中村有希訳 創元推理文庫
"SHOP TILL YOU DROP" Elaine Viets
ISBN: 4488150063
のっぴきならない事情で住み慣れた中西部を離れ、南フロリダに流れてきたヘレン・ホーソーン。見つけた仕事は高級ブティックの店員。そろって整形美女である店長やお得意さんのただ中で、なじめないものを感じながらも、生きていくため働くしかないヘレンは、この店に何やら怪しげな事情がありそうだと感じ始める。そうこうしているうちに、とんでもない事件が起こり、ヘレンの身にこの上ないほどの災難が降りかかる――。
ワケありヒロイン、ヘレン・ホーソーン・シリーズ第1作。フロリダを舞台としたセレブの物語と勝手に決め込んでいたので、さわやかで華やかな雰囲気かと思っていたら、案外湿度の高い物語だった。じとっとしてるし、人物には共感できないし、正直言って、途中で読むのをやめようかと思った。一応、最後まで読んでみたが、うーん、残念ながらあまり好きなタイプのミステリではない。設定はおもしろいけど、人物に感情移入できず、雰囲気に入り込めなかったからだろう。これはコージーとされているけど、わたしには心地よく感じられなかった。コージーと女性素人探偵ものとは区別した方がいいのかもしれない。
原書は5作目まで出ているけど、続きを読むかどうかはちょっと微妙。
2007年12月23日
2006年09月22日
『カレンの眠る日』アマンダ・エア・ウォード
『カレンの眠る日』アマンダ・エア・ウォード 務台夏子訳 新潮文庫
"SLEEP TOWARD HEAVEN" Amanda Eyre Ward
ISBN: 4102159517
黒人の女性死刑囚カレンは、テキサス州マウンテン・ビュー刑務所の女子監房で執行の日を待っていた。並んで暮らしているのは、最古参で夫を何人も殺したという63歳のヴェロニカ、幼い双子の娘を溺死させたとされるティファニー、元美容師のジャッキー、そして恋人の幼い子どもたち4人を惨殺したとされる「サタン・キラー」シャーリー。
若い女医フラニーは挫折感に打ちひしがれていた。担当していた幼い患者アンナが苦しみ抜いた末に亡くなったのだ。つらい記憶から逃れようと、恋人ナットのもとを去り、フラニーは医師であり、育ての親でもある叔父ジャックと暮らしたテキサスに戻る。
テキサス州オースティン。夫を殺害された美しい若妻シーリアは、愛犬プリシラとともに今も夫と暮らしていた家で暮らし、夫が生きていたときと変わらず、司書として働いていた。立ち直ろうとしながらも、その胸の中には深い空虚感と犯人への憎しみが根づいていた。
不思議な糸に導かれるように3人の運命が交錯し、ついにその日を迎える――。
死刑の是非、犯罪被害者の問題、医療過誤など重いテーマを幾つも抱える作品であるが、重苦しさは感じられない。それは訳者あとがきにあるように「作者のべたつかない抑制のきいた筆致」と「ユーモラス」なところに負うのだろう。とりわけ、死を前にした女子死刑囚の日常がいきいきと描かれ、まるで隣にいるかのように感じられる。
もっとも身近に感じられたのはシーリアである。ごくごくふつうに暮らしていた女性がいきなり大事な人を奪われる、その苦しみはいつだれを襲うか、予知することはできない。自分ならば、と考えずにはいられなくなる。
ミステリという分野には入らないかもしれないが、優れた小説だと思う。
本作はアマンダ・エア・ウォードのデビュー作。2作目の長篇"HOW to Be Lost" はミステリ風の感動作であり、第3作も今年出版予定とのこと。これからも注目していきたい作家である。
"SLEEP TOWARD HEAVEN" Amanda Eyre Ward
ISBN: 4102159517
黒人の女性死刑囚カレンは、テキサス州マウンテン・ビュー刑務所の女子監房で執行の日を待っていた。並んで暮らしているのは、最古参で夫を何人も殺したという63歳のヴェロニカ、幼い双子の娘を溺死させたとされるティファニー、元美容師のジャッキー、そして恋人の幼い子どもたち4人を惨殺したとされる「サタン・キラー」シャーリー。
若い女医フラニーは挫折感に打ちひしがれていた。担当していた幼い患者アンナが苦しみ抜いた末に亡くなったのだ。つらい記憶から逃れようと、恋人ナットのもとを去り、フラニーは医師であり、育ての親でもある叔父ジャックと暮らしたテキサスに戻る。
テキサス州オースティン。夫を殺害された美しい若妻シーリアは、愛犬プリシラとともに今も夫と暮らしていた家で暮らし、夫が生きていたときと変わらず、司書として働いていた。立ち直ろうとしながらも、その胸の中には深い空虚感と犯人への憎しみが根づいていた。
不思議な糸に導かれるように3人の運命が交錯し、ついにその日を迎える――。
死刑の是非、犯罪被害者の問題、医療過誤など重いテーマを幾つも抱える作品であるが、重苦しさは感じられない。それは訳者あとがきにあるように「作者のべたつかない抑制のきいた筆致」と「ユーモラス」なところに負うのだろう。とりわけ、死を前にした女子死刑囚の日常がいきいきと描かれ、まるで隣にいるかのように感じられる。
もっとも身近に感じられたのはシーリアである。ごくごくふつうに暮らしていた女性がいきなり大事な人を奪われる、その苦しみはいつだれを襲うか、予知することはできない。自分ならば、と考えずにはいられなくなる。
ミステリという分野には入らないかもしれないが、優れた小説だと思う。
本作はアマンダ・エア・ウォードのデビュー作。2作目の長篇"HOW to Be Lost" はミステリ風の感動作であり、第3作も今年出版予定とのこと。これからも注目していきたい作家である。
"THE LOVER" Laura Wilson
"THE LOVER" Laura Wilson
Orion ISBN: 0752864173
1940年秋。ロンドンの街はドイツ軍による激しい空襲を受け、日々荒廃を深めていた。死の影が濃くなる街では、連続殺人事件が起こっていた。被害者はすべて娼婦だった。
物語を語るのは、娼婦ラネイ、若い独身女性ルーシー、英国空軍パイロットのジムの3人である。まったく境遇の違う3人がそれぞれの視点で語っていく。
一見接点のなさそうな3人の男女が、見えない糸にたぐり寄せられるかのように少しずつ近づいていく。糸が絡まり合ったそのとき、3人の運命は大きく変わり、終局へと突き進む。
大空襲最中のロンドンの様子が丁寧に描かれ、まるでその場にいるかのように感じられた戦時下に生きた人々の鬱屈がずっしりと伝わってくる。
著者は確かな描写に支えられた緻密な構成で、読者を物語の世界に引き込んでいく。人と人とのかかわり、人と物とのかかわりが濃くなるにつれ、破局への予感が高まる。戦時の緊迫した雰囲気とあいまって、じりじりと追い詰められる感覚に背筋が冷たくなった。歴史ミステリであると同時に、サイコサスペンスとしてもすぐれた作品である。
本作は2004年CWA賞ゴールドダガー、歴史ミステリ賞にノミネートされた。デビュー作 "A LITTLE DEATH" は2000年CWA賞歴史ミステリ賞にノミネートされ、 "A THOUSAND LIES" は2006年CWA賞ゴールドダガーにノミネートされたが、いずれも惜しくも受賞を逃している。2007年には次作の刊行が予定されている。地味ではあるが、確かな実力を感じさせる著者の活躍に注目していきたい。
『海外ミステリ通信』2006年9月号掲載原稿に加筆・修正。
Orion ISBN: 0752864173
1940年秋。ロンドンの街はドイツ軍による激しい空襲を受け、日々荒廃を深めていた。死の影が濃くなる街では、連続殺人事件が起こっていた。被害者はすべて娼婦だった。
物語を語るのは、娼婦ラネイ、若い独身女性ルーシー、英国空軍パイロットのジムの3人である。まったく境遇の違う3人がそれぞれの視点で語っていく。
一見接点のなさそうな3人の男女が、見えない糸にたぐり寄せられるかのように少しずつ近づいていく。糸が絡まり合ったそのとき、3人の運命は大きく変わり、終局へと突き進む。
大空襲最中のロンドンの様子が丁寧に描かれ、まるでその場にいるかのように感じられた戦時下に生きた人々の鬱屈がずっしりと伝わってくる。
著者は確かな描写に支えられた緻密な構成で、読者を物語の世界に引き込んでいく。人と人とのかかわり、人と物とのかかわりが濃くなるにつれ、破局への予感が高まる。戦時の緊迫した雰囲気とあいまって、じりじりと追い詰められる感覚に背筋が冷たくなった。歴史ミステリであると同時に、サイコサスペンスとしてもすぐれた作品である。
本作は2004年CWA賞ゴールドダガー、歴史ミステリ賞にノミネートされた。デビュー作 "A LITTLE DEATH" は2000年CWA賞歴史ミステリ賞にノミネートされ、 "A THOUSAND LIES" は2006年CWA賞ゴールドダガーにノミネートされたが、いずれも惜しくも受賞を逃している。2007年には次作の刊行が予定されている。地味ではあるが、確かな実力を感じさせる著者の活躍に注目していきたい。
『海外ミステリ通信』2006年9月号掲載原稿に加筆・修正。
2006年06月26日
『時の旅人』アリソン・アトリー 松野正子訳 岩波少年文庫
さし絵 フェイス・ジェイクス
"A TRAVELLER IN TIME" Alison Uttley
ISBN:4001145316
病気がちな少女、ペネロピー・タバナー・キャメロンは、兄イアン、姉アリソンとともに、母方の大おじバーナバスと大おばティッシーの住むダービシャーのサッカーズ農場に赴く。
ふとしたことから、ぺネロピーは300年前の世界に入り込む。それは、スコットランドの女王メアリー・スチュアートとそのいとこでヘンリー8世の娘エリザベスが王位継承をめぐって熾烈な戦いを繰り広げていた時代だった。
当時、サッカーズはアンソニー・バビントンの荘園屋敷だった。美しいメアリーに忠誠を誓うアンソニーは、囚われの身の女王を身を賭して救おうとする。現代と16世紀を行き来する少女が見たものは――。
時を旅する少女、ペネロピーとともに、自分も16世紀の農場と現代とを行き来しているような気分になる。今よりもときはゆるやかに流れ、人々は穏やかに日々の営みを繰り返しているように見える。ティッシーおばさんそっくりのシスリーおばさん、凛々しいアンソニー殿様、たおやかな奥方、やんちゃな若君フランシス。
だが、そこには激しい権力闘争が暗い影を落としていた。結末を知りながらどうすることもできないペネロピーの悲しみが胸を打つ。フランシスの呼ぶ声と『グリーンスリーブス』の歌声が今も切なく響く。
時とは何か。あのときとこのときを隔てるのは何かに思いを馳せたくなるファンタジーの傑作。ときの流れの不思議さに身をゆだねながら読みたい物語である。
"A TRAVELLER IN TIME" Alison Uttley
ISBN:4001145316
病気がちな少女、ペネロピー・タバナー・キャメロンは、兄イアン、姉アリソンとともに、母方の大おじバーナバスと大おばティッシーの住むダービシャーのサッカーズ農場に赴く。
ふとしたことから、ぺネロピーは300年前の世界に入り込む。それは、スコットランドの女王メアリー・スチュアートとそのいとこでヘンリー8世の娘エリザベスが王位継承をめぐって熾烈な戦いを繰り広げていた時代だった。
当時、サッカーズはアンソニー・バビントンの荘園屋敷だった。美しいメアリーに忠誠を誓うアンソニーは、囚われの身の女王を身を賭して救おうとする。現代と16世紀を行き来する少女が見たものは――。
時を旅する少女、ペネロピーとともに、自分も16世紀の農場と現代とを行き来しているような気分になる。今よりもときはゆるやかに流れ、人々は穏やかに日々の営みを繰り返しているように見える。ティッシーおばさんそっくりのシスリーおばさん、凛々しいアンソニー殿様、たおやかな奥方、やんちゃな若君フランシス。
だが、そこには激しい権力闘争が暗い影を落としていた。結末を知りながらどうすることもできないペネロピーの悲しみが胸を打つ。フランシスの呼ぶ声と『グリーンスリーブス』の歌声が今も切なく響く。
グリーンスリーブスよ、いざ、さらば!
