ハリー・ポッター最終巻。五巻のぐだぐだに嫌気がさして六巻は邦訳で済ませましたが、最後なので参加しておこうかと思って予約購入しましたが、読了までずいぶん時間がかかってしまいました。だるくて読み進められなかったのです。
正直言って、無難にまとめただけのような気がします。それなりに工夫されていますが、説明が多いですね。なじんだキャラクターの死には涙しましたが、こんなにたくさん死ななければならなかった理由は、わたしには最後まで納得できなかったというか、最後に近づくにつれ、わからなくなりました。エピローグも、青春ドラマからホームドラマに変わったような感じがしましたし、「さあ、泣きなさい」みたいなあざとさも感じました。
三巻を頂点に四巻までが華だったかなという気がします。
2007年12月23日
"MEMORY IN DEATH" J.D.Robb aka.Nora.Roberts
Berkley Pub Group 375p
2059年12月、クリスマスを迎えようとしているニューヨーク。にぎやかなパーティーのさなか、男がビルから飛び降りた。ピーボディとともに捜査に当たるイヴの前に、トルーディと名乗る女性が現れた。イヴの里親だったトルーディは、イヴの夫が大富豪であると聞きつけ、ある要求を突きつける。ロークに素気なく追い払われるが、トルーディは要求が通るまで息子ボブ夫婦とともにニューヨークに滞在すると捨てゼリフを残す。翌日、トルーディたちが滞在するホテルに赴いたイヴは、トルーディの遺体を発見する。
イヴ&ローク・シリーズ第22作。大富豪である夫ロークは、今回も大甘ぶりを発揮しています。いささかできすぎ感はあるもののノーラ・ロバーツだからこれもありじゃないかと、前回のメアリ・ヒギンズ・クラークと同じようなことを書いています。
どちらかというと、ミステリよりも人間の描かれ方が心に残るシリーズです。なんといってもロバーツですので(^^;)
本作では、里親とそこに身を寄せざるを得なかった子どもたちの姿が描かれています。不幸な境遇に陥った血のつながらない子の面倒を見る、それだけ見れば美談のようですが、果たして現実はどうなのでしょう? さまざまな事情で里親の元にもいられなくなり、居場所をなくした子どもたちはどう生きていくのでしょう? いろいろ考えさせられました。
懐かしいメンバーに再会できた嬉しさより、取り上げられている問題の重さや関わった人々の心の傷の深さが重苦しく残りました。
2059年12月、クリスマスを迎えようとしているニューヨーク。にぎやかなパーティーのさなか、男がビルから飛び降りた。ピーボディとともに捜査に当たるイヴの前に、トルーディと名乗る女性が現れた。イヴの里親だったトルーディは、イヴの夫が大富豪であると聞きつけ、ある要求を突きつける。ロークに素気なく追い払われるが、トルーディは要求が通るまで息子ボブ夫婦とともにニューヨークに滞在すると捨てゼリフを残す。翌日、トルーディたちが滞在するホテルに赴いたイヴは、トルーディの遺体を発見する。
イヴ&ローク・シリーズ第22作。大富豪である夫ロークは、今回も大甘ぶりを発揮しています。いささかできすぎ感はあるもののノーラ・ロバーツだからこれもありじゃないかと、前回のメアリ・ヒギンズ・クラークと同じようなことを書いています。
どちらかというと、ミステリよりも人間の描かれ方が心に残るシリーズです。なんといってもロバーツですので(^^;)
本作では、里親とそこに身を寄せざるを得なかった子どもたちの姿が描かれています。不幸な境遇に陥った血のつながらない子の面倒を見る、それだけ見れば美談のようですが、果たして現実はどうなのでしょう? さまざまな事情で里親の元にもいられなくなり、居場所をなくした子どもたちはどう生きていくのでしょう? いろいろ考えさせられました。
懐かしいメンバーに再会できた嬉しさより、取り上げられている問題の重さや関わった人々の心の傷の深さが重苦しく残りました。
『春を待つ谷間で』S・J・ローザン
直良和美訳 創元推理文庫
"STONE QUARRY" S.J.Rosan
ISBN: 4488153070
