会というにはあまりによそよそしい雰囲気が漂っていることに不審を抱く。何をきかれても自分の意思を表せず、肩をすくめるだけのポール。
3ヶ月後、パティからまた電話が入る。今度は、メルが強引にポールを取り戻そうとしているので、ボディガードとして住み込んでほしいという。ポールが気になるスペンサーはパティの依頼を引き受けるが、パティが誘拐され、ポールを返せと脅迫される。スペンサーの友人ホークの協力を得てすんでのところで脱出するが、身の危険を感じたパティは、しばらくの間、ポールを預かってほしいとスペンサーに頼む。スペンサーは、ポールをメイン州の山小屋に伴う。
ランニングにウエイトリフティング、そしてキャビンの建設。そんな中で少しずつポールは変わっていく。スペンサーとホークはメルとパティの身辺を探り、ボストンへ、ニューヨークへと赴く。メルとパティは何を隠しているのか? そしてポールは?
スペンサー・シリーズ第7作。少年の成長を描いたハードボイルド。スペンサーの恋人スーザン、謎めいた相棒ホークとのやりとりが軽妙。ボストンの町を歩く楽しみも味わえる。
スペンサーがなぜそこまでポールに入れ込むのかは今ひとつよくわからなかったが、誰にも愛されずに育ち、無気力だった少年が少しずつ自分の意志を表せるようになる過程には、いろいろ考えさせられた。
ぼんやりとテレビを見て時間をつぶし、何をきかれても肩をすくめるだけだったポールが「自律せよ」とスペンサーに言われたとき、初めて涙を見せる。その涙はおそらく、生まれて初めてだれかから愛されたことに気づいたからではないかと思う。スペンサーが自分をモノとしてでなくひとりの人間としてとらえ、正面からぶつかってきたとき、ポールはその奥にある愛情を感じ取ることができたのだろう。
子どもを巡るさまざまな問題が取りざたされる現在、子どもにとって何が必要か、何が幸福かを考えさせてくれる物語である。
"ALONG CAME A SPIDER" James Patterson
WarnerBooks ISBN: 0446364193 502p
ワシントンDCで幼い男の子を含む黒人一家の遺体が発見された日、名門小学校で誘拐事件が起きた。ハリウッド女優の娘マギー・ローズと財務長官の息子マイケルが、算数教師ソーネジに連れ去られ、行方がわからなくなったのだ。ワシントン市警刑事で心理学専門家でもあるアレックス・クロスは親友であり同僚でもあるサンプソンとともに、誘拐事件の捜査に当たる。
物語の展開はスピーディで、人物がしっかり描かれ、一気に読ませる作品である。主人公アレックスは興味をそそる人物だ。アレックスは心理学専門家でもある刑事というだけでなく、ピアノを愛する男でもある。妻は3年前に射殺され、男やもめとなったアレックスは6歳の息子、4歳の娘、育ての親ともいえる祖母とともに暮らしている。アレックスと離婚歴のあるシークレット・サービス幹部ジェジーとの絡み、少しずつ明らかになるソネージの過去など、読みどころ満載である。緊迫した捜査の合間に描かれるアレックスの子煩悩ぶりやサンプソンとの友情に心が和む。
アレックス・クロス・シリーズ第1作。サスペンス、ロマンスにじんとくる場面をうまく絡ませているところに、読者を楽しませる手腕の巧みさを感じる。パタースンの作品を読んだのは初めてだが、これからも追いかけていきたいシリーズである。
『多重人格殺人者』という題名で翻訳出版されており、『スパイダー』という題名で映画化もされている。
このシリーズの題名にはマザーグースが用いられている。題名にこだわる作家さんなのだろうか。引用されているフレーズがどのように物語と関わってくるかも読みどころのひとつといえるだろう。
ワシントンDCで幼い男の子を含む黒人一家の遺体が発見された日、名門小学校で誘拐事件が起きた。ハリウッド女優の娘マギー・ローズと財務長官の息子マイケルが、算数教師ソーネジに連れ去られ、行方がわからなくなったのだ。ワシントン市警刑事で心理学専門家でもあるアレックス・クロスは親友であり同僚でもあるサンプソンとともに、誘拐事件の捜査に当たる。
物語の展開はスピーディで、人物がしっかり描かれ、一気に読ませる作品である。主人公アレックスは興味をそそる人物だ。アレックスは心理学専門家でもある刑事というだけでなく、ピアノを愛する男でもある。妻は3年前に射殺され、男やもめとなったアレックスは6歳の息子、4歳の娘、育ての親ともいえる祖母とともに暮らしている。アレックスと離婚歴のあるシークレット・サービス幹部ジェジーとの絡み、少しずつ明らかになるソネージの過去など、読みどころ満載である。緊迫した捜査の合間に描かれるアレックスの子煩悩ぶりやサンプソンとの友情に心が和む。
アレックス・クロス・シリーズ第1作。サスペンス、ロマンスにじんとくる場面をうまく絡ませているところに、読者を楽しませる手腕の巧みさを感じる。パタースンの作品を読んだのは初めてだが、これからも追いかけていきたいシリーズである。
『多重人格殺人者』という題名で翻訳出版されており、『スパイダー』という題名で映画化もされている。
このシリーズの題名にはマザーグースが用いられている。題名にこだわる作家さんなのだろうか。引用されているフレーズがどのように物語と関わってくるかも読みどころのひとつといえるだろう。
2006年09月22日
"THE BLUE BEDROOM AND OTHER STORIES" Rosamunde Pilcher
"THE BLUE BEDROOM AND OTHER STORIES" Rosamunde Pilcher
St.Matin's Paperback ISBN: 0312926286
ピルチャーの短編が13編収録されている。生と死をテーマとしていても、ピルチャーの筆致は優しく、温かい。いずれもほんのりと和める作品である。夜寝る前や疲れたときに一つずつ読んでいきたい本である。ピルチャー入門に最適である。
この本だけ読んでいても十分楽しめるが、ピルチャーの他の作品を読んでいると、違った趣が感じられるように思う。この本を読む前に読んでいた第2次世界大戦を背景とした長篇"COMING HOME"に出てくる人物を思い浮かべて切なくなったり、他の作品に出てくる同じ名前の人物を懐かしく思い起こしたりしていた。
クリフで読書会が予定されているので、内容についてはのちほど書くつもりである。
Toby
Home for the Day
Spanish Ladies
Miss Cameron at Christmas
Tea With the Professor
Amita
The Blue Bedroom
Gilbert
The Before-Christmas Present
The White Birds
The Tree
The house on the Hill
An Evening to Remember
St.Matin's Paperback ISBN: 0312926286
ピルチャーの短編が13編収録されている。生と死をテーマとしていても、ピルチャーの筆致は優しく、温かい。いずれもほんのりと和める作品である。夜寝る前や疲れたときに一つずつ読んでいきたい本である。ピルチャー入門に最適である。
この本だけ読んでいても十分楽しめるが、ピルチャーの他の作品を読んでいると、違った趣が感じられるように思う。この本を読む前に読んでいた第2次世界大戦を背景とした長篇"COMING HOME"に出てくる人物を思い浮かべて切なくなったり、他の作品に出てくる同じ名前の人物を懐かしく思い起こしたりしていた。
クリフで読書会が予定されているので、内容についてはのちほど書くつもりである。
Toby
Home for the Day
Spanish Ladies
Miss Cameron at Christmas
Tea With the Professor
Amita
The Blue Bedroom
Gilbert
The Before-Christmas Present
The White Birds
The Tree
The house on the Hill
An Evening to Remember
2006年07月18日
"COMING HOME" Rosamunde Pilcher
St.Martin's Paperbacks ISBN: 0312958129
1935年、コーンウォールで暮らすジュディスは14歳。母と妹がセイロン(現スリランカ)で働く父の元へ戻るため、ひとり英国に残るジュディスは通い慣れた公立学校を離れて私立学校の寄宿生になる。
寄宿舎でジュディスは、ケアリ=ルイス家の次女ラヴデイと親しくなり、休暇にはケアリ=ルイス家の屋敷ナンチェロウで家族のように過ごすようになる。華やかな暮らし、そして初恋――。だが、背後には戦争の足音がひたひたと忍び寄っていた。
暗い時代に生きた人々の姿が細やかに優しく描かれている。1000ページ近い大作であるが、冗漫さはなく、作品の世界にひたりながら一息に読んだ。
日本人として読むのがつらい部分もあった。日本軍が東南アジアで何をしたかについてはろくに知らないことに、改めて気づかされた。戦争の終結を祝う場面では、戦勝国と敗戦国という立場の違いをまざまざと見せつけられたような気がした。ふだん、日本人であることを意識することなどろくにないのに……。改めて戦争について考えさせられた。ことしの終戦記念日は、いつもとは違う思いで過ごすことになりそうだ。
単なる少女の成長物語というより戦争と人間について考えさせられる重い作品だが、後味はよく、とてもすぐれた作品である。好みからいうと、"WINTER SOLSTICE" の首位は揺るがず、次に"COMING HOME"、"THE SHELL SEEKERS"である。短篇集も読んでみたいが、この作品のあとだと、快くはあっても物足りないかもしれない。
先に読まれていたribbonさんからリクエストをいただいて、クリフの読書会として読んだ。気になっていた作品ではあるが、読書会をしなければずっと先延ばしにしていたと思う。ribbonさんから、とてもいいきっかけをいただいた。一緒に読めて楽しかった。ribbonさん、ありがとう!