神の恵、君が上にあらんことを。
われ、今も君を愛す、
ふたたび来たりてわれを愛せ。
グリーンスリーブスはわがよろこびよ、
グリーンスリーブスはわがたのしみよ、
グリーンスリーブスはわが心の宝、
ああ、うるわしのレディ・グリーンスリーブス。437p
時とは何か。あのときとこのときを隔てるのは何かに思いを馳せたくなるファンタジーの傑作。ときの流れの不思議さに身をゆだねながら読みたい物語である。
私は、あの女王のロケットを首にかけ、ポケットには、昔、ジュードが作った古びた木の糸巻き坊やを入れていました、この2つは私に、サッカーズは昔、今のティッシーおばさんやバーナバスおじさんがしているのと同じように勇敢に、そして質素に暮らし、人に与えて見返りを求めず、人生で出会うものを恐れずに受けとめて生きた人々の”我が家であったことを思い出させました――かりに私がそれを忘れることがあったとしてのことでしたが――。
2006年01月27日
『ソロモン王の絨毯』バーバラ・ヴァイン (ルース・レンデル) 羽田詩津子訳
"KING SOLOMON'S CARPET" 角川文庫 ISBN: 4042541550
1991年度CWAゴールドダガー賞
ロンドンの混雑した地下鉄でひとりの女性が死んだ。虚弱ではあるものの裕福な彼女は、その日、初めて地下鉄に乗ったのだ。車内にはその日買ったペルーの花嫁衣装が残されていた。
ウェスト・ハムステッドの線路際に「ケンブリッジ学校」という名の女学校があった。学校は閉鎖され、創設者は自殺した。教室の名がそのまま残された屋敷には、創設者の孫で地下鉄マニアのジャービスが家主として住んでいた。そこに暮らすのは、ジャービスの母の従姉妹で自由奔放なティナと息子のジャスパー、娘ビエンヴィダ、地下鉄構内でフルートを吹き、歌を歌うトム、地下鉄のライフガードで鷹を愛するジェド、ヴァイオリニストになる夢を捨てきれず、夫と生まれたばかりの娘を捨てて家を出たアリス。
新しくできた地下鉄を視察するため、ジェービスがロシアに発った後、着ぐるみの熊を連れた自称カメラマンのアクセルが加わる。それぞれの愛と憎しみ、欲望と野心が絡み合い、もつれ合い、次第に緊張を募らせていく。あたかも1枚の空飛ぶ絨毯に乗り合わせたかのように、終局に向かって突き進む――。
登場人物が多い上に、次々出てくる地下鉄の路線がちゃんとつかめていないため、中盤まではわけのわからない状態だった。だが、少し絵柄が見えてくると、完成した絵柄が見たくてたまらなくなった。登場する人物たちが壊れていく過程は息苦しくなるほどだが、読み終わるとなぜか、目の前に見事に織り上げられた絨毯が見えるような感じがした。まるで絨毯のように一目一目織り上げられた作品である。最後の一針が抜かれたとき、あらわれた絵の重厚さと緻密さに深いため息をついた。
タイトルの「ソロモン王の絨毯」は地下鉄でもあり、ケンブリッジ学校でもある。そして、この物語そのものもまた、ソロモン王の絨毯といえる。
ルース・レンデルの別名義バーバラ・ヴァインを読むのは初めて。レンデル作品とは少し趣が違い、文芸色が濃いように思うが、どちらももっと読んでみたい。
1991年度CWAゴールドダガー賞
ロンドンの混雑した地下鉄でひとりの女性が死んだ。虚弱ではあるものの裕福な彼女は、その日、初めて地下鉄に乗ったのだ。車内にはその日買ったペルーの花嫁衣装が残されていた。
ウェスト・ハムステッドの線路際に「ケンブリッジ学校」という名の女学校があった。学校は閉鎖され、創設者は自殺した。教室の名がそのまま残された屋敷には、創設者の孫で地下鉄マニアのジャービスが家主として住んでいた。そこに暮らすのは、ジャービスの母の従姉妹で自由奔放なティナと息子のジャスパー、娘ビエンヴィダ、地下鉄構内でフルートを吹き、歌を歌うトム、地下鉄のライフガードで鷹を愛するジェド、ヴァイオリニストになる夢を捨てきれず、夫と生まれたばかりの娘を捨てて家を出たアリス。
新しくできた地下鉄を視察するため、ジェービスがロシアに発った後、着ぐるみの熊を連れた自称カメラマンのアクセルが加わる。それぞれの愛と憎しみ、欲望と野心が絡み合い、もつれ合い、次第に緊張を募らせていく。あたかも1枚の空飛ぶ絨毯に乗り合わせたかのように、終局に向かって突き進む――。
登場人物が多い上に、次々出てくる地下鉄の路線がちゃんとつかめていないため、中盤まではわけのわからない状態だった。だが、少し絵柄が見えてくると、完成した絵柄が見たくてたまらなくなった。登場する人物たちが壊れていく過程は息苦しくなるほどだが、読み終わるとなぜか、目の前に見事に織り上げられた絨毯が見えるような感じがした。まるで絨毯のように一目一目織り上げられた作品である。最後の一針が抜かれたとき、あらわれた絵の重厚さと緻密さに深いため息をついた。
タイトルの「ソロモン王の絨毯」は地下鉄でもあり、ケンブリッジ学校でもある。そして、この物語そのものもまた、ソロモン王の絨毯といえる。
ルース・レンデルの別名義バーバラ・ヴァインを読むのは初めて。レンデル作品とは少し趣が違い、文芸色が濃いように思うが、どちらももっと読んでみたい。
2005年12月23日
『死、ふたたび』シルヴィア・マウルターシュ・ウォルシュ 横山哲明訳
"FIND ME AGAIN" Sylvia Maultash Warsh
ハヤカワ・ミステリ文庫 ISBN: 4151750010 960円
2004年MWA最優秀ペイパーバック賞
1979年8月、トロント。内科医レベッカ・テンプルは、1年前に糖尿病で夫を亡くし、その悲しみから立ち直れずにいた。そんなレベッカの前に、夫の母セイラを頼ってポーランドからカナダに来たハリーナとその娘ナタールカがあらわれる。ハリーナは、白血病と診断されたナタールカに進んだ医療を受けさせることを望んでいた。
ハリーナを通してレベッカは、ポーランド貴族を名乗るマイクル・オージーンスキと出会う。6本の指を持つマイクルは小説を書いていた。その小説には歴史を揺るがす事実が隠されていると語るマイクルにレベッカは惹かれる。
だが、小説が刊行される前に、マイクルは自宅プールで水死体となって発見される。自殺か他殺か? その鍵は残された小説にあると推理したレベッカは、伯爵の祖先とロシア大公妃との秘められた恋を描いたその小説に魅了される。マイクルの死の真相は? 歴史を揺るがす事実とは?