いつもなら休暇を過ごす州北部の郡で、ビルは初めて仕事を引き受けた。イヴ・コルゲートという農園主の女性の家から盗まれたものを探してほしいと頼まれたのだ。くれぐれもプライバシーを損なうことなくと念を押され、調査を始めたビルは、行きつけの店の地下室で射殺体を見つける。容疑者とされたのは店の経営者トニーの弟で前科のあるジミー。ジミーを弟のようにかわいがっていたビルは、ジミーの潔白を証明しようとする。リディアの協力を得て調査を始めたビルは、ある夜、イヴの家から帰宅途中、何者かに襲われる。
リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第6作。今回はニューヨークから離れ、ビルの山小屋のあるアップステートが舞台となる。かつて石切場として栄えた小さな町も今は寂れ、ベビーフード会社に頼ってどうにか生き延びている有様である。そんな小さな町――スモールタウンに暮らす人々の姿をS・J・ローザンは愛情込めて描いている。
『ピアノ・ソナタ』でもアイダという個性的な女性を描いたS・J・ローザンはこの巻でもイブという印象的な女性を描くことに成功している。最後の場面でイヴがつぶやく言葉に、万感の思いがこもる。このシリーズでは、ビルが語り手となる偶数巻の方が好きなのだが、その理由のひとつにアイダとイヴの存在があるのは確かである。
そして、この巻でもまた、クラシック音楽の響きが心に刻まされる。冒頭にあらわれる内田光子のモーツァルト「ピアノ・ソナタ変ロ長調」に始まり、前作に登場したシューベルト「変ロ長調ソナタ」、そして、ハイドン「弦楽四重奏」と、今回もまた、魂が揺れ動かされるような曲が効果的に用いられている。
春を待つ谷間で暮らす人々の姿が、胸の中に切なく残る。
2006年11月に刊行される第7作が待ちきれない。
"STONE QUARRY" S.J.Rosan
ISBN: 4488153070
いつもなら休暇を過ごす州北部の郡で、ビルは初めて仕事を引き受けた。イヴ・コルゲートという農園主の女性の家から盗まれたものを探してほしいと頼まれたのだ。くれぐれもプライバシーを損なうことなくと念を押され、調査を始めたビルは、行きつけの店の地下室で射殺体を見つける。容疑者とされたのは店の経営者トニーの弟で前科のあるジミー。ジミーを弟のようにかわいがっていたビルは、ジミーの潔白を証明しようとする。リディアの協力を得て調査を始めたビルは、ある夜、イヴの家から帰宅途中、何者かに襲われる。
リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第6作。今回はニューヨークから離れ、ビルの山小屋のあるアップステートが舞台となる。かつて石切場として栄えた小さな町も今は寂れ、ベビーフード会社に頼ってどうにか生き延びている有様である。そんな小さな町――スモールタウンに暮らす人々の姿をS・J・ローザンは愛情込めて描いている。
『ピアノ・ソナタ』でもアイダという個性的な女性を描いたS・J・ローザンはこの巻でもイブという印象的な女性を描くことに成功している。最後の場面でイヴがつぶやく言葉に、万感の思いがこもる。このシリーズでは、ビルが語り手となる偶数巻の方が好きなのだが、その理由のひとつにアイダとイヴの存在があるのは確かである。
そして、この巻でもまた、クラシック音楽の響きが心に刻まされる。冒頭にあらわれる内田光子のモーツァルト「ピアノ・ソナタ変ロ長調」に始まり、前作に登場したシューベルト「変ロ長調ソナタ」、そして、ハイドン「弦楽四重奏」と、今回もまた、魂が揺れ動かされるような曲が効果的に用いられている。
春を待つ谷間で暮らす人々の姿が、胸の中に切なく残る。
2006年11月に刊行される第7作が待ちきれない。
『苦い祝宴』S・J・ローザン
直良和美訳 創元推理文庫
"A BITTER FEAST" S.J.Rosan
ISBN: 4488153062