1935年、コーンウォールで暮らすジュディスは14歳。母と妹がセイロン(現スリランカ)で働く父の元へ戻るため、ひとり英国に残るジュディスは通い慣れた公立学校を離れて私立学校の寄宿生になる。
寄宿舎でジュディスは、ケアリ=ルイス家の次女ラヴデイと親しくなり、休暇にはケアリ=ルイス家の屋敷ナンチェロウで家族のように過ごすようになる。華やかな暮らし、そして初恋――。だが、背後には戦争の足音がひたひたと忍び寄っていた。
暗い時代に生きた人々の姿が細やかに優しく描かれている。1000ページ近い大作であるが、冗漫さはなく、作品の世界にひたりながら一息に読んだ。
日本人として読むのがつらい部分もあった。日本軍が東南アジアで何をしたかについてはろくに知らないことに、改めて気づかされた。戦争の終結を祝う場面では、戦勝国と敗戦国という立場の違いをまざまざと見せつけられたような気がした。ふだん、日本人であることを意識することなどろくにないのに……。改めて戦争について考えさせられた。ことしの終戦記念日は、いつもとは違う思いで過ごすことになりそうだ。
単なる少女の成長物語というより戦争と人間について考えさせられる重い作品だが、後味はよく、とてもすぐれた作品である。好みからいうと、"WINTER SOLSTICE" の首位は揺るがず、次に"COMING HOME"、"THE SHELL SEEKERS"である。短篇集も読んでみたいが、この作品のあとだと、快くはあっても物足りないかもしれない。
先に読まれていたribbonさんからリクエストをいただいて、クリフの読書会として読んだ。気になっていた作品ではあるが、読書会をしなければずっと先延ばしにしていたと思う。ribbonさんから、とてもいいきっかけをいただいた。一緒に読めて楽しかった。ribbonさん、ありがとう!
2006年02月13日
『十六歳の闇』アン・ペリー 冨永和子訳 集英社文庫
"BLUEGATE FIELDS" Anne Perry
ISBN: 4087604535
ヴィクトリア朝ロンドン。スラム街ブルーゲイトフィールズを流れる下水道で少年の遺体が発見された。検屍の結果、良家の子息とおぼしきその少年は梅毒に感染していたことが明らかにされた。遺体は准男爵家の嫡男で16歳になるアーサー・ウェイボーンと判明、アセルスタン署長の命を受け、ギリブレイ巡査部長とともにトーマス・ピットが捜査に当たる。まもなくウェイボーン家の家庭教師モーリス・ジェロームが容疑者として挙げられ、裁判にかけられるが、納得のいかないピットは悶々とした日々を送る。悩むピットを見かねた妻シャーロットは妹エミリーやエミリーの義理の大伯母ヴェスペイシア・カミング=グールドの力を借りて、真相を突きとめようとする。そして、明らかになった真実とは――。
ヴィクトリア朝を舞台とするミステリ。貴族の猟場管理人の息子として生まれたトーマス・ピットと裕福な銀行家を父に持つ3人姉妹の次女で、独立心旺盛な妻シャーロット。シャーロットの姉が殺害された事件でふたりは知り合い、階層の違いを乗り越えて結ばれます。シャーロットの妹エミリーは伯爵家に嫁ぎ、妹を通じてシャーロットは貴族社会に深く入り込み、ピットの捜査を助けます。なかでも、エミリーの義理の大伯母ヴェスペイシアは、シャーロットとって大事な助け手となっています。ふたりが遭遇する事件を通して、ヴィクトリア朝ロンドンの光と影が見えてきます。歴史ミステリの楽しさを堪能させてくれるシリーズです。
ただ、どこか不安定な感じがあるのが気になります。それは、ピットとシャーロット夫妻の関係からきているのか、ピットの性格からきているのか、時代的なものなのか、作者の作風なのかがちょっとわかりません。ピットとシャーロット夫妻、仲はいいのですが、互いに相手に気を使いすぎているような感じがします。そのうち、大変なことになりはしないかという懸念がなぜかぬぐい切れません。
作者アン・ペリーは1938年ロンドン生まれ。自身、ある殺人事件の当事者であるという特異な背景の持ち主です。本作はトーマス・ピット警部シリーズの6作目、第1作は『カーター通りのハングマン』。他に記憶喪失の警官モンクを主人公とするシリーズがあります。こちらもおもしろそうです。
ISBN: 4087604535
ヴィクトリア朝ロンドン。スラム街ブルーゲイトフィールズを流れる下水道で少年の遺体が発見された。検屍の結果、良家の子息とおぼしきその少年は梅毒に感染していたことが明らかにされた。遺体は准男爵家の嫡男で16歳になるアーサー・ウェイボーンと判明、アセルスタン署長の命を受け、ギリブレイ巡査部長とともにトーマス・ピットが捜査に当たる。まもなくウェイボーン家の家庭教師モーリス・ジェロームが容疑者として挙げられ、裁判にかけられるが、納得のいかないピットは悶々とした日々を送る。悩むピットを見かねた妻シャーロットは妹エミリーやエミリーの義理の大伯母ヴェスペイシア・カミング=グールドの力を借りて、真相を突きとめようとする。そして、明らかになった真実とは――。
ヴィクトリア朝を舞台とするミステリ。貴族の猟場管理人の息子として生まれたトーマス・ピットと裕福な銀行家を父に持つ3人姉妹の次女で、独立心旺盛な妻シャーロット。シャーロットの姉が殺害された事件でふたりは知り合い、階層の違いを乗り越えて結ばれます。シャーロットの妹エミリーは伯爵家に嫁ぎ、妹を通じてシャーロットは貴族社会に深く入り込み、ピットの捜査を助けます。なかでも、エミリーの義理の大伯母ヴェスペイシアは、シャーロットとって大事な助け手となっています。ふたりが遭遇する事件を通して、ヴィクトリア朝ロンドンの光と影が見えてきます。歴史ミステリの楽しさを堪能させてくれるシリーズです。
ただ、どこか不安定な感じがあるのが気になります。それは、ピットとシャーロット夫妻の関係からきているのか、ピットの性格からきているのか、時代的なものなのか、作者の作風なのかがちょっとわかりません。ピットとシャーロット夫妻、仲はいいのですが、互いに相手に気を使いすぎているような感じがします。そのうち、大変なことになりはしないかという懸念がなぜかぬぐい切れません。
作者アン・ペリーは1938年ロンドン生まれ。自身、ある殺人事件の当事者であるという特異な背景の持ち主です。本作はトーマス・ピット警部シリーズの6作目、第1作は『カーター通りのハングマン』。他に記憶喪失の警官モンクを主人公とするシリーズがあります。こちらもおもしろそうです。
2006年01月27日
『ラスコの死角』リチャード・N・パタースン 小林宏明訳
"THE LASCO TANGENT" ハヤカワ・ミステリ文庫 ISBN: 4150748527
1979年度MWA最優秀新人賞
経済犯罪対策委員会告発局の調査員、クリストファー・パジェットは、ラスコ・ディヴァイシズの株価操作をめぐる事件を調査していた。経営者ウィリアム・ラスコは大統領の友人であるが、実業界での評判は芳しくなかった。株価はどのように捜査され、金はどう動いたか。
重要な証拠を握っているかと思われた、ラスコ・ディヴァイシズの経理部長リーマンは、パジェットの目の前で轢き逃げされた。リーマンの自宅でパジェットは謎めいたメモを発見する。上司から圧力をかけられながらもパジェットは、委員会委員長補佐メアリ・ケアりとともに調査を続ける。
メモを頼りにオランダ領セント・マルテン島へ、ボストンへと駆け回るパジェットに危機が迫る!