作中作であるロシア大公妃の恋の物語がおもしろい! 元の名がゾフィーであるこの大公妃がのちにどう呼ばれるかはすぐに想像がつくが、秘密の恋については知らなかった。史実とどうかかわるのかは知らないが、興味をそそる話である。むしろ、現代のロマンスの方がどこか不自然な感じがして入り込めなかった。加えて、ヒロインであるレベッカよりも、ホロコーストを生き延びた義母セイラの方が印象に残る。
裏表紙には「哀切のロマンティック・サスペンス」とあるが、ちょっと違うような気がする。歴史ミステリに徹した方がおもしろかったのではないかと思う。
この作品もベスト10投票に備えて読んだが、現代のロマンス部分の不自然さゆえに未熟な感じが否めなかったので、選外とした。
ハヤカワ・ミステリ文庫 ISBN: 4151750010 960円
2004年MWA最優秀ペイパーバック賞
1979年8月、トロント。内科医レベッカ・テンプルは、1年前に糖尿病で夫を亡くし、その悲しみから立ち直れずにいた。そんなレベッカの前に、夫の母セイラを頼ってポーランドからカナダに来たハリーナとその娘ナタールカがあらわれる。ハリーナは、白血病と診断されたナタールカに進んだ医療を受けさせることを望んでいた。
ハリーナを通してレベッカは、ポーランド貴族を名乗るマイクル・オージーンスキと出会う。6本の指を持つマイクルは小説を書いていた。その小説には歴史を揺るがす事実が隠されていると語るマイクルにレベッカは惹かれる。
だが、小説が刊行される前に、マイクルは自宅プールで水死体となって発見される。自殺か他殺か? その鍵は残された小説にあると推理したレベッカは、伯爵の祖先とロシア大公妃との秘められた恋を描いたその小説に魅了される。マイクルの死の真相は? 歴史を揺るがす事実とは?
作中作であるロシア大公妃の恋の物語がおもしろい! 元の名がゾフィーであるこの大公妃がのちにどう呼ばれるかはすぐに想像がつくが、秘密の恋については知らなかった。史実とどうかかわるのかは知らないが、興味をそそる話である。むしろ、現代のロマンスの方がどこか不自然な感じがして入り込めなかった。加えて、ヒロインであるレベッカよりも、ホロコーストを生き延びた義母セイラの方が印象に残る。
裏表紙には「哀切のロマンティック・サスペンス」とあるが、ちょっと違うような気がする。歴史ミステリに徹した方がおもしろかったのではないかと思う。
この作品もベスト10投票に備えて読んだが、現代のロマンス部分の不自然さゆえに未熟な感じが否めなかったので、選外とした。
『夜明けのメイジー』ジャクリーン・ウィンスピア 長野きよみ訳
"MAISIE DOBBS" Jacqueline Winspear
ハヤカワ・ミステリ文庫 ISBN: 4151753516
第1次世界大戦後のロンドンで探偵業を開業したばかりのメイジー・ダブズ。コヴェントガーデンでの野菜の引き売り商人を父とする13歳のメイジーは、生計を立てるため、父が出入りしていたコンプトン家に住み込みメイドの職を得る。本好きのメイジーは屋敷の蔵書に魅せられ、早朝に起きて独学を始める。ある日、一心に本を読むメイジーの姿を見たコンプトン家の奥方レディ・ローワンはメイジーにある提案を持ちかける――。
メイドからケンブリッジはガートン・カレッジの女子大生、そして従軍看護婦へ。激動の時代に生きながらも、メイジーの心は常に夜明けの空のように清澄だった。そんなふうにメイジーを導いたのはメンターであるモーリス・ブランシュ。大戦下で重要な役割を果たしつつ、貧しい人々を無料で診療する「はだしの医者」でもあるモーリスの言葉は、読むたび心に響く。
そして凄惨な戦場で芽生えた初恋とその行方、傷を負って復員した兵士たちのその後――。
時代はちょうど『アンの娘のリラ』と重なる。英国本土とカナダ、そして戦場となったフランスが重なっていく。フランダースの野に残る白い十字架が目に浮かんでくる。戦渦を経て実った恋、帰らぬ人への想いを抱きながら生きる娘たち、そして母たち――。
原書で読んではいたが、どこまで理解できていたか、いささかおぼつかないところがある。物語の展開はまだ記憶に新しいが、それでもあのときの感動がそのままに蘇ってきた。スパークスでは泣けなかったわたしだが、この作品ではみっともないほど泣けてしまう。素晴らしい作品だと素直に認められるのが嬉しい。
「謎をおおっているヴェールは早朝にとりのぞかれる。すべてを見とおす瞳は、一日が目覚める前にのみ開いている。夜明け前の数時間の神聖なときに、まどろみから知恵が解放される。そのとき、心の内なる声が聞こえるのだ。」
「メイジーは昔の夜明けを、十年以上も前の夜明けを思い出していた。あれは終わりのはじまりだった。それがずっと続いているのだ。」
ハヤカワ・ミステリ文庫 ISBN: 4151753516
第1次世界大戦後のロンドンで探偵業を開業したばかりのメイジー・ダブズ。コヴェントガーデンでの野菜の引き売り商人を父とする13歳のメイジーは、生計を立てるため、父が出入りしていたコンプトン家に住み込みメイドの職を得る。本好きのメイジーは屋敷の蔵書に魅せられ、早朝に起きて独学を始める。ある日、一心に本を読むメイジーの姿を見たコンプトン家の奥方レディ・ローワンはメイジーにある提案を持ちかける――。
メイドからケンブリッジはガートン・カレッジの女子大生、そして従軍看護婦へ。激動の時代に生きながらも、メイジーの心は常に夜明けの空のように清澄だった。そんなふうにメイジーを導いたのはメンターであるモーリス・ブランシュ。大戦下で重要な役割を果たしつつ、貧しい人々を無料で診療する「はだしの医者」でもあるモーリスの言葉は、読むたび心に響く。
そして凄惨な戦場で芽生えた初恋とその行方、傷を負って復員した兵士たちのその後――。
時代はちょうど『アンの娘のリラ』と重なる。英国本土とカナダ、そして戦場となったフランスが重なっていく。フランダースの野に残る白い十字架が目に浮かんでくる。戦渦を経て実った恋、帰らぬ人への想いを抱きながら生きる娘たち、そして母たち――。
原書で読んではいたが、どこまで理解できていたか、いささかおぼつかないところがある。物語の展開はまだ記憶に新しいが、それでもあのときの感動がそのままに蘇ってきた。スパークスでは泣けなかったわたしだが、この作品ではみっともないほど泣けてしまう。素晴らしい作品だと素直に認められるのが嬉しい。
「謎をおおっているヴェールは早朝にとりのぞかれる。すべてを見とおす瞳は、一日が目覚める前にのみ開いている。夜明け前の数時間の神聖なときに、まどろみから知恵が解放される。そのとき、心の内なる声が聞こえるのだ。」
「メイジーは昔の夜明けを、十年以上も前の夜明けを思い出していた。あれは終わりのはじまりだった。それがずっと続いているのだ。」
2005年10月13日
"ON THE BANK OF PLUM CREEK" Laura Ingalls Wilder
Illustrated By Garth Wiliams
Harper Trophy ISBN: 0064400042
小さな家シリーズ。インディアン居留地を離れ、ミネソタの平原に引っ越したローラたち一家の生活が描かれている。
ようやく町に近いところに住むようになったので、ローラたちは学校や教会に通い始める。ローラにとって天敵のようなネリー・オルソンも登場。テレビシリーズのイメージに一番近いのはこの巻かな?
天災にも遭うが、ローラたち一家は挫けない。その強さ、たくましさは西部開拓者たち皆に共通するものなのだろう。
このシリーズは読みやすくて元気が出る。何冊か読んでいるので、なじみがあるからかもしれない。
あの穴蔵みたいな家は邦訳でどう訳されているのか気になったので、調べてみたら、「横穴小屋」でした(福音館新書)原始的かという先入観があったが、意外と居心地よさそうだ。生き延びるためには、使えるものは何でも使わなければいけなかったのだろう。
父さんと母さんが町へ買い物に行き、子どもたちだけで留守番をしているときに思わぬことが!という場面もあり、ドキドキした。
この子たちはしっかりしている。うちのヒヨヒヨさんとは大違いだ。もっと鍛えなければいけない(母もかな?)
Harper Trophy ISBN: 0064400042
小さな家シリーズ。インディアン居留地を離れ、ミネソタの平原に引っ越したローラたち一家の生活が描かれている。
ようやく町に近いところに住むようになったので、ローラたちは学校や教会に通い始める。ローラにとって天敵のようなネリー・オルソンも登場。テレビシリーズのイメージに一番近いのはこの巻かな?
天災にも遭うが、ローラたち一家は挫けない。その強さ、たくましさは西部開拓者たち皆に共通するものなのだろう。
このシリーズは読みやすくて元気が出る。何冊か読んでいるので、なじみがあるからかもしれない。
あの穴蔵みたいな家は邦訳でどう訳されているのか気になったので、調べてみたら、「横穴小屋」でした(福音館新書)原始的かという先入観があったが、意外と居心地よさそうだ。生き延びるためには、使えるものは何でも使わなければいけなかったのだろう。
父さんと母さんが町へ買い物に行き、子どもたちだけで留守番をしているときに思わぬことが!という場面もあり、ドキドキした。
この子たちはしっかりしている。うちのヒヨヒヨさんとは大違いだ。もっと鍛えなければいけない(母もかな?)