5月半ば、幼なじみの弁護士ピーター・リーの依頼を受け、リディアは中華料理店従業員組合のデモ行進に立ち会うことになった。デモの目的地は絶大な人気を誇る飲茶レストラン、ドラゴン・ガーデン。さほどの混乱もなかったため、この件は片づいたように思われたが、10日ほど過ぎたころ、再びピーターから電話が入った。ドラゴン・ガーデンで働いていた4人の若者が失踪したという。ドラゴン・ガーデンの経営者H・B・ヤンは組合活動を敵視していたという。調査を始めたリディアは福建人とおぼしき男に襲われ、四人に関わらないよう脅される。
リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第5作。労働争議から始まり、チャイナタウンに巣くう闇へとふたりは迫っていく。チャイナタウンで移民社会がどのように形成され、今、どのような状況にあるかが手に取るように描かれている。夢を抱いて、あるいは切迫した理由からアメリカを目指した中国人青年たちの姿にいろいろ考えさせられた。リディアのウェイトレス姿を見られるのはこの巻だけのお楽しみかも。
"A BITTER FEAST" S.J.Rosan
ISBN: 4488153062
5月半ば、幼なじみの弁護士ピーター・リーの依頼を受け、リディアは中華料理店従業員組合のデモ行進に立ち会うことになった。デモの目的地は絶大な人気を誇る飲茶レストラン、ドラゴン・ガーデン。さほどの混乱もなかったため、この件は片づいたように思われたが、10日ほど過ぎたころ、再びピーターから電話が入った。ドラゴン・ガーデンで働いていた4人の若者が失踪したという。ドラゴン・ガーデンの経営者H・B・ヤンは組合活動を敵視していたという。調査を始めたリディアは福建人とおぼしき男に襲われ、四人に関わらないよう脅される。
リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第5作。労働争議から始まり、チャイナタウンに巣くう闇へとふたりは迫っていく。チャイナタウンで移民社会がどのように形成され、今、どのような状況にあるかが手に取るように描かれている。夢を抱いて、あるいは切迫した理由からアメリカを目指した中国人青年たちの姿にいろいろ考えさせられた。リディアのウェイトレス姿を見られるのはこの巻だけのお楽しみかも。
『どこよりも冷たいところ』S・J・ローザン 直良和美訳 創元推理文庫
"NO COLDER PLACE" S.J.Rozan
ISBN:4488153054
元警官で退職後、私立探偵事務所を営むチャック・デマティスに依頼され、ビルは建設現場にレンガ工として潜り込む。仕事を始めたその日に、工員レグ・フィリップスが瀕死の重傷を負う。さらに、失踪していたクレーン操作係レニー・ペリグリーニの遺体が発見される。現場で何が起こっているのか? そして、その裏には何が? ビルと相棒リディアが真相に迫る。
ビル&リディア・シリーズ第4作。アンソニー賞最優秀長編賞受賞。今回は、かつての経験を生かして建設現場にレンガ工として潜入したビルが主人公を務める。とりどりに一癖ある職人の中でも、現場でビルとペアを組むマイク・ディメイオが印象的である。父の手ほどきを受けてレンガ工となったマイクは、若いながら筋金入りの職人である。頑固ではあるが、優しさを秘め、きっちり筋を通す職人肌のレグとビルは、いい友達になりそうである。
しっかりと組まれたレンガ壁のように、ずっしりとした読み応えのある作品である。著者には建築家としての経験があると「解説」に書かれていた。なるほど、そう言われてみるとそんな感じがある。
こんなふうに、わたしもひとつひとつレンガを積み、自分が死んだ後でも残るものをつくりたい。
ISBN:4488153054
元警官で退職後、私立探偵事務所を営むチャック・デマティスに依頼され、ビルは建設現場にレンガ工として潜り込む。仕事を始めたその日に、工員レグ・フィリップスが瀕死の重傷を負う。さらに、失踪していたクレーン操作係レニー・ペリグリーニの遺体が発見される。現場で何が起こっているのか? そして、その裏には何が? ビルと相棒リディアが真相に迫る。