先に読んだ『罪の段階』に概略が書かれていたので結末は知っていましたが、それでも十分楽しめました。最近の作品と比べてハードボイルド色が強く感じられますが、簡潔ながら透徹した心理描写は後の作品につながるものがあるように思います。デビュー作とは思えないほどの完成度の高さに驚かされます。
R・N・パタースンのファンなら必読の1冊、現在、入手困難であるのが惜しまれます。
1979年度MWA最優秀新人賞
経済犯罪対策委員会告発局の調査員、クリストファー・パジェットは、ラスコ・ディヴァイシズの株価操作をめぐる事件を調査していた。経営者ウィリアム・ラスコは大統領の友人であるが、実業界での評判は芳しくなかった。株価はどのように捜査され、金はどう動いたか。
重要な証拠を握っているかと思われた、ラスコ・ディヴァイシズの経理部長リーマンは、パジェットの目の前で轢き逃げされた。リーマンの自宅でパジェットは謎めいたメモを発見する。上司から圧力をかけられながらもパジェットは、委員会委員長補佐メアリ・ケアりとともに調査を続ける。
メモを頼りにオランダ領セント・マルテン島へ、ボストンへと駆け回るパジェットに危機が迫る!
先に読んだ『罪の段階』に概略が書かれていたので結末は知っていましたが、それでも十分楽しめました。最近の作品と比べてハードボイルド色が強く感じられますが、簡潔ながら透徹した心理描写は後の作品につながるものがあるように思います。デビュー作とは思えないほどの完成度の高さに驚かされます。
R・N・パタースンのファンなら必読の1冊、現在、入手困難であるのが惜しまれます。
『五輪の薔薇T〜X』チャールズ・パリサー 甲斐萬里江訳 ハヤカワ文庫
"THE QUINCUNX" Charles Paliser
ISBN: 4150410321 4150410356 4150410380 4150410402 4150410410
19世紀初頭の英国。鄙びた郊外の村で少年ジョンは母とともに暮らしていた。ある日、ジョンは、通りかかった豪華な馬車の紋章に、自宅の銀器にあるのと同じ「五輪の薔薇」が描かれているのを見つける。「五輪の薔薇」には、5つの家系の5代にわたる愛憎が秘められていた!
小難しい作品かと思っていましたが、おもしろいのなんの! これもディケンズ路線と呼ばれるものなのでしょうか? 時代設定は同じですけど。
冒頭の〈慣習法〉〈衡平法〉に面食らいましたが、ここは理解できてなくてもお話は十分楽しめます。もちろん、知っていればそれだけ楽しみも増すのでしょうけど。2005年には『薔薇の名前』も読みましたし、薔薇づいているのかな。
おもしろかったのだけど……オススメできるかというと、二の足踏んでしまいます。何かスッキリしないものが残るし、後味がさっぱりしないので。余韻にひたるという作品でもないようです。
続きを読む
ISBN: 4150410321 4150410356 4150410380 4150410402 4150410410
19世紀初頭の英国。鄙びた郊外の村で少年ジョンは母とともに暮らしていた。ある日、ジョンは、通りかかった豪華な馬車の紋章に、自宅の銀器にあるのと同じ「五輪の薔薇」が描かれているのを見つける。「五輪の薔薇」には、5つの家系の5代にわたる愛憎が秘められていた!
小難しい作品かと思っていましたが、おもしろいのなんの! これもディケンズ路線と呼ばれるものなのでしょうか? 時代設定は同じですけど。
冒頭の〈慣習法〉〈衡平法〉に面食らいましたが、ここは理解できてなくてもお話は十分楽しめます。もちろん、知っていればそれだけ楽しみも増すのでしょうけど。2005年には『薔薇の名前』も読みましたし、薔薇づいているのかな。
おもしろかったのだけど……オススメできるかというと、二の足踏んでしまいます。何かスッキリしないものが残るし、後味がさっぱりしないので。余韻にひたるという作品でもないようです。
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2005年10月13日
『ベストセラー「殺人」事件』エリザベス・ピーターズ著 田村義道訳
"NAKED ONCE MORE" Elizabeth Peters
扶桑社ミステリー ISBN: 4594039448
『氷のなかに裸で』で一躍ベストセラー作家となったキャスリーン・ダーシーが謎めいた失踪を遂げてから7年、世間ではキャスリーンは事故もしくは自殺で亡くなったものとされていた。続編の出版が決まり、『氷のなかに裸で』の大ファンだったジャクリーン・カービーが執筆者に抜擢される。
司書からロマンス作家に転身したジャクリーンは、キャスリーンが暮らしていた町に住み、資料を調べ始める。そんなジャクリーンの身に不審な出来事が相次いで降りかかる。
ジャクリーンの光り物大好きコテコテぶりに最初は引いてしまったが、もしかしていい人かもと思い始めると、しっかり感情移入してしまったのには自分でも驚いた。正義を振りかざしたりはしないもののどこか強きをくじき弱気を守る侠気が感じられるところが、ツボにはまるのではないかという気がしている。アクの強さはあるが、かなりお気に入りのヒロインとなった。
他の作品も読んでみたいが、邦訳されているのは本作の他には『リチャード三世「殺人」事件』『ロマンス作家「殺人」事件』の2作だけらしい。あとは原書で読むしかなさそうだ。
本作には文学関係の蘊蓄がふんだんに盛られている。ブロンテ姉妹の作品が好きな人にはたまらないかも。キャスリーン・ダーシーという名前も、キャスリーンは『嵐が丘』のキャサリン(表記が違うと別人のような気がするが)、ダーシーはジェーン・オースティン『高慢と偏見』のダーシーから、そしてキャスリーンの兄セント・ジョン、これは『ジェーン・エア』からかな?