2005年06月16日
"STUART LITTLE" E.B.White
HarperTrophy ISBN:0064400565
リトル家にやってきた2番目の男の子は何とネズミだった! 父と母、兄ジョージは初めは驚いたものの、スチュアートと名づけて、大事に育てた。スチュアートは、身体こそ小さくてはにかみやだが、冒険好きな男の子に育った。
ある日、リトル家にマーガロという名の小鳥が迷い込む。美しいマーガロに胸をときめかせるスチュアート。だが、マーガロはリトル家の飼い猫スノウベルに陥れられ、リトル家を離れる。マーガロを追い、スチュアートは冒険の旅に出る。
"CHARLOTTE'S WEB"に感動したので、続けて読んでみたが、こちらはあまり入り込めなかった。あまりに現実離れしていてリアリティがない。それに、スチュアートが身勝手に思われて好きになれなかった。これは大人の感想なのだろうか。子どもが読めば、ワクワクするのかもしれない。映画のビデオをうちの子たちは見ていたけど、一度きりで終わったようだ。
他の作品はどうだろう? 少し時間をおいてから考えたい。
訳書『スチュアートの大ぼうけん』さくまゆみこ訳 あすなろ書房
リトル家にやってきた2番目の男の子は何とネズミだった! 父と母、兄ジョージは初めは驚いたものの、スチュアートと名づけて、大事に育てた。スチュアートは、身体こそ小さくてはにかみやだが、冒険好きな男の子に育った。
ある日、リトル家にマーガロという名の小鳥が迷い込む。美しいマーガロに胸をときめかせるスチュアート。だが、マーガロはリトル家の飼い猫スノウベルに陥れられ、リトル家を離れる。マーガロを追い、スチュアートは冒険の旅に出る。
"CHARLOTTE'S WEB"に感動したので、続けて読んでみたが、こちらはあまり入り込めなかった。あまりに現実離れしていてリアリティがない。それに、スチュアートが身勝手に思われて好きになれなかった。これは大人の感想なのだろうか。子どもが読めば、ワクワクするのかもしれない。映画のビデオをうちの子たちは見ていたけど、一度きりで終わったようだ。
他の作品はどうだろう? 少し時間をおいてから考えたい。
訳書『スチュアートの大ぼうけん』さくまゆみこ訳 あすなろ書房
2005年03月11日
"CHARLOTTE'S WEB" E.B.White
ISBN 0064400557
8歳の少女ファーンは、小さく生まれ、育つ見込みがないという理由で殺されそうになっていた豚の赤ちゃんを助ける。ウィルバーと名づけられた春生まれのコブタはファーンに大事にされ、すくすく育つ。
生後5週間を過ぎ、もりもり食べるようになったウィルバーはおじさんの農場に売りに出されるが、ファーンは学校帰りに必ずウィルバーに会いに行った。ガチョウや羊や馬と仲良くなったウィルバーは、ある日、蜘蛛のシャーロットの存在を知る。
虫の血を糧としているというシャーロットの話に恐ろしさを感じたウィルバーだったが、物静かで知的なシャーロットとウィルバーは少しずつ友情を育んでいく。
春生まれの豚はクリスマスには食卓に出される運命にある。シャーロットは大切な友人となったウィルバーの命を救うため、あることを思いつく。それは――。
物語が終わりに近づいたところで、オスカー・ワイルドの『幸福の王子』を思い出し、シャーロットと王子が重なって見えてきた。だけど、『幸福の王子』みたいな哀切な感じではない。希望を紡いでいく、とてもいいお話だった。
シャーロットのきれいな心が胸を打つ。蜘蛛は苦手だが、これからは蜘蛛の巣を見るとシャーロットのことを思い出して、少し優しくなれるかもしれない。
いきいきと描かれた動物たちがとてもいい感じだった。人間よりも魅力的なくらいだった。このお話では、主役は農場の動物たちで、しょせん人間は脇役なのだろう。農場の動物たちの会話が楽しく、一緒になってしゃべってるファーンがかわいかった。
ほっとするお話に出会いたくて読み始めた本なのだけど、いきなりファーンの10歳になる兄がエアライフルと短剣を持って出てきたのに驚いた。子供にこんなものを持たせるなんて、と思うが、これが農場生活での現実なのだろう。
ガース・ウィリアムスのイラストもお話の雰囲気をよく表している。優しい気持ちになれる本。
8歳の少女ファーンは、小さく生まれ、育つ見込みがないという理由で殺されそうになっていた豚の赤ちゃんを助ける。ウィルバーと名づけられた春生まれのコブタはファーンに大事にされ、すくすく育つ。
生後5週間を過ぎ、もりもり食べるようになったウィルバーはおじさんの農場に売りに出されるが、ファーンは学校帰りに必ずウィルバーに会いに行った。ガチョウや羊や馬と仲良くなったウィルバーは、ある日、蜘蛛のシャーロットの存在を知る。
虫の血を糧としているというシャーロットの話に恐ろしさを感じたウィルバーだったが、物静かで知的なシャーロットとウィルバーは少しずつ友情を育んでいく。
春生まれの豚はクリスマスには食卓に出される運命にある。シャーロットは大切な友人となったウィルバーの命を救うため、あることを思いつく。それは――。
物語が終わりに近づいたところで、オスカー・ワイルドの『幸福の王子』を思い出し、シャーロットと王子が重なって見えてきた。だけど、『幸福の王子』みたいな哀切な感じではない。希望を紡いでいく、とてもいいお話だった。
シャーロットのきれいな心が胸を打つ。蜘蛛は苦手だが、これからは蜘蛛の巣を見るとシャーロットのことを思い出して、少し優しくなれるかもしれない。
いきいきと描かれた動物たちがとてもいい感じだった。人間よりも魅力的なくらいだった。このお話では、主役は農場の動物たちで、しょせん人間は脇役なのだろう。農場の動物たちの会話が楽しく、一緒になってしゃべってるファーンがかわいかった。
ほっとするお話に出会いたくて読み始めた本なのだけど、いきなりファーンの10歳になる兄がエアライフルと短剣を持って出てきたのに驚いた。子供にこんなものを持たせるなんて、と思うが、これが農場生活での現実なのだろう。
ガース・ウィリアムスのイラストもお話の雰囲気をよく表している。優しい気持ちになれる本。
2005年03月04日
"WINTER FROST" R.D.Wingfield
[書名] "WINTER FROST"
[著者名] R.D.Wingfield
[発行年月日] 2000
[出版社] Corgi Books
[ISBN] 0-552-14778-8
[定価] UK £5.99
フロスト警視シリーズ第五作。
デントン警察の警視フロストは、煙草を吹かし、下手なジョークを飛ばし、美女には弱いオヤジ警視。思い込みも激しいが、情に厚く、いざというとき頼れるタイプ。
デントン市で九週間前から八歳の女の子が行方不明になっている。それだけでなく、売春婦が次々と遺体で発見され、十一歳の女の子もまた行方がわからなくなる
フロストは怪しい人間に目星をつけては連行するが、いずれも決定的な証拠はつかめない。上司は経費節減を何よりも優先し、部下ときたらヘマばかり。窮したフロストはある作戦を立てるが、その作戦の実行中にとんでもない事件が起こる。
次から次へと死体が出てきて、容疑者らしき人物はたくさん出てくるが、どうもフロスト警視は思いこみが激しいようで、かんじんなところが抜けていて、結局釈放というパターンが続く。
事件がたくさんありすぎてどれがどれだかわからなくなってしまい、これで収拾がつくのだろうかと、途中で心配になった。だが、終盤で一気に事件が解決していく過程は息つく間もないほど見事である。(だが、なぜかフロスト警視の手柄ではないところが何とも言えずおかしい)
[著者名] R.D.Wingfield
[発行年月日] 2000
[出版社] Corgi Books
[ISBN] 0-552-14778-8
[定価] UK £5.99
フロスト警視シリーズ第五作。
デントン警察の警視フロストは、煙草を吹かし、下手なジョークを飛ばし、美女には弱いオヤジ警視。思い込みも激しいが、情に厚く、いざというとき頼れるタイプ。
デントン市で九週間前から八歳の女の子が行方不明になっている。それだけでなく、売春婦が次々と遺体で発見され、十一歳の女の子もまた行方がわからなくなる
フロストは怪しい人間に目星をつけては連行するが、いずれも決定的な証拠はつかめない。上司は経費節減を何よりも優先し、部下ときたらヘマばかり。窮したフロストはある作戦を立てるが、その作戦の実行中にとんでもない事件が起こる。
次から次へと死体が出てきて、容疑者らしき人物はたくさん出てくるが、どうもフロスト警視は思いこみが激しいようで、かんじんなところが抜けていて、結局釈放というパターンが続く。
事件がたくさんありすぎてどれがどれだかわからなくなってしまい、これで収拾がつくのだろうかと、途中で心配になった。だが、終盤で一気に事件が解決していく過程は息つく間もないほど見事である。(だが、なぜかフロスト警視の手柄ではないところが何とも言えずおかしい)
"THE COLOR PURPLE" Alice Walker
誰よりも大切なわたしの妹ネッティー、生きてたら手紙をちょうだい。
継父に犯され、産まれた子どもは連れて行かれた。道具のように嫁がされた16歳の黒人少女セリーは、利発な妹ネッティーだけのために生きていた。家を出てきた妹に向けられる夫の目。一人、家を出るネッティー。
生きている間は手紙を書き続けよう、それが2人の別れの言葉だった。だが、手紙は来なかった……。
そんなセリーが出会ったのは、自由に生きる女シャグ。歌手のシャグは、夫の愛人でもあった。目覚めていくセリー。過去を語るセリーを抱きしめるシャグ。セリーとシャグがセリーの夫アルバートのスーツケースの中から見つけたのは……。
父に逆らおうとして逆らえないおひとよしのハーポ、市長を殴って投獄されたハーポの妻ソフィア、黄色い肌の女キーキー。
ネッティに会えないまま、長い年月が過ぎた。ネッティー、あたしは、自分のお店を持ってるんだよ。
おれを大事に思ってくれたのはシャグだけだった、と、夫のアルバートが言う。 そう、シャグは愛されたとき、どう応えたらいいのか、わかってる。
シャグが帰ってきたら、あたしは嬉しい。でも、帰ってこなくても、あたしはやっていける。
いつか、シャグが神のことを話してくれた。白いひとたちの神ではなく、あたしたちの神。どこにでもいて、愛されたがっている。そう、あのむらさきいろにもね。
土ぼこりをあげてくるのは誰? 郵便屋さん? 違う、あれは、あれは……!
物語を世に送り出してくれたAlice Walkerと精霊に感謝。
詩人でもあるアリス・ウォーカーが描く魂の世界。セリーの心がまっすぐに伝わってきます。
継父に犯され、産まれた子どもは連れて行かれた。道具のように嫁がされた16歳の黒人少女セリーは、利発な妹ネッティーだけのために生きていた。家を出てきた妹に向けられる夫の目。一人、家を出るネッティー。
生きている間は手紙を書き続けよう、それが2人の別れの言葉だった。だが、手紙は来なかった……。
そんなセリーが出会ったのは、自由に生きる女シャグ。歌手のシャグは、夫の愛人でもあった。目覚めていくセリー。過去を語るセリーを抱きしめるシャグ。セリーとシャグがセリーの夫アルバートのスーツケースの中から見つけたのは……。
父に逆らおうとして逆らえないおひとよしのハーポ、市長を殴って投獄されたハーポの妻ソフィア、黄色い肌の女キーキー。
ネッティに会えないまま、長い年月が過ぎた。ネッティー、あたしは、自分のお店を持ってるんだよ。
おれを大事に思ってくれたのはシャグだけだった、と、夫のアルバートが言う。 そう、シャグは愛されたとき、どう応えたらいいのか、わかってる。
シャグが帰ってきたら、あたしは嬉しい。でも、帰ってこなくても、あたしはやっていける。
いつか、シャグが神のことを話してくれた。白いひとたちの神ではなく、あたしたちの神。どこにでもいて、愛されたがっている。そう、あのむらさきいろにもね。
土ぼこりをあげてくるのは誰? 郵便屋さん? 違う、あれは、あれは……!