ビル&リディア・シリーズ第4作。アンソニー賞最優秀長編賞受賞。今回は、かつての経験を生かして建設現場にレンガ工として潜入したビルが主人公を務める。とりどりに一癖ある職人の中でも、現場でビルとペアを組むマイク・ディメイオが印象的である。父の手ほどきを受けてレンガ工となったマイクは、若いながら筋金入りの職人である。頑固ではあるが、優しさを秘め、きっちり筋を通す職人肌のレグとビルは、いい友達になりそうである。
しっかりと組まれたレンガ壁のように、ずっしりとした読み応えのある作品である。著者には建築家としての経験があると「解説」に書かれていた。なるほど、そう言われてみるとそんな感じがある。
こんなふうに、わたしもひとつひとつレンガを積み、自分が死んだ後でも残るものをつくりたい。
「それがいい。朝に厄介ごとを抱えてたとしても、口を閉じて一日せっせとレンガを積んで家に帰ると、いつのまにかきれいさっぱりなくなっているもんだ。そんなもんは初めっからなかったみたいにさ」
『新生の街』S・J・ローザン 直良和美訳 創元推理文庫
"MANDARIN PLAID" S.J.Rozan
ISBN: 4488153046
早春のニューヨーク。私立探偵リディアは写真家の兄アンドリューから仕事を依頼される。依頼人は初めてのショウを間近に控えた新進デザイナー、ジェンナ・ジン。次のシーズンのためのスケッチが盗まれ、犯人は「身の代金」として現金5万ドルを要求した。その現金の受け渡しをリディアに依頼したのである。相棒ビルとともに犯人が指定したマディソン・スクエア・パークに赴いたリディアが指定された場所に現金の入った封筒を置いたとたん、銃声が響き、封筒が消えた。汚名を返上するため、ファッション界に入り込んだ二人が見たものは……。
リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第3作。前作『ピアノ・ソナタ』の感動もさめやらぬまま読み始めたので、もうひとつかなと懸念したが、読み始めたら一気だった。どちらかというと、ビルが主人公の奇数巻の方が好きだけど、リディアが主人公の偶数巻もおもしろさでは引けをとらない。つくづく、S・J・ローザンは確かな実力の持ち主だと思う。
謎解きのおもしろさとともに、チャイナタウンの生活や人間関係の描写やおいしい匂いが漂ってくるような食事場面も楽しめる。ビルとリディアの微妙な関係は読みどころのひとつである。本作では、工場での労働状況や中国の伝統に寄せる思いをかいま見ることができる。
次作も楽しみである。
原題"MANDARIN PLAID"は、直訳すれば『中国の格子縞』である。原題の意は最後に明かされる。
ISBN: 4488153046
早春のニューヨーク。私立探偵リディアは写真家の兄アンドリューから仕事を依頼される。依頼人は初めてのショウを間近に控えた新進デザイナー、ジェンナ・ジン。次のシーズンのためのスケッチが盗まれ、犯人は「身の代金」として現金5万ドルを要求した。その現金の受け渡しをリディアに依頼したのである。相棒ビルとともに犯人が指定したマディソン・スクエア・パークに赴いたリディアが指定された場所に現金の入った封筒を置いたとたん、銃声が響き、封筒が消えた。汚名を返上するため、ファッション界に入り込んだ二人が見たものは……。
リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第3作。前作『ピアノ・ソナタ』の感動もさめやらぬまま読み始めたので、もうひとつかなと懸念したが、読み始めたら一気だった。どちらかというと、ビルが主人公の奇数巻の方が好きだけど、リディアが主人公の偶数巻もおもしろさでは引けをとらない。つくづく、S・J・ローザンは確かな実力の持ち主だと思う。
謎解きのおもしろさとともに、チャイナタウンの生活や人間関係の描写やおいしい匂いが漂ってくるような食事場面も楽しめる。ビルとリディアの微妙な関係は読みどころのひとつである。本作では、工場での労働状況や中国の伝統に寄せる思いをかいま見ることができる。
次作も楽しみである。
原題"MANDARIN PLAID"は、直訳すれば『中国の格子縞』である。原題の意は最後に明かされる。
2006年09月22日
"RISING TIDES" Emilie Richards
"RISING TIDES" Emilie Richards