『氷のなかに裸で』の設定―先史時代が舞台で、ヒロインの名がエイラと来たら「大地の子エイラ」シリーズを思い浮かべるのだが、うがちすぎだろうか? 80年代半ばのベストセラーだから年代的には合いそうだけど。
扶桑社ミステリー ISBN: 4594039448
『氷のなかに裸で』で一躍ベストセラー作家となったキャスリーン・ダーシーが謎めいた失踪を遂げてから7年、世間ではキャスリーンは事故もしくは自殺で亡くなったものとされていた。続編の出版が決まり、『氷のなかに裸で』の大ファンだったジャクリーン・カービーが執筆者に抜擢される。
司書からロマンス作家に転身したジャクリーンは、キャスリーンが暮らしていた町に住み、資料を調べ始める。そんなジャクリーンの身に不審な出来事が相次いで降りかかる。
ジャクリーンの光り物大好きコテコテぶりに最初は引いてしまったが、もしかしていい人かもと思い始めると、しっかり感情移入してしまったのには自分でも驚いた。正義を振りかざしたりはしないもののどこか強きをくじき弱気を守る侠気が感じられるところが、ツボにはまるのではないかという気がしている。アクの強さはあるが、かなりお気に入りのヒロインとなった。
他の作品も読んでみたいが、邦訳されているのは本作の他には『リチャード三世「殺人」事件』『ロマンス作家「殺人」事件』の2作だけらしい。あとは原書で読むしかなさそうだ。
本作には文学関係の蘊蓄がふんだんに盛られている。ブロンテ姉妹の作品が好きな人にはたまらないかも。キャスリーン・ダーシーという名前も、キャスリーンは『嵐が丘』のキャサリン(表記が違うと別人のような気がするが)、ダーシーはジェーン・オースティン『高慢と偏見』のダーシーから、そしてキャスリーンの兄セント・ジョン、これは『ジェーン・エア』からかな?
『氷のなかに裸で』の設定―先史時代が舞台で、ヒロインの名がエイラと来たら「大地の子エイラ」シリーズを思い浮かべるのだが、うがちすぎだろうか? 80年代半ばのベストセラーだから年代的には合いそうだけど。
"SEPTEMBER" Rosamund Pilcher
St.Nartin's Paperbacks ISBN: 0312924801
お話は5月から始まります。
展開としては"WINTER SOLSTICE"に似てますね。さまざまな背景を持つ人々が、スコットランドで開かれるダンスパーティに各地から集まってくるという、言ってみればそれだけなのですが、それだけのお話をこれだけみっしり書いて読ませるというのは大したものだと思います。
"THE SHEEL SEEKERS"に出てくる人物がこの作品にも登場しています。"THE SHEEL SEEKERS"では、親の健康よりも遺産のことしか頭にない、いやな人物という印象でしたが、こちらではなかなかいい人物です。
そして、ある人物が"THE SHEEL SEEKERS"のヒロイン、ペネロープとの思い出を語ります。何だか"THE SHEEL SEEKERS"をもう一度読み返したくなりました。
"THE SHEEL SEEKERS"はペネロープが好きになれるかどうかで評価が分かれる作品のようですが、わたしはペネロープが好きなので――こんなふうに年齢を重ねられたらいいなという、あこがれの存在です――"THE SHEEL SEEKERS"もとても好きなのです。"THE SHEEL SEEKERS"ファンにはとても嬉しい設定です。
繊細な描写やゆったりと流れる時間の快さはこの作品でもたっぷりと味わえます。ペネロープほどではないけど、ヴァイオレットもまた、背筋のピンと伸びた女性です。若夫婦に屋敷を譲って自分は潔く小さな家に移り住むところもいいですね。ヴァイオレットの暖炉の上にスタッドフォードシャーの陶器の犬が置いてあったというあたり、とてもいい感じです。
陶器の犬
アレクサの恋心は初々しく、親子や夫婦の絆を感じさせてじんと来る場面もありましたが、どうも後味がよくありません。最後の方の展開がいやでした。エドモンドとヴァージニアに対するヴァイオレットの態度はわたしには理解できなかったし、ロッティーの扱われ方が納得できません。
うーん、やっぱり、わたしは"WINTER SOLSTICE"の方が好きだなあ……。
お話は5月から始まります。
展開としては"WINTER SOLSTICE"に似てますね。さまざまな背景を持つ人々が、スコットランドで開かれるダンスパーティに各地から集まってくるという、言ってみればそれだけなのですが、それだけのお話をこれだけみっしり書いて読ませるというのは大したものだと思います。
"THE SHEEL SEEKERS"に出てくる人物がこの作品にも登場しています。"THE SHEEL SEEKERS"では、親の健康よりも遺産のことしか頭にない、いやな人物という印象でしたが、こちらではなかなかいい人物です。
そして、ある人物が"THE SHEEL SEEKERS"のヒロイン、ペネロープとの思い出を語ります。何だか"THE SHEEL SEEKERS"をもう一度読み返したくなりました。
"THE SHEEL SEEKERS"はペネロープが好きになれるかどうかで評価が分かれる作品のようですが、わたしはペネロープが好きなので――こんなふうに年齢を重ねられたらいいなという、あこがれの存在です――"THE SHEEL SEEKERS"もとても好きなのです。"THE SHEEL SEEKERS"ファンにはとても嬉しい設定です。
繊細な描写やゆったりと流れる時間の快さはこの作品でもたっぷりと味わえます。ペネロープほどではないけど、ヴァイオレットもまた、背筋のピンと伸びた女性です。若夫婦に屋敷を譲って自分は潔く小さな家に移り住むところもいいですね。ヴァイオレットの暖炉の上にスタッドフォードシャーの陶器の犬が置いてあったというあたり、とてもいい感じです。
陶器の犬
アレクサの恋心は初々しく、親子や夫婦の絆を感じさせてじんと来る場面もありましたが、どうも後味がよくありません。最後の方の展開がいやでした。エドモンドとヴァージニアに対するヴァイオレットの態度はわたしには理解できなかったし、ロッティーの扱われ方が納得できません。
うーん、やっぱり、わたしは"WINTER SOLSTICE"の方が好きだなあ……。
2005年03月15日
『ダ・ヴィンチ・レガシー』 ルイス・パーデュー 中村有希訳
"THE DA VINCI LEGACY" Lewis Perdue
集英社文庫 2005.2.25発行 781円(税別) ISBN: 4087604829
地質学者ヴァンス・エリクソンはダ・ヴィンチ研究者としても広く知られていた。養父は名だたる石油会社、コンチネンタル・パシフィックのオーナー、ハリソン・キングズベリ。養父が入手したダ・ヴィンチの草稿の一部がすり替えられていることに気づいたヴァンスは消えた草稿の行方を追うが、行く先々で陰惨な殺人事件が起こり、ヴァンス自身も執拗に命を狙われる。その陰には不可解な国際結社と不気味な教団が見え隠れしていた。雑誌記者スーザンとともにヴァンスは、ミラノへ、コモ湖畔の別荘へ、そしてローマへと駆けめぐる!
ダ・ヴィンチが現代に残した「遺産」を巡る、手に汗握るサスペンス。
「80年代に書かれた歴史ミステリーの傑作がいま!」「手に汗握る展開と知的興奮が導く衝撃のクライマックス!」という宣伝に惹かれて手にとったが、、読んでみると「筋肉系冒険活劇」とでも言うべき作品だった。蘊蓄はないし(^^;)
さらに、訳者である中村有希さんもHR版あとがきで
>ミステリを期待されるとちょっと違うかも。謎解き要素はいっさいありません
と書かれているのを発見してがっくりきてしまった。
http://nakamura.whitesnow.jp/honnyaku/list/Da%20Vinci.html
「すり替えられた草稿の行方とそこに秘められた謎を追う」という点では十分ミステリだとわたしは考えているが、確かに謎解きというよりもアクション重視(それもB級ぽい)の作品である。『ダ・ヴィンチ・コード』との関連で話題にはなるかもしれないが、それだけで終わってしまいそう。
冒険活劇として読むなら、それなりにおもしろいとは思うが、それだけかも。
集英社文庫 2005.2.25発行 781円(税別) ISBN: 4087604829
地質学者ヴァンス・エリクソンはダ・ヴィンチ研究者としても広く知られていた。養父は名だたる石油会社、コンチネンタル・パシフィックのオーナー、ハリソン・キングズベリ。養父が入手したダ・ヴィンチの草稿の一部がすり替えられていることに気づいたヴァンスは消えた草稿の行方を追うが、行く先々で陰惨な殺人事件が起こり、ヴァンス自身も執拗に命を狙われる。その陰には不可解な国際結社と不気味な教団が見え隠れしていた。雑誌記者スーザンとともにヴァンスは、ミラノへ、コモ湖畔の別荘へ、そしてローマへと駆けめぐる!