物語を世に送り出してくれたAlice Walkerと精霊に感謝。
詩人でもあるアリス・ウォーカーが描く魂の世界。セリーの心がまっすぐに伝わってきます。
"MRS DALLOWAY" Virginia Woolf
「花はわたしが買ってくるわ」
第二次世界大戦と第二次世界大戦のはざま、六月のロンドン。
パーティの準備をする上院議員夫人、クラリッサ・ダロウェイのもとを訪れたのは、かつての恋人ピーター・ウェルシュ。昼食に招かれた夫リチャード。年上の友人ミス・キルマンと出かけた娘エリザベス。
第一次世界大戦に従軍し、戦友とも言える上司を亡くしてから、死に魅入られているような青年セプティミス。イタリア人の妻レティア。
ダロウェイ夫人を中心とする人々の六月のある一日が描かれています。
;で区切られた文章が続く箇所は、ぼんやり読んでいると、だれの気持ちを描いているのか、わからなくなります。 でも、しっかりついていくと、独特のリズムのある流れるような文章の美しさに魅了されます。
生と死、喪失、老い、あり得たかもしれないもう一つの人生……それらをめぐる心のたゆたいが詩的に描かれています。そして、わたしはだれなのか、という問いが心の中に残るような気がしています。
日本語注釈付きの本です。巻末に単語集のような形で説明が載っています。ちょっとした説明がありがたいです。これがなければ、わたしでは、ほんとに薄ぼんやりとした理解しかできないでしょう。
どこまで読み取れているのかちょっと不安なので、折を見てまた読み返したいと思います。ウルフの作品をもっと読んでみたい。かなり背伸びした望みなのですが、こういう作品を書いたウルフに、今とても惹かれています 。
六月のロンドンに行ってみたくなりました。
第二次世界大戦と第二次世界大戦のはざま、六月のロンドン。
パーティの準備をする上院議員夫人、クラリッサ・ダロウェイのもとを訪れたのは、かつての恋人ピーター・ウェルシュ。昼食に招かれた夫リチャード。年上の友人ミス・キルマンと出かけた娘エリザベス。
第一次世界大戦に従軍し、戦友とも言える上司を亡くしてから、死に魅入られているような青年セプティミス。イタリア人の妻レティア。
ダロウェイ夫人を中心とする人々の六月のある一日が描かれています。
;で区切られた文章が続く箇所は、ぼんやり読んでいると、だれの気持ちを描いているのか、わからなくなります。 でも、しっかりついていくと、独特のリズムのある流れるような文章の美しさに魅了されます。
生と死、喪失、老い、あり得たかもしれないもう一つの人生……それらをめぐる心のたゆたいが詩的に描かれています。そして、わたしはだれなのか、という問いが心の中に残るような気がしています。
日本語注釈付きの本です。巻末に単語集のような形で説明が載っています。ちょっとした説明がありがたいです。これがなければ、わたしでは、ほんとに薄ぼんやりとした理解しかできないでしょう。
どこまで読み取れているのかちょっと不安なので、折を見てまた読み返したいと思います。ウルフの作品をもっと読んでみたい。かなり背伸びした望みなのですが、こういう作品を書いたウルフに、今とても惹かれています 。
六月のロンドンに行ってみたくなりました。
『半身』サラ・ウォーターズ 中村有希訳 創元推理文庫
心に孤独を抱いた令嬢マーガレットは、知人の薦めによりミルバンク監獄へ「貴婦人の慰問」に通う。そこで、出会ったのは、不思議な静謐に包まれた娘、シライナ。
霊媒としてその名を馳せていたシライナはある事件により、この監獄へ収監された。その事件とは? そして、マーガレットは?
監獄の描写がリアル。リアルすぎて気持ち悪くなるほどだった。
このころの監獄は更正ではなく、懲罰を目的としていた。『大いなる遺産』にも描かれていたが、その凄惨な有様には、身の毛がよだつ。また、収監されている女囚も、その一人一人がそばにいるように感じられた。
このころ流行したと言われる交霊会、そこにあらわれる霊の描写も怖いぐらいであった。夜中に一人で読んでいると、気味悪くなって思わず後ろにだれかいないか確認してしまった。
そんな中でのマーガレットの心の動きが日記に綴られ、寄り添うように事件の前のシライナの日記が提示される。少しずつ明らかにされていく謎。揺れ動く心。ときには妖しく、ときには哀しく。
ゴチックというのか、ホラーというのか、どう表現するのが適切なのかよくわからないのだけれど、閉ざされたミルバンク監獄の中に引きずり込まれ、霊に操られるような幻覚に誘われながら、いつしか、めまいがするようなラストシーンへと導かれていた。
まだ片足はミルバンクに残っているような、そんな感覚の中にいる。怖ろしいほどの物語である。
"AFFINITY" Sarah Waters
霊媒としてその名を馳せていたシライナはある事件により、この監獄へ収監された。その事件とは? そして、マーガレットは?
監獄の描写がリアル。リアルすぎて気持ち悪くなるほどだった。
このころの監獄は更正ではなく、懲罰を目的としていた。『大いなる遺産』にも描かれていたが、その凄惨な有様には、身の毛がよだつ。また、収監されている女囚も、その一人一人がそばにいるように感じられた。
このころ流行したと言われる交霊会、そこにあらわれる霊の描写も怖いぐらいであった。夜中に一人で読んでいると、気味悪くなって思わず後ろにだれかいないか確認してしまった。
そんな中でのマーガレットの心の動きが日記に綴られ、寄り添うように事件の前のシライナの日記が提示される。少しずつ明らかにされていく謎。揺れ動く心。ときには妖しく、ときには哀しく。
ゴチックというのか、ホラーというのか、どう表現するのが適切なのかよくわからないのだけれど、閉ざされたミルバンク監獄の中に引きずり込まれ、霊に操られるような幻覚に誘われながら、いつしか、めまいがするようなラストシーンへと導かれていた。
まだ片足はミルバンクに残っているような、そんな感覚の中にいる。怖ろしいほどの物語である。
"AFFINITY" Sarah Waters
2005年01月09日
『犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』
コニー・ウィリス 大森望訳 早川書房海外SFノヴェルズ ISBN: 4152085533
2057年のイギリス、オックスフォード大学史学部。第2次世界大戦中に空襲を受けて焼失したコヴェントリー大聖堂を細部に至るまで修復せよとのレイディ・シュプラネルからの厳命を受け、史学生たちは時間旅行を繰り返していた。
大聖堂にあったはずの「主教の鳥株」と銘打たれたヴィクトリア朝花瓶の調査を担当していたネッドは、たび重なる時間旅行により、時差ぼけならぬ時代差ぼけ(タイムラグ)を起こして倒れる。ネッドを気遣い、ダンワージー先生はレイディ・シュプラネルのいない19世紀ヴィクトリア朝へネッドを派遣する。
同じ時代に派遣された女子学生ヴェリティとともにネッドは、自分たちのせいで歴史の流れが史実と異なっていくのを修正しようとするが、何をしても裏目に出る羽目に陥る。はたしてずれは修正できるのか、任務は達成できるのか、ふたりは現代に帰れるのか。SFでもあり、ミステリでもあり、歴史小説でもあり、はたまたロマンスありと、ジャンルを超えた楽しみ方ができる作品である。
SFだと決め込み、2004年ミステリベストを選ぶときに後回しにしてしまったが、いざ読んでみると、しっかりミステリしているのに驚いた。惜しいことをした。
内容もさることながら、もともとは1930年代担当のヴェリティが披瀝するミステリの蘊蓄ににやりとさせられた。セイヤーズを読んでおいてよかった! (フルネームで表記する際には「ドロシー・L・セイヤーズ」が正しいらしい)ただ、『月長石』のネタバレがされているのはいかがなものか。いつかは読みたい本だったので、この点は残念である。
1888年に降り立ったネッドはオックスフォード大学生テレンスと出会い、犬のシリルとともにテムズ河下りに出、途中、歴史教授ベティックも加わる。本書の題名は、ジェローム・K・ジェロームが1889年に発表したユーモア小説『ボートの三人男』の副題に由来する。章題の付け方も『ボートの三人男』にならっており、これだけでもにやりと笑える上に、実際にテムズ川で両者が行き交う場面まであり、著者の遊び心がうかがえる。