MIRA ISBN: 077832491
"IRON LACE"続編。
アイロン・レースが美しい豪壮な屋敷の女主人オーロールが亡くなった。遺言には、関係者9人に小さな島にある別荘に集まってもらい、4日間かけて読むよう指示されていた。次男で上院議員フェリス夫婦とその娘ドーン、オーロールの自叙伝を口述した黒人ジャーナリスト、フィリップとその母ニッキー、フィリップの養父ジェイク、レポーターのベン・タウンゼント、オーロールのナニーであり姉がわりだったティー・ブーの娘ペリシエ、そして弁護士スペンサー。
。舞台はニューオーリンズから、フランスを経由して2つの大戦の間のカサブランカへ、そしてまたニューオーリンズにと移り、その中で生きる人々の愛憎が描かれる。
回想を交えながらさまざまな人の生き方が語られるが、その中でも印象に残るのはオーロールの長男で若くして亡くなった神父ヒューだった。資産家の御曹司であることを負い目に感じ、悩みながら聖職を志したヒューが出会ったのは……。
過去の物語と並行して、現代に生きるオーロールの孫娘ドーンの物語が語られる。オーロールに慈しまれて育ち、今はジャーナリストとして生きるドーン。慕い続けた伯父の知られざる出会いと別れに、ドーンの心は揺れる。
前作"IRON LACE"は、分野としてはロマンスだが、人種差別を背景とする骨太の物語であり、ロマンスが苦手なわたしも夢中になって読み、号泣してしまった。この作品もそれなりにおもしろかったのだけど、期待しすぎたせいか、物足りなさが残った。盛り込みすぎてやや消化不良か? ヒューとドーンに絞ってしまった方がよかったかもという気がする。
MIRA ISBN: 077832491
"IRON LACE"続編。
アイロン・レースが美しい豪壮な屋敷の女主人オーロールが亡くなった。遺言には、関係者9人に小さな島にある別荘に集まってもらい、4日間かけて読むよう指示されていた。次男で上院議員フェリス夫婦とその娘ドーン、オーロールの自叙伝を口述した黒人ジャーナリスト、フィリップとその母ニッキー、フィリップの養父ジェイク、レポーターのベン・タウンゼント、オーロールのナニーであり姉がわりだったティー・ブーの娘ペリシエ、そして弁護士スペンサー。
。舞台はニューオーリンズから、フランスを経由して2つの大戦の間のカサブランカへ、そしてまたニューオーリンズにと移り、その中で生きる人々の愛憎が描かれる。
回想を交えながらさまざまな人の生き方が語られるが、その中でも印象に残るのはオーロールの長男で若くして亡くなった神父ヒューだった。資産家の御曹司であることを負い目に感じ、悩みながら聖職を志したヒューが出会ったのは……。
過去の物語と並行して、現代に生きるオーロールの孫娘ドーンの物語が語られる。オーロールに慈しまれて育ち、今はジャーナリストとして生きるドーン。慕い続けた伯父の知られざる出会いと別れに、ドーンの心は揺れる。
前作"IRON LACE"は、分野としてはロマンスだが、人種差別を背景とする骨太の物語であり、ロマンスが苦手なわたしも夢中になって読み、号泣してしまった。この作品もそれなりにおもしろかったのだけど、期待しすぎたせいか、物足りなさが残った。盛り込みすぎてやや消化不良か? ヒューとドーンに絞ってしまった方がよかったかもという気がする。
2006年05月30日
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』J・K・ローリング 松岡祐子訳 静山社
※ハリポタ離れを自覚しつつ読んだ感想ですので、ファンの方はそっと目をそらしてやってください。
ハリー・ポッター第6巻。第5巻があまりにストレスのかかる作品だったので、今回は原書で追いかける気になれないまま、娘のために買った訳書で読んだ。だが、ハリポタ離れを実感した結果となった。
5巻で「ファンタジーともヤングアダルトともつかない中途半端なものになってしまった」という感想を抱いたが、6巻になると最終巻に向けてのつなぎかという感じがする。3分の2は学園ラブコメなので、このジャンルが好きな方なら入り込めるだろうけど、わたしにとっては相性の悪いジャンルであり、楽しめなかった。授業やクィディッチのネタが尽きたからラブコメかと、意地悪な見方をしてしまった。少しずつ謎が明かされるのはおもしろかったが、盛り上がりや見せ場に欠けるような気がする。