ダ・ヴィンチが現代に残した「遺産」を巡る、手に汗握るサスペンス。
「80年代に書かれた歴史ミステリーの傑作がいま!」「手に汗握る展開と知的興奮が導く衝撃のクライマックス!」という宣伝に惹かれて手にとったが、、読んでみると「筋肉系冒険活劇」とでも言うべき作品だった。蘊蓄はないし(^^;)
さらに、訳者である中村有希さんもHR版あとがきで
>ミステリを期待されるとちょっと違うかも。謎解き要素はいっさいありません
と書かれているのを発見してがっくりきてしまった。
http://nakamura.whitesnow.jp/honnyaku/list/Da%20Vinci.html
「すり替えられた草稿の行方とそこに秘められた謎を追う」という点では十分ミステリだとわたしは考えているが、確かに謎解きというよりもアクション重視(それもB級ぽい)の作品である。『ダ・ヴィンチ・コード』との関連で話題にはなるかもしれないが、それだけで終わってしまいそう。
冒険活劇として読むなら、それなりにおもしろいとは思うが、それだけかも。
2005年03月04日
"VOICES IN SUMMER" Rosamunde Pilcher
穏やかな物語って、やっぱり好きです(*^_^*) 騒々しい『ホワイト・ティース』より、こちらの方がわたしにはあっているみたい。
子どもの頃に両親を亡くし、おばに育てられたローラは、離婚歴のあるアレックと結婚。アレックと元妻エリカの娘ガブリエルは、再婚したエリカとともにアメリカに住んでいる。
手術のため入院したローラは退院後、アレックのおじの住むコーンウォールのトレメンヒア荘で療養することになる。夫アレックは友人たちとスコットランドへ。アレックのおじジェラルド、妻イヴ、老いたナニーのメイ、イヴの連れ子イヴァン、イヴァンの女友達で幼いジョシュアの母でもあるドゥルシア、イヴの友人で夫を亡くしたシルヴィア……。 個性的な人々が次々と登場。それでも、時間はゆったりと流れていく。黄昏時、むせるような花の香り。ここで、ローラはどんな日々を過ごすのだろう。
イヴの友人シルヴィアのところに怪しい手紙が届く。誰が何のために?
そこへ表れたのは19歳になったアレックの娘ガブリエル。ガブリエルは……。そして、ローラとアレックは……。
ガブリエルは重要な役どころだった。まだ19歳なのにドラマティックな人生を送っている。幸せになって欲しいキャラである。
うーん、ゆったり読めたし、そこそこおもしろかったけど、わたしは"THE SHELL SEEKERS"の方が好きだし、作品としての出来もずっといいと思う。淡々とした描写はいいのだけど、後半3章での展開はちょっととってつけたようだし、怪しい手紙の事件の後味は悪いし。何とも陰険なものを感じる。
年かさの女性たちはなよなよし過ぎている。弱いから、寂しいからって、何をしても許されるわけじゃないし、めそめそ泣いていても何も解決しないと思うんだけど。
どうしても "THE SHELL SEEKERS"のペネロープと比べてしまう。ペネロープのしゃんと伸びた背筋、孤独を恐れない生き方がわたしは好きなんだなと、改めてそう思う。
まあ、いい夏休みを過ごしたという感じが残ったので、それでよしとしておこう。
"THE SHELL SEEKERS"と"VOICES IN SUMMER"、この2冊を読んでみて、わたしがピルチャーを好きなのは安直ないやしなどではなく、鋭く、しかも温かな人間観察なのだと思う。モンゴメリに惹かれているのも同じ理由からかもしれない。
子どもの頃に両親を亡くし、おばに育てられたローラは、離婚歴のあるアレックと結婚。アレックと元妻エリカの娘ガブリエルは、再婚したエリカとともにアメリカに住んでいる。
手術のため入院したローラは退院後、アレックのおじの住むコーンウォールのトレメンヒア荘で療養することになる。夫アレックは友人たちとスコットランドへ。アレックのおじジェラルド、妻イヴ、老いたナニーのメイ、イヴの連れ子イヴァン、イヴァンの女友達で幼いジョシュアの母でもあるドゥルシア、イヴの友人で夫を亡くしたシルヴィア……。 個性的な人々が次々と登場。それでも、時間はゆったりと流れていく。黄昏時、むせるような花の香り。ここで、ローラはどんな日々を過ごすのだろう。
イヴの友人シルヴィアのところに怪しい手紙が届く。誰が何のために?
そこへ表れたのは19歳になったアレックの娘ガブリエル。ガブリエルは……。そして、ローラとアレックは……。
ガブリエルは重要な役どころだった。まだ19歳なのにドラマティックな人生を送っている。幸せになって欲しいキャラである。
うーん、ゆったり読めたし、そこそこおもしろかったけど、わたしは"THE SHELL SEEKERS"の方が好きだし、作品としての出来もずっといいと思う。淡々とした描写はいいのだけど、後半3章での展開はちょっととってつけたようだし、怪しい手紙の事件の後味は悪いし。何とも陰険なものを感じる。
年かさの女性たちはなよなよし過ぎている。弱いから、寂しいからって、何をしても許されるわけじゃないし、めそめそ泣いていても何も解決しないと思うんだけど。
どうしても "THE SHELL SEEKERS"のペネロープと比べてしまう。ペネロープのしゃんと伸びた背筋、孤独を恐れない生き方がわたしは好きなんだなと、改めてそう思う。
まあ、いい夏休みを過ごしたという感じが残ったので、それでよしとしておこう。
"THE SHELL SEEKERS"と"VOICES IN SUMMER"、この2冊を読んでみて、わたしがピルチャーを好きなのは安直ないやしなどではなく、鋭く、しかも温かな人間観察なのだと思う。モンゴメリに惹かれているのも同じ理由からかもしれない。
"TOM'S MIDNIGHT GARDEN" Philippa Pearce
Tom's Midnight Garden
せっかくの夏休みなのに、弟が麻疹にかかったため、アランおじさんとグエンおばさんの住むフラットに預けられたトムは不機嫌。フラットにはおもしろいことなんて何もない。することといったら、クロスワードやジグソーパズルか、おばさんの料理を手伝うくらい。
おじさんとおばさんの部屋には大きな時計(grandfather clock)があった。時計の持ち主は大家のバーソロミューというおばあさん。おじさんたちの部屋の上に住むバーソロミューさんは、毎日時計のねじを巻きに下りてくる。 おばさんのこってりした料理と運動不足のせいで眠れないトムは、ある夜、時計が13回鳴るのを聞く。確かめてやろうと外へ出たトムは、不思議な庭に出た。
真夜中にあらわれる庭には、園丁やお手伝いさんが行き来しているが、トムの姿はだれにも見えない。トムより年かさの3人兄弟と兄弟について回っては邪険にされているハティという女の子がいた。ハティにはトムが見えるのだ! 「わたしは王女さまなの」名前を聞くとそう答えるハティはちょっと変わった女の子。ハティに案内されてトムは庭を探検する。
見るたびにハティは大人っぽくなり、いつのまにかすっかり一人の若い女性になっていく。けれども、トムは子どものまま……。
トムとハティはスケートで大聖堂まで遠出し、帰りが遅くなる。ハティとアベル以外にはトムは見えないので、ハティは真っ暗な中を一人で滑っているとしか見えない。たまたま出会わせた顔見知りのバーティ氏がハティを駅まで送るが、最終の汽車が出てしまったため、とうとう家まで送ることになる。二人で楽しげに話にうち興じるハティとバーティ氏。トムの存在などすっかり忘れられている。もう家に帰る日が迫っているのに……。
おばさんの家で過ごす最後の夜、いつものように庭に出ようとしたトムだが、庭はもうどこにもなかった。助けを求めて闇の中でトムは叫ぶ。「ハティ! ハティ!」
フラット中に響き渡るトムの悲鳴にも似た叫び。おじさん夫婦だけではなく、最上階に住むバーソロミューさんまで起きてきた。
翌日はもう、トムが家に帰る日だ。おじさんはバーソロミューさんがトムに一人で自分のところに来るように言っていたと伝える。沈みきった心でバーソロミューさんを訪ねたトムにバーソロミューさんが語ったこと、それは……。
不本意なまま連れてこられた不機嫌な子どもが不思議な庭を見つける……『秘密の花園』を連想しました。庭の様子が丁寧に描かれているあたりは、さすがガーデニングの本家イギリス!