『ボートの三人男』では「勘定に入っていない」犬のモンモランシーの存在感に圧倒されたが、本作に登場するブルドッグ、シリルは、猫のプリンセス・アージュマンド(すごい名前)に迫力負けしているようだ。
人間ブルドーザーの如く強引きわまりないレイディ・シュプラネルもさることながら、レイディ・シュラプネルの曾々々々々祖母であり、世界は自分を中心に回っていると言いたげなフリフリお嬢様トシー、降霊術に凝るミアリング夫人、詩人を気取るおぼっちゃまテレンス、読書家の執事ベインなど、一癖も二癖もあるヴィクトリア朝の人々がおもしろい。
歴史上の出来事についての省察も興味深く、歴史を勉強し直したくなった。あとがきによると、著者は現在、ロンドン大空襲をテーマとした作品を執筆中とのこと。こちらも楽しみである。UFO陰謀理論ネタのコメディも読んでみたい。
ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作品であり、『ドゥームズデイ・ブック』の姉妹編。他に『航路』『リメイク』などがある。図書館にあるのを確認したので、追い追い読んでいきたい。
この書はロバート・A・ハインラインに捧げられている。著者が『ボートの三人男』を知ったのは、ハインラインの『大宇宙の少年』(創元SF文庫の現行版では『スターファイター』)からとのこと。こちらも読んでみたい。
"TO SAY NOTHING OF THE DOG or How We Found The Bishop's Bird Stump At Last"
Cinnie Willis
2057年のイギリス、オックスフォード大学史学部。第2次世界大戦中に空襲を受けて焼失したコヴェントリー大聖堂を細部に至るまで修復せよとのレイディ・シュプラネルからの厳命を受け、史学生たちは時間旅行を繰り返していた。
大聖堂にあったはずの「主教の鳥株」と銘打たれたヴィクトリア朝花瓶の調査を担当していたネッドは、たび重なる時間旅行により、時差ぼけならぬ時代差ぼけ(タイムラグ)を起こして倒れる。ネッドを気遣い、ダンワージー先生はレイディ・シュプラネルのいない19世紀ヴィクトリア朝へネッドを派遣する。
同じ時代に派遣された女子学生ヴェリティとともにネッドは、自分たちのせいで歴史の流れが史実と異なっていくのを修正しようとするが、何をしても裏目に出る羽目に陥る。はたしてずれは修正できるのか、任務は達成できるのか、ふたりは現代に帰れるのか。SFでもあり、ミステリでもあり、歴史小説でもあり、はたまたロマンスありと、ジャンルを超えた楽しみ方ができる作品である。
SFだと決め込み、2004年ミステリベストを選ぶときに後回しにしてしまったが、いざ読んでみると、しっかりミステリしているのに驚いた。惜しいことをした。
内容もさることながら、もともとは1930年代担当のヴェリティが披瀝するミステリの蘊蓄ににやりとさせられた。セイヤーズを読んでおいてよかった! (フルネームで表記する際には「ドロシー・L・セイヤーズ」が正しいらしい)ただ、『月長石』のネタバレがされているのはいかがなものか。いつかは読みたい本だったので、この点は残念である。
1888年に降り立ったネッドはオックスフォード大学生テレンスと出会い、犬のシリルとともにテムズ河下りに出、途中、歴史教授ベティックも加わる。本書の題名は、ジェローム・K・ジェロームが1889年に発表したユーモア小説『ボートの三人男』の副題に由来する。章題の付け方も『ボートの三人男』にならっており、これだけでもにやりと笑える上に、実際にテムズ川で両者が行き交う場面まであり、著者の遊び心がうかがえる。
『ボートの三人男』では「勘定に入っていない」犬のモンモランシーの存在感に圧倒されたが、本作に登場するブルドッグ、シリルは、猫のプリンセス・アージュマンド(すごい名前)に迫力負けしているようだ。
人間ブルドーザーの如く強引きわまりないレイディ・シュプラネルもさることながら、レイディ・シュラプネルの曾々々々々祖母であり、世界は自分を中心に回っていると言いたげなフリフリお嬢様トシー、降霊術に凝るミアリング夫人、詩人を気取るおぼっちゃまテレンス、読書家の執事ベインなど、一癖も二癖もあるヴィクトリア朝の人々がおもしろい。
歴史上の出来事についての省察も興味深く、歴史を勉強し直したくなった。あとがきによると、著者は現在、ロンドン大空襲をテーマとした作品を執筆中とのこと。こちらも楽しみである。UFO陰謀理論ネタのコメディも読んでみたい。
ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作品であり、『ドゥームズデイ・ブック』の姉妹編。他に『航路』『リメイク』などがある。図書館にあるのを確認したので、追い追い読んでいきたい。
この書はロバート・A・ハインラインに捧げられている。著者が『ボートの三人男』を知ったのは、ハインラインの『大宇宙の少年』(創元SF文庫の現行版では『スターファイター』)からとのこと。こちらも読んでみたい。
"TO SAY NOTHING OF THE DOG or How We Found The Bishop's Bird Stump At Last"
Cinnie Willis
2004年12月28日
『蛇の形』ミネット・ウォルターズ 成川裕子訳 創元推理文庫
"THE SHAPE OF SNAKES" Minette Walters
ISBN: 4488187064
1978年11月のある雨の夜、ロンドン南西部の住宅地グレアム・ロードに住む教師ミセス・ラニラは仕事からの帰り道、同じ通りに住む唯一の黒人女性アニー・バッツが自宅前の側溝に倒れているのを発見する。ミセス・ラニラが救急車を呼んでいる間にアンは息を引き取る。アニーの死は偶発事故によるものとして処理され、その後まもなくミセス・ラニラは夫と共にイギリスを離れた。
20年後、夫の心臓発作を契機にミセス・ラニラは夫と2人の息子とともにイギリスに帰国。ミセス・ラニラは20年前のアニーの死は殺人であると立証するため、当時の関係者らのもとを訪れる。薄い紙を1枚1枚はがすように、徐々に明らかにされていく事実とは? そして、アニーの死の真相は?
『女彫刻家』に続いて、ミネット・ウォルターズを読むのは2冊目。
ミネット・ウォルターズはうまい書き手だと認めるが、好きな作家ではない。この人は人間のいやな部分を書くことにかけては第一人者である。本書も、ミセス・ラニラの語りの合間に昔の手紙や報告書などを挟み込んだ凝ったつくりになっていて、その巧みさに感嘆する。だけど、この気持ち悪さ、後味の悪さときたら……。口直しならぬ目直し(?)にモンゴメリかピルチャーでも読まないと、いやな夢を見てしまいそうだ。
イギリスの女性作家はおしなべて、いやな人を書くのがうまいが、どこにでもいる普通の人の心の奥底に秘められたいやらしさや汚らしさを描くことにかけてはこの人の右に出るものはない。確かに、自分にもそういう部分があるのは認める。認めるしかないじゃないという半ば開き直りのようなものではあるが。だけど、何もここまで書かなくてもという気がしてしまうのだ。
それでも読んでしまうのは、設定が巧みであるのみならず、泣かせどころを心得ているからかもしれない。本作での最後の手紙や『女彫刻家』でナルニア国物語を語る場面に見られたように、泣かせるのもうまい。人の心の中に潜む邪悪な要素を容赦なく暴くと同時に、切ないほどの叙情性をも内に秘めている。だから、読まずにいられない。ミネット・ウォルターズにはそんなとらえどころのない不思議な魅力がある。
読むには覚悟が要るけれども、気になるミネット・ウォルターズ、追いかけていきたい作家である。
ISBN: 4488187064
1978年11月のある雨の夜、ロンドン南西部の住宅地グレアム・ロードに住む教師ミセス・ラニラは仕事からの帰り道、同じ通りに住む唯一の黒人女性アニー・バッツが自宅前の側溝に倒れているのを発見する。ミセス・ラニラが救急車を呼んでいる間にアンは息を引き取る。アニーの死は偶発事故によるものとして処理され、その後まもなくミセス・ラニラは夫と共にイギリスを離れた。
20年後、夫の心臓発作を契機にミセス・ラニラは夫と2人の息子とともにイギリスに帰国。ミセス・ラニラは20年前のアニーの死は殺人であると立証するため、当時の関係者らのもとを訪れる。薄い紙を1枚1枚はがすように、徐々に明らかにされていく事実とは? そして、アニーの死の真相は?