ロンやハーマイオニーの活躍がほとんどないのも物足りない。ロンはダメ男にしか見えない。突如スーパーヒロインと化したジニーにいいことろを全部持っていかれたみたいだ。ジニーも嫌いではないのだけど、これではハリーとともに戦ってきたロンとハーマイオニーの立場がない。
5巻に比べて読みやすかったが、上巻を読み終え下巻を読み始めたとき、ふと、これってファンタジー風学園小説ミステリ風味じゃないかと感じて力が抜けた。正直言ってこのまま続くと時間の無駄じゃないかとさえ思った。そう言いつつも「ホークラックス」の話題が出始めた第23章からおもしろくなり始め、第26章洞窟からは一気だった。あの人が亡くなってから葬儀に至る場面では泣いてしまったことを白状しておこう。
原書を読むことへの新たな扉を開いてくれたシリーズだけど、残念ながら現在は否定的な意見しか持てない。なぜ大事な人を次々死なせていくのかがわたしには納得できない、そうする必然性があるとは思えないのだ。物語を展開させていくために大事な人物を死なせていくというのは小説としては禁じ手ではないだろうか。読者を泣かせるための最も安易な方法だからだ。おまけにそれが販売戦略にも利用されているように思えていやな感じがする。乗せられている自分が愚かに思える。
4巻以降、作品としてのバランスの悪さが目につく。4巻はクィディッチ・ワールドカップ、3校魔法対抗試合と盛りだくさんだが、5巻はいじめと八つ当たりに終始し、6巻は学園ものと回想場面が中心で、最後の5章でいきなり物語が動き出しているような印象がある。そのバランスの悪さが意図的なものというより行きあたりばったりのように見える。4巻はさておき、5巻、6巻は単独で読んでも楽しめないだろう。物語としての完成度はむしろ3巻以前の方が高いのではないかと思う。
それでもなぜ読むかというと、最後まで見届けたいから。なぜ売れるのかを知りたいという気持ちもある。
たぶん、第7巻は原書で読むだろう。ここまでつき合ってきたから、最後をきちんと見届けたいから。どんなふうに収拾をつけるのか、しっかり見届けたい。
ハリー・ポッター第6巻。第5巻があまりにストレスのかかる作品だったので、今回は原書で追いかける気になれないまま、娘のために買った訳書で読んだ。だが、ハリポタ離れを実感した結果となった。
5巻で「ファンタジーともヤングアダルトともつかない中途半端なものになってしまった」という感想を抱いたが、6巻になると最終巻に向けてのつなぎかという感じがする。3分の2は学園ラブコメなので、このジャンルが好きな方なら入り込めるだろうけど、わたしにとっては相性の悪いジャンルであり、楽しめなかった。授業やクィディッチのネタが尽きたからラブコメかと、意地悪な見方をしてしまった。少しずつ謎が明かされるのはおもしろかったが、盛り上がりや見せ場に欠けるような気がする。
ロンやハーマイオニーの活躍がほとんどないのも物足りない。ロンはダメ男にしか見えない。突如スーパーヒロインと化したジニーにいいことろを全部持っていかれたみたいだ。ジニーも嫌いではないのだけど、これではハリーとともに戦ってきたロンとハーマイオニーの立場がない。
5巻に比べて読みやすかったが、上巻を読み終え下巻を読み始めたとき、ふと、これってファンタジー風学園小説ミステリ風味じゃないかと感じて力が抜けた。正直言ってこのまま続くと時間の無駄じゃないかとさえ思った。そう言いつつも「ホークラックス」の話題が出始めた第23章からおもしろくなり始め、第26章洞窟からは一気だった。あの人が亡くなってから葬儀に至る場面では泣いてしまったことを白状しておこう。
原書を読むことへの新たな扉を開いてくれたシリーズだけど、残念ながら現在は否定的な意見しか持てない。なぜ大事な人を次々死なせていくのかがわたしには納得できない、そうする必然性があるとは思えないのだ。物語を展開させていくために大事な人物を死なせていくというのは小説としては禁じ手ではないだろうか。読者を泣かせるための最も安易な方法だからだ。おまけにそれが販売戦略にも利用されているように思えていやな感じがする。乗せられている自分が愚かに思える。