ミステリのような雰囲気の中、速いテンポで話が展開していく。え、え、どうなったの? と読み進み、そして……。
時の流れと人の心の不思議さがしみじみと染み渡るようだった。子どもが読んでもおもしろいだろうけど、大人が読むとき、生きてきた年数が増すに連れて感動も深くなる、そんな本じゃないかなと思う。
出会えてよかったなと思える本であり、うーんと年取ってから、また読んでみたいと思う本でもある。
"THE SHELL SEEKERS" Rosamunde Pilcher
物語は、ペネロープ・キーリングが、入院中の病院を抜け出し、温室のある我が家へ帰るところから始まる。
ペネロープは六十四歳、父はひそかに人気が高まっている画家ローレンス・スターン。ローレンスがペネローペの結婚祝いに贈ったシェル・シーカーズの絵をめぐって、さまざまな人々の姿が描かれる。
戦時下で出会い、たちまち恋に落ちたペネロープとアンブローズ、ペネロープの三人の子どもたち、グレードの高い生活を守ることに汲々とするナンシー、流行雑誌の敏腕編集者オリヴィア、優雅な生活を求めるノエル。ペネロープにとって、姉妹のような親友のような存在だった母ソフィア。第二次世界大戦下、頼りになるドリスに支えられ、老いた父ローレンス、天使のような娘ナンシーとともに海辺で暮らすペネロープの前に表れたリチャード。オリヴィアの恋人だったコスモの娘アントニア、庭師ダヌス。
引き裂かれた想いと、芽生え、育っていく想いが、四季の移り変わりを背景として、きめ細やかに描かれている。恋愛だけではなく、親子やきょうだいの確執、老い、そして死……。
しみじみとした余韻にいつまでもひたっていたくなる作品である。
ペネロープは六十四歳、父はひそかに人気が高まっている画家ローレンス・スターン。ローレンスがペネローペの結婚祝いに贈ったシェル・シーカーズの絵をめぐって、さまざまな人々の姿が描かれる。
戦時下で出会い、たちまち恋に落ちたペネロープとアンブローズ、ペネロープの三人の子どもたち、グレードの高い生活を守ることに汲々とするナンシー、流行雑誌の敏腕編集者オリヴィア、優雅な生活を求めるノエル。ペネロープにとって、姉妹のような親友のような存在だった母ソフィア。第二次世界大戦下、頼りになるドリスに支えられ、老いた父ローレンス、天使のような娘ナンシーとともに海辺で暮らすペネロープの前に表れたリチャード。オリヴィアの恋人だったコスモの娘アントニア、庭師ダヌス。
引き裂かれた想いと、芽生え、育っていく想いが、四季の移り変わりを背景として、きめ細やかに描かれている。恋愛だけではなく、親子やきょうだいの確執、老い、そして死……。
しみじみとした余韻にいつまでもひたっていたくなる作品である。
"THE GOLDEN COMPASS" Philip Pullman
プルマンのファンタジー三部作の第一作。邦題『黄金の羅針盤』。
両親を亡くしたライラは、おじアスリエル卿の庇護のもと、オックスフォード大学ジョーダン学寮で暮らしている。
まるで導かれるように冒険の旅に出るライラ。その行く手に待つのは……。
ライラの心はいつも熱い。アスリエル卿を思い、ロジャーを思い、仲間を思うライラの熱い心が胸を打つ。
両親を亡くしたライラは、おじアスリエル卿の庇護のもと、オックスフォード大学ジョーダン学寮で暮らしている。
まるで導かれるように冒険の旅に出るライラ。その行く手に待つのは……。
ライラの心はいつも熱い。アスリエル卿を思い、ロジャーを思い、仲間を思うライラの熱い心が胸を打つ。
『ベル・カント』 アン・パチェット著 山本やよい訳
これは、ペルー大使館占拠事件を題材にしているようです。いきなり日本人が出てくるので、和書だったっけ、などと思ってしまいました。
日本の大手企業社長の誕生祝いに副大統領邸で開催されたパーティ。そこには、世界的なソプラノ歌手、ロクサーヌ・コスも招かれていた。突然、邸内は真っ暗になる。テロリストたちに占拠されたのだ。
緊張が続く邸内で、ロクサーヌの歌声に不思議な安らぎと高揚感を感じる人々。そして、テロリストと人質の間に奇妙な絆が生まれてきます。この邸内でしか存在し得ない絆。
だけど、いつまでもこんな日々が続くわけではないのでしょう。今は人間同士として向かい合っているように見えますが、いつかまた、テロリストと人質という立場で向かい合う日が来るはず。穏やかに見えるその底には緊張感が秘められています。
テロリストたちがひとりひとりの人間として見えてくるところ、人質たちと人間同士の心の通い合いができていくところ、虚構の上に成り立つ安らぎに溺れてしまう人々の姿の描写はとてもよかったのですが、終わり方がどうも……。
とってつけたようなエピローグが非常に不満です。これではちょっとどうかなという気持ちが残りました。多少中だるみはするものの人の心の動きがきめ細やかに趣深く描かれた佳品だけに、最後の場面で嘘っぽいなという感じが残ってしまったのが残念です。
日本の大手企業社長の誕生祝いに副大統領邸で開催されたパーティ。そこには、世界的なソプラノ歌手、ロクサーヌ・コスも招かれていた。突然、邸内は真っ暗になる。テロリストたちに占拠されたのだ。
緊張が続く邸内で、ロクサーヌの歌声に不思議な安らぎと高揚感を感じる人々。そして、テロリストと人質の間に奇妙な絆が生まれてきます。この邸内でしか存在し得ない絆。
だけど、いつまでもこんな日々が続くわけではないのでしょう。今は人間同士として向かい合っているように見えますが、いつかまた、テロリストと人質という立場で向かい合う日が来るはず。穏やかに見えるその底には緊張感が秘められています。
テロリストたちがひとりひとりの人間として見えてくるところ、人質たちと人間同士の心の通い合いができていくところ、虚構の上に成り立つ安らぎに溺れてしまう人々の姿の描写はとてもよかったのですが、終わり方がどうも……。
とってつけたようなエピローグが非常に不満です。これではちょっとどうかなという気持ちが残りました。多少中だるみはするものの人の心の動きがきめ細やかに趣深く描かれた佳品だけに、最後の場面で嘘っぽいなという感じが残ってしまったのが残念です。
2005年02月10日
『死のように静かな冬』P・J・パリッシュ 長島水際訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
"DEAD OF WINTER" P.J.Parrish ISBN 4151743014
コロラド州ムーンレイク。雪の舞う静かな湖畔の町。クリスマスを前にしたある夜明け、黒人警官プライスが自宅でショットガンの銃撃を受け、殺害された。2週間後、黒人と白人のハーフであるルイス・キンケイドが求人広告を見てムーンレイク警察を訪れる。署長ブライアン・ジブラルタルはキャビネットにチェス・セットと日本刀を置き、ラテン語、フランス語を引用し、名誉とは何かを説き、「きみのバッジは輝いているか?」と問う。それが口頭試問だった。ルイスは背格好もコーヒーに砂糖を3袋入れるところまでプライスに似ていた。湖畔のキャビンに居を定めたルイスは、ゾーイという謎めいた女性と出会う。
プライス事件にさしたる進展もないまま、今度は氷の下から白人男性の死体が発見される。元警察官ラヴジョイだった。ラヴジョイもまたショットガンで撃たれていた。狙われているのは警官なのか? では、なぜ警官を?