『女彫刻家』に続いて、ミネット・ウォルターズを読むのは2冊目。
ミネット・ウォルターズはうまい書き手だと認めるが、好きな作家ではない。この人は人間のいやな部分を書くことにかけては第一人者である。本書も、ミセス・ラニラの語りの合間に昔の手紙や報告書などを挟み込んだ凝ったつくりになっていて、その巧みさに感嘆する。だけど、この気持ち悪さ、後味の悪さときたら……。口直しならぬ目直し(?)にモンゴメリかピルチャーでも読まないと、いやな夢を見てしまいそうだ。
イギリスの女性作家はおしなべて、いやな人を書くのがうまいが、どこにでもいる普通の人の心の奥底に秘められたいやらしさや汚らしさを描くことにかけてはこの人の右に出るものはない。確かに、自分にもそういう部分があるのは認める。認めるしかないじゃないという半ば開き直りのようなものではあるが。だけど、何もここまで書かなくてもという気がしてしまうのだ。
それでも読んでしまうのは、設定が巧みであるのみならず、泣かせどころを心得ているからかもしれない。本作での最後の手紙や『女彫刻家』でナルニア国物語を語る場面に見られたように、泣かせるのもうまい。人の心の中に潜む邪悪な要素を容赦なく暴くと同時に、切ないほどの叙情性をも内に秘めている。だから、読まずにいられない。ミネット・ウォルターズにはそんなとらえどころのない不思議な魅力がある。
読むには覚悟が要るけれども、気になるミネット・ウォルターズ、追いかけていきたい作家である。
『だが、憎しみというのは不毛な感情だ。憎まれた側より憎んだ側を、だめにする。』
2004年11月27日
"DEAR ENEMY" Jean Webster
『あしながおじさん』"DADDY-LONG-LEGS"で知られるウェブスターの作品。『あしながおじさん』の続編というより『その後』とした方が適切かもしれない。
ジュディからリペット元院長の後任としてジョン・グリア・ホームの院長を任されたサリー・マクブライドはメイドのジェーンと愛犬ボリスシンガポール(みじこさんにご指摘いただき訂正しました)を連れてホームに赴任する。ホームでの生活はお嬢さん育ちのサリーにとって驚きの連続だった。
リペット院長のやり方を踏襲することしか考えない職員、遊ぶことも知らない孤児たち、そして何より手強いのはホームに派遣されたマクレー医師だった。サリーの支えはワシントンにいる議員である恋人ゴードン氏。
いやいやながら院長を引き受けたサリーだったが、子どもたちと暮らす中でいつしか理想的な孤児院運営に向けてホームの改革に取り組み始める。ぶつかり合いながらも、マクレー医師とサリーは子どもたちの幸せという共通の目的に向かってともに手を取り合うようになっていった。
だが、改革はすぐには進まない上、マクレー医師はなぜかサリーを避けるようになる。自信をなくしたサリーはゴードン氏の強引なくらいの求婚を受け、婚約する。
そんなある日、思いがけない事件が起き――。
"DADDY-LONG-LEGS"と同じくイラストは素朴で懐かしく、サリーの手紙から結婚後のジュディの生活がかいま見えるのはおもしろい。
とりどりに個性的な孤児たちだが、その中でも、サディ・ケイトの存在感が圧倒的。アレグラたち3兄妹のエピソードも心に残る。
題名の"DEAR ENEMY"はマクレー医師のことのようだ。赤毛でアイルランド系、元気いっぱいのサリーに対してスコットランド出身で笑顔一つ見せない悲観的な医師マクレー。マクレー医師に対してサリーの気持ちが動いていくところはなかなか読みごたえがある。手紙の宛名が変わっていくことにも注目したい。
どーんと大きな建物に全員を詰め込むのではなく、グループホームのような家庭的な雰囲気での生活を目指すサリーの改革案にはもろ手を挙げて賛成する。この物語が書かれた時代(1912)を考えると、これは画期的な考えであると驚嘆している。
だが、知的障害についての偏見はいただけない。知的障害者には子どもを産ませてはならないなんていうのは優生思想そのものだ。時代背景がそうであったのだろうが、やはりそういう考え方には抵抗を感じる。
だれもが望むであろう華やかな将来を約束するゴードンとの婚約後、自分の気持ちを見つめ直すサリーに現代にも通じるものを感じた。そして、最後は自分で決断を下し、責任を引き受けるサリーは好感の持てる、応援したくなる存在である。サリーの書いた最後の手紙は心を打つ素晴らしい手紙だった。
結末は予想どおりだったが、そこに至る過程はなかなか読みごたえがあった。よくある展開だが、その処理の仕方がいい。今後への希望を抱かせてくれた。
『あしながおじさん』ほど一般受けはしないかもしれないが、こちらの方が好きかもしれない。原書、訳書ともに入手しにくいようだが、機会があれば一読をお勧めしたい。
原書マラソン 588/10000
ジュディからリペット元院長の後任としてジョン・グリア・ホームの院長を任されたサリー・マクブライドはメイドのジェーンと愛犬
リペット院長のやり方を踏襲することしか考えない職員、遊ぶことも知らない孤児たち、そして何より手強いのはホームに派遣されたマクレー医師だった。サリーの支えはワシントンにいる議員である恋人ゴードン氏。
いやいやながら院長を引き受けたサリーだったが、子どもたちと暮らす中でいつしか理想的な孤児院運営に向けてホームの改革に取り組み始める。ぶつかり合いながらも、マクレー医師とサリーは子どもたちの幸せという共通の目的に向かってともに手を取り合うようになっていった。
だが、改革はすぐには進まない上、マクレー医師はなぜかサリーを避けるようになる。自信をなくしたサリーはゴードン氏の強引なくらいの求婚を受け、婚約する。
そんなある日、思いがけない事件が起き――。
"DADDY-LONG-LEGS"と同じくイラストは素朴で懐かしく、サリーの手紙から結婚後のジュディの生活がかいま見えるのはおもしろい。
とりどりに個性的な孤児たちだが、その中でも、サディ・ケイトの存在感が圧倒的。アレグラたち3兄妹のエピソードも心に残る。
題名の"DEAR ENEMY"はマクレー医師のことのようだ。赤毛でアイルランド系、元気いっぱいのサリーに対してスコットランド出身で笑顔一つ見せない悲観的な医師マクレー。マクレー医師に対してサリーの気持ちが動いていくところはなかなか読みごたえがある。手紙の宛名が変わっていくことにも注目したい。
どーんと大きな建物に全員を詰め込むのではなく、グループホームのような家庭的な雰囲気での生活を目指すサリーの改革案にはもろ手を挙げて賛成する。この物語が書かれた時代(1912)を考えると、これは画期的な考えであると驚嘆している。
だが、知的障害についての偏見はいただけない。知的障害者には子どもを産ませてはならないなんていうのは優生思想そのものだ。時代背景がそうであったのだろうが、やはりそういう考え方には抵抗を感じる。
だれもが望むであろう華やかな将来を約束するゴードンとの婚約後、自分の気持ちを見つめ直すサリーに現代にも通じるものを感じた。そして、最後は自分で決断を下し、責任を引き受けるサリーは好感の持てる、応援したくなる存在である。サリーの書いた最後の手紙は心を打つ素晴らしい手紙だった。
結末は予想どおりだったが、そこに至る過程はなかなか読みごたえがあった。よくある展開だが、その処理の仕方がいい。今後への希望を抱かせてくれた。
『あしながおじさん』ほど一般受けはしないかもしれないが、こちらの方が好きかもしれない。原書、訳書ともに入手しにくいようだが、機会があれば一読をお勧めしたい。
原書マラソン 588/10000
2004年11月21日
"LITTLE HOUSE IN THE BIG WOODS" by Laura Ingalls Wilder
かよこさんが読んでおられたのを見て読んでみたくなり、早速購入して読みました。LITTLE HOUSEシリーズは"LITTLE HOUSE ON THE PRAIRIE""BY THE SHORES OF SILVER LAKE"に続いて3冊目です。順番ばらばらに読んでいます(^^;)
こちらはLITTLE HOUSEシリーズの第1巻。秋の終わりから始まり、クリスマス、春、夏を経て再び冬の訪れを迎えるまでの1年間、大きな森でのローラたち一家の生活が描かれています。
父さんも母さんも働き者ですね。そうでないと生きてはいけないのですけど。衣食住、これが生活の原点なのだということを改めて考えさせられます。
現代のわたしたちの目から見るととても厳しい生活なのですが、親戚同志で訪問し合ったり、ダンスをしたり、いろいろな形で楽しい時間をつくっているところに感銘を受けました。
そして、何より印象的なのはやはりクリスマスです。とうもろこしの軸で作ったものではなく、本物の布人形を抱いて夢中になっているローラの幸せそうな顔! わたしの持っているPBのさし絵はガース・ウィリアムズなのですが、表紙絵がこの場面になっています。アマゾンで見ていたよりもローラの目がちょっときついような気がします(^^;) 高価ではなくても相手を思い、心のこもった贈り物を交換し合うこと、これこそクリスマスですね。
みんなで町まで買い物に行った帰りに父さんが歌う歌――"But it ever so humble,there's no place like home."、こんなふうに思えるのは幸せ、とりわけ子どもにとってそうであってほしいと願っています。"there's no place like home."、PBでよく見かけるフレーズです。
大切なものを思い出させてくれるこのシリーズ、大切にしたいですね!
続けて読んでみたいのですが、積読本をさきに読んでいく予定です。このシリーズはおそらく絶版にはならないだろうから(甘いかな?)、折を見てそろえていこうと思っています。
原書マラソン 238/10000
こちらはLITTLE HOUSEシリーズの第1巻。秋の終わりから始まり、クリスマス、春、夏を経て再び冬の訪れを迎えるまでの1年間、大きな森でのローラたち一家の生活が描かれています。
父さんも母さんも働き者ですね。そうでないと生きてはいけないのですけど。衣食住、これが生活の原点なのだということを改めて考えさせられます。
現代のわたしたちの目から見るととても厳しい生活なのですが、親戚同志で訪問し合ったり、ダンスをしたり、いろいろな形で楽しい時間をつくっているところに感銘を受けました。
そして、何より印象的なのはやはりクリスマスです。とうもろこしの軸で作ったものではなく、本物の布人形を抱いて夢中になっているローラの幸せそうな顔! わたしの持っているPBのさし絵はガース・ウィリアムズなのですが、表紙絵がこの場面になっています。アマゾンで見ていたよりもローラの目がちょっときついような気がします(^^;) 高価ではなくても相手を思い、心のこもった贈り物を交換し合うこと、これこそクリスマスですね。
みんなで町まで買い物に行った帰りに父さんが歌う歌――"But it ever so humble,there's no place like home."、こんなふうに思えるのは幸せ、とりわけ子どもにとってそうであってほしいと願っています。"there's no place like home."、PBでよく見かけるフレーズです。
大切なものを思い出させてくれるこのシリーズ、大切にしたいですね!
続けて読んでみたいのですが、積読本をさきに読んでいく予定です。このシリーズはおそらく絶版にはならないだろうから(甘いかな?)、折を見てそろえていこうと思っています。
原書マラソン 238/10000
2004年09月07日
『女彫刻家』ミネット・ウォルターズ 成川裕子訳
フリーライターのロズことロザリンド・リーはエージェントであるアイリスの指示により、殺人犯オリーヴ・マーティンについての本を出すことになる。オリーヴは母と妹アリソンことアンバーを殺し、遺体を切り刻んで並べかえるというむごたらしい殺害を行ったとされ、懲役25年の刑に服していた。でっぷりと太ったオリーヴは、全面的に罪を認め、一切の弁護を拒んでいた。
オリーヴに面会したロズは、オリーヴが知的で妹に対して優しささえうかがわせたことに驚き、オリーヴに奇妙な共感を覚える。そして、オリーヴが手を下したのかどうか、疑い始める。
オリーヴの周囲の人々に話を聞くうちにリズは、誰からも愛されていたというアンバーの意外な素顔やマーティン家の実像を知り、オリーヴの孤独に心が動かされていく。オリーヴとアンバーが通っていた高校の校長は、ロズに「オリーヴの言うことはみんな嘘」だと忠告する。
犯行直後に現場に駆けつけ、オリーヴを逮捕した警官ハルは既に退官してレストランを開いていた。ロズは、どこか影のあるハルに惹かれていく。ハルの協力のもと、ロズは聞き取りを続けていく。そして、明らかになったのは?