4巻以降、作品としてのバランスの悪さが目につく。4巻はクィディッチ・ワールドカップ、3校魔法対抗試合と盛りだくさんだが、5巻はいじめと八つ当たりに終始し、6巻は学園ものと回想場面が中心で、最後の5章でいきなり物語が動き出しているような印象がある。そのバランスの悪さが意図的なものというより行きあたりばったりのように見える。4巻はさておき、5巻、6巻は単独で読んでも楽しめないだろう。物語としての完成度はむしろ3巻以前の方が高いのではないかと思う。
それでもなぜ読むかというと、最後まで見届けたいから。なぜ売れるのかを知りたいという気持ちもある。
たぶん、第7巻は原書で読むだろう。ここまでつき合ってきたから、最後をきちんと見届けたいから。どんなふうに収拾をつけるのか、しっかり見届けたい。
2006年01月27日
"IRON LACE" Emillie Richards
クリフ・月イチ☆ロマンス読書会、11月の課題本でした。
表紙は『風とともに去りぬ』のスカーレットがドレスの裾を翻して走ってきそうな円柱のついた豪邸。ベランダには、繊細な飾りが付いています。レースのような鋳鉄製のこの飾り、それがタイトルである「アイアン・レース」(鉄人レースみたいな感じがするので、わたしは「アイロン・レース」の方がいいかなと思っています)です。富と権威と、そして何より白人が君臨した時代の象徴とも言えるアイロン・レース、物語にどんな役割を果たしているのか、気になります。
舞台は1965年、ニューオーリンズ。その2年前の1963年にワシントン大行進が行われ、1964年公民権法が成立しました。過酷な人種差別との戦いが熱く展開されていた時代です。
公民権運動の活動家でもある黒人ジャーナリスト、フィリップは、だれ知らぬ者もない名家の貴婦人オーロールから自伝を書くよう依頼された。白人の女性がなぜ黒人の自分にそのような依頼をしたのか、いぶかりつつ、フィリップはオーロールの住む屋敷に赴く。アイロンレースの美しいその屋敷でオーロールは自分の来し方を語り始める――。
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表紙は『風とともに去りぬ』のスカーレットがドレスの裾を翻して走ってきそうな円柱のついた豪邸。ベランダには、繊細な飾りが付いています。レースのような鋳鉄製のこの飾り、それがタイトルである「アイアン・レース」(鉄人レースみたいな感じがするので、わたしは「アイロン・レース」の方がいいかなと思っています)です。富と権威と、そして何より白人が君臨した時代の象徴とも言えるアイロン・レース、物語にどんな役割を果たしているのか、気になります。
舞台は1965年、ニューオーリンズ。その2年前の1963年にワシントン大行進が行われ、1964年公民権法が成立しました。過酷な人種差別との戦いが熱く展開されていた時代です。
公民権運動の活動家でもある黒人ジャーナリスト、フィリップは、だれ知らぬ者もない名家の貴婦人オーロールから自伝を書くよう依頼された。白人の女性がなぜ黒人の自分にそのような依頼をしたのか、いぶかりつつ、フィリップはオーロールの住む屋敷に赴く。アイロンレースの美しいその屋敷でオーロールは自分の来し方を語り始める――。
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2006年01月20日
『身代りの樹』ルース・レンデル
『身代りの樹』ルース・レンデル 秋津知子訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ
"THE TREE OF HANDS"
ISBN: 415001468X
物語は28歳の女性流行作家ベネットが幼い息子ジェームズを連れて、母を空港に迎えに行く場面から始まる。母モプサは精神を病んでいて、娘であるベネットは母を憎みつつ「憎んではいけない」と自分に言い聞かせながら成長してきた。父と母は今は南スペインに移住しているが、母は検査を受けるためロンドンに戻ってきた。