クリスマスにルイスは、デュエイン・レイシーの身柄を拘束する。レイシーは仮釈放中で、レッドオーク少年センターにいる息子に会いに行ったのだという。記録を調べると、レイシーが仮釈放されたのは12月10日、プライスが殺されたのは12月1日。令状も出ていないため、ルイスはレイシーを釈放する。ところが、その記録には重大な入力ミスがあった。レイシーの過去には陰惨な事件があったが、ルイスには知らされていなかった――。
ルイスと養父母との交流のしみじみとした温かさが印象的。前半もどかしさを感じながらもそれなりに読ませる話だったが、すっきりしないものが残った。ルイスを含め、ルーンレイク警察の警官たちは怒りという感情に動かされがちで論理的に思考するという面があまり見られなかったように思われる(バルカン人みたいな感想(^^;)。唐突に出てくる多重人格はとってつけたような感じがする。それに、このような事件の場合、警察に恨みを持っていそうな人物がいれば、きっちりチェックし、マークするのが常ではないだろうか。全体として見たとき、「白い雪に残る血」と「雪景色の中の黒い肌」というイメージが先行して詰めが甘くなっているように思う。
個人的な好みではあるが、「くそっ」「ちくしょう」を連発されるのがわたしは苦手である。原文がそうなっているのかもしれないが、どうにも居心地悪く、集中しづらい。その点からも入り込むのが難しかったことが残念である。
ルイスのこれからが気になるが、しばし様子を見ることにしよう。
コロラド州ムーンレイク。雪の舞う静かな湖畔の町。クリスマスを前にしたある夜明け、黒人警官プライスが自宅でショットガンの銃撃を受け、殺害された。2週間後、黒人と白人のハーフであるルイス・キンケイドが求人広告を見てムーンレイク警察を訪れる。署長ブライアン・ジブラルタルはキャビネットにチェス・セットと日本刀を置き、ラテン語、フランス語を引用し、名誉とは何かを説き、「きみのバッジは輝いているか?」と問う。それが口頭試問だった。ルイスは背格好もコーヒーに砂糖を3袋入れるところまでプライスに似ていた。湖畔のキャビンに居を定めたルイスは、ゾーイという謎めいた女性と出会う。
プライス事件にさしたる進展もないまま、今度は氷の下から白人男性の死体が発見される。元警察官ラヴジョイだった。ラヴジョイもまたショットガンで撃たれていた。狙われているのは警官なのか? では、なぜ警官を?
クリスマスにルイスは、デュエイン・レイシーの身柄を拘束する。レイシーは仮釈放中で、レッドオーク少年センターにいる息子に会いに行ったのだという。記録を調べると、レイシーが仮釈放されたのは12月10日、プライスが殺されたのは12月1日。令状も出ていないため、ルイスはレイシーを釈放する。ところが、その記録には重大な入力ミスがあった。レイシーの過去には陰惨な事件があったが、ルイスには知らされていなかった――。
ルイスと養父母との交流のしみじみとした温かさが印象的。前半もどかしさを感じながらもそれなりに読ませる話だったが、すっきりしないものが残った。ルイスを含め、ルーンレイク警察の警官たちは怒りという感情に動かされがちで論理的に思考するという面があまり見られなかったように思われる(バルカン人みたいな感想(^^;)。唐突に出てくる多重人格はとってつけたような感じがする。それに、このような事件の場合、警察に恨みを持っていそうな人物がいれば、きっちりチェックし、マークするのが常ではないだろうか。全体として見たとき、「白い雪に残る血」と「雪景色の中の黒い肌」というイメージが先行して詰めが甘くなっているように思う。
個人的な好みではあるが、「くそっ」「ちくしょう」を連発されるのがわたしは苦手である。原文がそうなっているのかもしれないが、どうにも居心地悪く、集中しづらい。その点からも入り込むのが難しかったことが残念である。
ルイスのこれからが気になるが、しばし様子を見ることにしよう。
2004年12月29日
『青と赤の死』レベッカ・パウエル 松本依子訳 ハヤカワ・ミステリ
"DEATH OF A NATIONALIST" Rebecca Pawel
ISBN: 4150017603
スペイン内戦終結直後の1939年早春、復活祭を前に贖罪と許しを求める期間である聖週間。学校帰りのアレハ――マリア・アレハンドラは治安警備隊の隊員の死体を見ておびえ、ノートを落としたことにも気づかず、走り去った。配給制のご時世ではノートは貴重品である。アレハとともに暮らすビビアナはノートを取り戻しに行くが、通りかかった治安警備隊軍曹カルロス・テハダに治安警備隊員を殺したと誤解され、その場で射殺される。殺害された治安警備隊員パコはテハダの親友だった。現場に落ちていたノートは何を意味するのか。腑に落ちぬテハダは独自に調査を進める。
ビビアナはアレハの母カルメンの弟ゴンサロの恋人だった。国境警備隊員だったゴンサロは今は治安警備隊に追われる身となっていた。ゴンサロもまた、恋人を殺した犯人を追う。
スペイン内戦については、聞いたことはあるが、どんな戦いだったのかは知らない。『誰がために鐘は鳴る』がスペイン内戦を人民戦線側から描いた作品だと言われると、そうなのか、と思う程度である。
それくらいの貧弱な知識しかないが、この作品はそんなわたしにも、内戦後の虚脱感をもはらんだ緊迫した雰囲気をその場にいるかのように感じさせてくれる。勝者と敗者、相対する両者の視点から描く構成も読者を引きつける。愛らしく健気なアレハ、アレハの担任教師エレナの存在が印象的であり、エレナに寄せるテハダの心の微妙な揺らぎの描写には冴えが見られる。
ただ一つ残念なのは、本作がデビュー作であるためだろうか、物足りなさが感じられてならない点である。結末にはこんなふうにうまくいくかなという気持ちがぬぐいきれず、ややご都合主義な感を否めない。また、軍人として、一人の人間としてのテハダの苦悩が浅きに流れているように見える。欲張りすぎなのかもしれないが、設定はおもしろいので、足りない何か――叙情性、ユーモア、深みだろうか――を加えればもっとおもしろくなるのではないかと思う。
カルロス・テハダを主人公とする第2作"LAW OF RETURN" が既に出版されており、第3作 "THE WATCHER IN THE PINE"も2005年に出版予定とのこと。大いに期待したい。
スペイン内戦『ウィキペディア(Wikipedia)』
ISBN: 4150017603
スペイン内戦終結直後の1939年早春、復活祭を前に贖罪と許しを求める期間である聖週間。学校帰りのアレハ――マリア・アレハンドラは治安警備隊の隊員の死体を見ておびえ、ノートを落としたことにも気づかず、走り去った。配給制のご時世ではノートは貴重品である。アレハとともに暮らすビビアナはノートを取り戻しに行くが、通りかかった治安警備隊軍曹カルロス・テハダに治安警備隊員を殺したと誤解され、その場で射殺される。殺害された治安警備隊員パコはテハダの親友だった。現場に落ちていたノートは何を意味するのか。腑に落ちぬテハダは独自に調査を進める。
ビビアナはアレハの母カルメンの弟ゴンサロの恋人だった。国境警備隊員だったゴンサロは今は治安警備隊に追われる身となっていた。ゴンサロもまた、恋人を殺した犯人を追う。