孤独な女性が女囚をたびたび訪問するうちに何かが少しずつ明らかにされていく、このパターンはサラ・ウォーターズ『半身』と似ている。『半身』の菫の花を手にした美少女と、この作品の醜悪なくらい肥満した娘とはいう違いはあるが。訪問を重ね、調査を進めていくロズとともに、オリーヴというこの娘にいつしか心を寄せずにいられなくなった。もう1つ違う点は、この作品にはハルという元警官が関わってくることだろう。ハルとのスリリングなロマンスもまた、この作品の読みどころといえよう。
怖い小説だった。怖すぎて、夜中に書き込みができなくて、ほろ酔い状態だったのに、牛乳を飲みながら軽い本を読んで気分を落ち着けてからでないと眠れないほどであった。むごたらしい殺人を題材にした話だからというのもあるが、それよりも人間の怖さを見せつけられたような怖さの方が勝っていた。最後のパラグラフを読んだら、身の毛がよだってしまった。
何ともむごたらしい事件を描いたこの作品を手にとったのは、この作品にナルニアが描かれているとどこかで目にしたためである。そうでなければ、手を出すことなどなかっただろう。
『ナルニア』は懐かしげに美しく、それゆえに一層、この物語の残虐さを際だたせるかのように描かれていた。頬を寄せて『銀のいす』を読む幼い姉妹、その姉妹の上に起こったこと。そして、小さな銀のいすのお守りがついた銀のブレスレット……。
好みではないけれど、緊迫感があり、奥行きの深い、すぐれた作品である。
THE SCULPTRESS Minette Walters
オリーヴに面会したロズは、オリーヴが知的で妹に対して優しささえうかがわせたことに驚き、オリーヴに奇妙な共感を覚える。そして、オリーヴが手を下したのかどうか、疑い始める。
オリーヴの周囲の人々に話を聞くうちにリズは、誰からも愛されていたというアンバーの意外な素顔やマーティン家の実像を知り、オリーヴの孤独に心が動かされていく。オリーヴとアンバーが通っていた高校の校長は、ロズに「オリーヴの言うことはみんな嘘」だと忠告する。
犯行直後に現場に駆けつけ、オリーヴを逮捕した警官ハルは既に退官してレストランを開いていた。ロズは、どこか影のあるハルに惹かれていく。ハルの協力のもと、ロズは聞き取りを続けていく。そして、明らかになったのは?
孤独な女性が女囚をたびたび訪問するうちに何かが少しずつ明らかにされていく、このパターンはサラ・ウォーターズ『半身』と似ている。『半身』の菫の花を手にした美少女と、この作品の醜悪なくらい肥満した娘とはいう違いはあるが。訪問を重ね、調査を進めていくロズとともに、オリーヴというこの娘にいつしか心を寄せずにいられなくなった。もう1つ違う点は、この作品にはハルという元警官が関わってくることだろう。ハルとのスリリングなロマンスもまた、この作品の読みどころといえよう。
怖い小説だった。怖すぎて、夜中に書き込みができなくて、ほろ酔い状態だったのに、牛乳を飲みながら軽い本を読んで気分を落ち着けてからでないと眠れないほどであった。むごたらしい殺人を題材にした話だからというのもあるが、それよりも人間の怖さを見せつけられたような怖さの方が勝っていた。最後のパラグラフを読んだら、身の毛がよだってしまった。
何ともむごたらしい事件を描いたこの作品を手にとったのは、この作品にナルニアが描かれているとどこかで目にしたためである。そうでなければ、手を出すことなどなかっただろう。
『ナルニア』は懐かしげに美しく、それゆえに一層、この物語の残虐さを際だたせるかのように描かれていた。頬を寄せて『銀のいす』を読む幼い姉妹、その姉妹の上に起こったこと。そして、小さな銀のいすのお守りがついた銀のブレスレット……。
好みではないけれど、緊迫感があり、奥行きの深い、すぐれた作品である。
THE SCULPTRESS Minette Walters
2004年08月13日
『マンハッタンの薔薇』 シンシア・ビクター
『マンハッタンの薔薇』 "THE SISTERS"
シンシア・ビクター/田村達子訳
講談社文庫/2004.05.15発行 914円(税別)
ISBN: 4062747650
1発の銃声が「幸せな家族」の仮面をはぐ――反目する姉妹が見たものは?
ニューヨーク郊外に居を構えるロス一家。父ジャック・ロスはニューヨークにこの人ありと知られる辣腕弁護士。母モリーは舞台衣装をデザインし制作するコスチュームペインターとして世に出ようとしていた。長女エリザベスは弁護士となり、父の片腕として事務所を支えている。次女ジョーイは一家の落ちこぼれを自認し、弁護士ではなく、ジャーナリストを志す。夫よりも自分の仕事を優先する母を批判するエリザベスと、家族に対して支配的な父に反発するジョーイ。2人が顔を合わせば、いさかいに終わるのが常だった。
ある夏の午後、モリーが自宅で射殺される。その朝、モリーと口論したエリザベスが無実であるにもかかわらず容疑者とされる。自分を逮捕すれば警察は真犯人を捜す努力などしないと考えたエリザベスは、弁護士として許されない行為と知りつつ、家を出て変装し、偽名を使って、真相を究明しようとする。
逃亡生活を送るエリザベスはジョーイとひそかに連絡を取り合い、姉妹は母を殺害した犯人を突きとめるために手を携える。捜査を重ねる中で、姉妹は互いに認め合い、許し合う。それぞれの出会いと別れ。あるときはエリザベス、あるときはジョーイに自分を投影しながら、読者は姉妹とともに犯人を追ってニューヨークを縦横無尽に駆けめぐり、スリリングな気分をたっぷりと味わうことができるだろう。
姉妹のいる方ならエリザベスとジョーイの確執は身につまされるかもしれない。長年苦しんだ広場恐怖症を克服し、自分らしく生きるために離婚を決意したモリーは、姉妹に宛てた手紙の中で自らの過去を語る。モリーは金のかごに閉じ込められた小鳥のような存在だった。きらびやかでそこにいさえすれば安楽な暮らしができる鳥かごから出てみずからの翼で飛び立とうと苦闘するモリー。その手紙からは、重い秘密を抱えながらも飾り物ではない生き方を選んだ女性の苦悩と切なさが痛いほどに伝わってくる。そして、その死がいかに理不尽なものであるかを痛烈に感じさせ、衝撃のラストへと読者を一気に導いていく。
ジョーイの年長の友人が関係する60年代に起こった殺人事件からは、学生運動が盛んだった当時の世相がうかがわれる。モリーの事件とあいまって、謎解きとしてのおもしろさだけではなく、物語としての深みを作品に与え、読者を引き込んでいく。血なまぐさい殺人と裏切りを描きながらも、その筆致はあくまでも優しく温かい。
シンシア・ビクターはシンシア・カーツとビクトリア・スカーニック、2人のペンネーム。『遺言執行人』『ダブル・シークレット』に続き、翻訳は3作目。現代を生きる等身大の女性を強さも弱さも含めて温かく描くシンシア・ビクターは、もっと注目されてよい作家である。
◇アマゾン・ジャパンへ
◇bk1へ
『海外ミステリ通信』6月号掲載分に加筆し、修正しました。
シンシア・ビクター/田村達子訳
講談社文庫/2004.05.15発行 914円(税別)
ISBN: 4062747650
1発の銃声が「幸せな家族」の仮面をはぐ――反目する姉妹が見たものは?
ニューヨーク郊外に居を構えるロス一家。父ジャック・ロスはニューヨークにこの人ありと知られる辣腕弁護士。母モリーは舞台衣装をデザインし制作するコスチュームペインターとして世に出ようとしていた。長女エリザベスは弁護士となり、父の片腕として事務所を支えている。次女ジョーイは一家の落ちこぼれを自認し、弁護士ではなく、ジャーナリストを志す。夫よりも自分の仕事を優先する母を批判するエリザベスと、家族に対して支配的な父に反発するジョーイ。2人が顔を合わせば、いさかいに終わるのが常だった。
ある夏の午後、モリーが自宅で射殺される。その朝、モリーと口論したエリザベスが無実であるにもかかわらず容疑者とされる。自分を逮捕すれば警察は真犯人を捜す努力などしないと考えたエリザベスは、弁護士として許されない行為と知りつつ、家を出て変装し、偽名を使って、真相を究明しようとする。
逃亡生活を送るエリザベスはジョーイとひそかに連絡を取り合い、姉妹は母を殺害した犯人を突きとめるために手を携える。捜査を重ねる中で、姉妹は互いに認め合い、許し合う。それぞれの出会いと別れ。あるときはエリザベス、あるときはジョーイに自分を投影しながら、読者は姉妹とともに犯人を追ってニューヨークを縦横無尽に駆けめぐり、スリリングな気分をたっぷりと味わうことができるだろう。
姉妹のいる方ならエリザベスとジョーイの確執は身につまされるかもしれない。長年苦しんだ広場恐怖症を克服し、自分らしく生きるために離婚を決意したモリーは、姉妹に宛てた手紙の中で自らの過去を語る。モリーは金のかごに閉じ込められた小鳥のような存在だった。きらびやかでそこにいさえすれば安楽な暮らしができる鳥かごから出てみずからの翼で飛び立とうと苦闘するモリー。その手紙からは、重い秘密を抱えながらも飾り物ではない生き方を選んだ女性の苦悩と切なさが痛いほどに伝わってくる。そして、その死がいかに理不尽なものであるかを痛烈に感じさせ、衝撃のラストへと読者を一気に導いていく。
ジョーイの年長の友人が関係する60年代に起こった殺人事件からは、学生運動が盛んだった当時の世相がうかがわれる。モリーの事件とあいまって、謎解きとしてのおもしろさだけではなく、物語としての深みを作品に与え、読者を引き込んでいく。血なまぐさい殺人と裏切りを描きながらも、その筆致はあくまでも優しく温かい。
シンシア・ビクターはシンシア・カーツとビクトリア・スカーニック、2人のペンネーム。『遺言執行人』『ダブル・シークレット』に続き、翻訳は3作目。現代を生きる等身大の女性を強さも弱さも含めて温かく描くシンシア・ビクターは、もっと注目されてよい作家である。
◇アマゾン・ジャパンへ
◇bk1へ
『海外ミステリ通信』6月号掲載分に加筆し、修正しました。