スペイン内戦については、聞いたことはあるが、どんな戦いだったのかは知らない。『誰がために鐘は鳴る』がスペイン内戦を人民戦線側から描いた作品だと言われると、そうなのか、と思う程度である。
それくらいの貧弱な知識しかないが、この作品はそんなわたしにも、内戦後の虚脱感をもはらんだ緊迫した雰囲気をその場にいるかのように感じさせてくれる。勝者と敗者、相対する両者の視点から描く構成も読者を引きつける。愛らしく健気なアレハ、アレハの担任教師エレナの存在が印象的であり、エレナに寄せるテハダの心の微妙な揺らぎの描写には冴えが見られる。
ただ一つ残念なのは、本作がデビュー作であるためだろうか、物足りなさが感じられてならない点である。結末にはこんなふうにうまくいくかなという気持ちがぬぐいきれず、ややご都合主義な感を否めない。また、軍人として、一人の人間としてのテハダの苦悩が浅きに流れているように見える。欲張りすぎなのかもしれないが、設定はおもしろいので、足りない何か――叙情性、ユーモア、深みだろうか――を加えればもっとおもしろくなるのではないかと思う。
カルロス・テハダを主人公とする第2作"LAW OF RETURN" が既に出版されており、第3作 "THE WATCHER IN THE PINE"も2005年に出版予定とのこと。大いに期待したい。
スペイン内戦『ウィキペディア(Wikipedia)』
2004年12月23日
"WINTER SOLSTICE" Rosamunde Pilcher
女優だったエルフリーダは愛犬ホラスを連れて南英に移り住み、オルガニストだったオスカーと親しくなる。ガイ・フォークスの花火の夜、オスカーは思いもかけない悲劇に見舞われ、住まいさえも失う。失意のオスカーとともにエルフリーダは、オスカーが少年の日を過ごしたスコットランドの古い邸宅に向かう。
エルフリーダのいとこの次女キャリーは恋人と別れ、傷心を抱えてオーストリアから帰国した。14歳になる姪のルーシーがクリスマスを家族と過ごせないと知ったキャリーは、しばしの居場所をエルフリーダのもとに求め、ルーシーとともにスコットランドに向かう。
テキスタイル会社に勤めるサムはスコットランドにある工場を任され、別居中の妻を残して赴任先のニューヨークから帰国した。サムは、ロンドンのパブである老人からスコットランドにある邸宅の鍵を託される。打ち合わせのため、スコットランドに赴いたサムは下見がてら邸宅の前を通りかかる。無人のはずの邸宅には灯りがついており、不審に思ったサムは邸宅のベルを鳴らす。
世代も境遇も全く異なる人々が何かに導かれるようにスコットランドの古い邸宅に集う。それぞれに傷を負った5人、彼らを温かく見守る地元の人たちの心がためらいながらそっと寄り添っていく。
WINTER SOLSTICE――1年でもっとも夜が長い日、冬至。この日を機に5人は新たな人生を歩み始める。クリスマスを迎えようとする厳寒のスコットランドを舞台に、生と死を包み込み、人の温もりと絆を描く、喜びと希望あふれる感動的な作品。
PBの表紙は雪の中で咲くクロッカス。清楚で芯の強さを感じさせるその花は、この物語の印象を見事に伝えている。
"THE SHELL SEEKERS"、"VOICES IN SUMMER"に続いて3冊目のピルチャーだが、今のところ、この作品が一番気に入っている。"THE SHELL SEEKER"のヒロインで、凛とした強さを持つペネロープも好きだけど、62歳で少女のような恋をするエルフリーダはもっと好きだ。
60代のエルフリーダとオスカー、30代のキャリーとサム、10代のルーシー。この5人がどのようにしてひとところに集まり、どんな物語を繰り広げていくのか。寒さは厳しいが心弾むスコットランドの冬が5人の目を通してきめ細やかに描かれ、クリスマスをともに迎える喜びに読者をいざなう。
行き違いや心痛む出来事もあるが、それを補って余りあるほどの救いもある。厳かな中に深い喜びを秘めたラストシーンでは、たぶんこうなるはずだと予測していたにもかかわらず、涙が止まらなかった。これほど感動的なラストシーンは他にはないのではないか。
みどりさんが以前、クリスマス本として読んでらしたのを見て読みたいと思いつつ読めずにいた本。ピルチャーはわたしにはまだ無理かと諦めかけていたが、ことし、ようやく読むことができた。クリスマスには欠かせない本になりそうだ。きっかけをくださったみどりさんに感謝!
究極のクリスマス本。クリスマスに人の温かさを感じたい方はぜひご一読を!
訳書は『冬至まで(上)・(下)』中村妙子訳
ISBN: 0312978383
原書マラソン 1319/10000
エルフリーダのいとこの次女キャリーは恋人と別れ、傷心を抱えてオーストリアから帰国した。14歳になる姪のルーシーがクリスマスを家族と過ごせないと知ったキャリーは、しばしの居場所をエルフリーダのもとに求め、ルーシーとともにスコットランドに向かう。
テキスタイル会社に勤めるサムはスコットランドにある工場を任され、別居中の妻を残して赴任先のニューヨークから帰国した。サムは、ロンドンのパブである老人からスコットランドにある邸宅の鍵を託される。打ち合わせのため、スコットランドに赴いたサムは下見がてら邸宅の前を通りかかる。無人のはずの邸宅には灯りがついており、不審に思ったサムは邸宅のベルを鳴らす。
世代も境遇も全く異なる人々が何かに導かれるようにスコットランドの古い邸宅に集う。それぞれに傷を負った5人、彼らを温かく見守る地元の人たちの心がためらいながらそっと寄り添っていく。
WINTER SOLSTICE――1年でもっとも夜が長い日、冬至。この日を機に5人は新たな人生を歩み始める。クリスマスを迎えようとする厳寒のスコットランドを舞台に、生と死を包み込み、人の温もりと絆を描く、喜びと希望あふれる感動的な作品。
PBの表紙は雪の中で咲くクロッカス。清楚で芯の強さを感じさせるその花は、この物語の印象を見事に伝えている。
"THE SHELL SEEKERS"、"VOICES IN SUMMER"に続いて3冊目のピルチャーだが、今のところ、この作品が一番気に入っている。"THE SHELL SEEKER"のヒロインで、凛とした強さを持つペネロープも好きだけど、62歳で少女のような恋をするエルフリーダはもっと好きだ。
60代のエルフリーダとオスカー、30代のキャリーとサム、10代のルーシー。この5人がどのようにしてひとところに集まり、どんな物語を繰り広げていくのか。寒さは厳しいが心弾むスコットランドの冬が5人の目を通してきめ細やかに描かれ、クリスマスをともに迎える喜びに読者をいざなう。
行き違いや心痛む出来事もあるが、それを補って余りあるほどの救いもある。厳かな中に深い喜びを秘めたラストシーンでは、たぶんこうなるはずだと予測していたにもかかわらず、涙が止まらなかった。これほど感動的なラストシーンは他にはないのではないか。
みどりさんが以前、クリスマス本として読んでらしたのを見て読みたいと思いつつ読めずにいた本。ピルチャーはわたしにはまだ無理かと諦めかけていたが、ことし、ようやく読むことができた。クリスマスには欠かせない本になりそうだ。きっかけをくださったみどりさんに感謝!
究極のクリスマス本。クリスマスに人の温かさを感じたい方はぜひご一読を!
訳書は『冬至まで(上)・(下)』中村妙子訳
ISBN: 0312978383
原書マラソン 1319/10000