かわいい孫だというのに、ジェームズがころんでも平然と追い抜かしていくモプサ。このあたりの描写はレンデルらしい。
このときジェームズは体調が悪く、ごろごろと咳をし、息苦しそうだった。病状は好転せず、ジェームズは入院しなければならないことになる。病院には付き添い用のベッドもあり、食事も用意してもらえるが、見知らぬ家でひとりぼっちになるのはいやとモプサに迫られ、ベネットはやむをえず自宅へ帰ることになる。入院したにもかかわらず、ジェームズの容態は悪くなるばかり。そして……。
研ぎ澄まされた精緻な描写に引き込まれた。ベネットの心理が痛いほど伝わってくる。お話に絡んで重要な役割を果たす人物がベネットのほかに2名出てくる。この3人の絡み方が実に見事であり、また、原書のタイトルである "THE TREE OF HANDS" の存在が印象的だった。
1984年CWAシルバーダガー受賞作品。20年ほど前の作品だが、古びたところはかけらもなく、現代にも十分通じる作品である。
レンデルにしてはソフトタッチな作品らしいので、コアなファンには物足りないかもしれないが、わたしにとってはレンデル苦手意識がちょっぴり薄くなり、もしかしたら、ほんとはレンデル好きなのかもと思えた作品だった。レンデルの別名義バーバラ・ヴァインも読んでみたい。
"THE TREE OF HANDS"
ISBN: 415001468X
物語は28歳の女性流行作家ベネットが幼い息子ジェームズを連れて、母を空港に迎えに行く場面から始まる。母モプサは精神を病んでいて、娘であるベネットは母を憎みつつ「憎んではいけない」と自分に言い聞かせながら成長してきた。父と母は今は南スペインに移住しているが、母は検査を受けるためロンドンに戻ってきた。
かわいい孫だというのに、ジェームズがころんでも平然と追い抜かしていくモプサ。このあたりの描写はレンデルらしい。
このときジェームズは体調が悪く、ごろごろと咳をし、息苦しそうだった。病状は好転せず、ジェームズは入院しなければならないことになる。病院には付き添い用のベッドもあり、食事も用意してもらえるが、見知らぬ家でひとりぼっちになるのはいやとモプサに迫られ、ベネットはやむをえず自宅へ帰ることになる。入院したにもかかわらず、ジェームズの容態は悪くなるばかり。そして……。
研ぎ澄まされた精緻な描写に引き込まれた。ベネットの心理が痛いほど伝わってくる。お話に絡んで重要な役割を果たす人物がベネットのほかに2名出てくる。この3人の絡み方が実に見事であり、また、原書のタイトルである "THE TREE OF HANDS" の存在が印象的だった。
1984年CWAシルバーダガー受賞作品。20年ほど前の作品だが、古びたところはかけらもなく、現代にも十分通じる作品である。
レンデルにしてはソフトタッチな作品らしいので、コアなファンには物足りないかもしれないが、わたしにとってはレンデル苦手意識がちょっぴり薄くなり、もしかしたら、ほんとはレンデル好きなのかもと思えた作品だった。レンデルの別名義バーバラ・ヴァインも読んでみたい。
2005年10月13日
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』 J.K.ローリング
原書を読んでいるときもしんどかったハリポタ5を邦訳で読んだら、やっぱりしんどかった。どうもこの巻は好きになれない。だらだらと同じような話が繰り返されているのがいや。縮めれば半分くらいにできそうな気がする。
この巻で最も違和感を感じたのがルナの言葉づかいである。「我が輩」「俺様」はもう慣れたけど(^^;)。
邦訳でのルナの「だもン(小さいン)」だなんてしゃべり方はそぐわないように感じる。わたしは、ルナは風変わりだけど頭のいい、ちょっと神秘的な雰囲気の女の子だと好感を持っているのだけど、これでは頭の悪いヘンな子でしかない。この子はポイントごとに結構重要な発言もしてるのに、これはないと思う。
6巻に期待しよう。娘は今から「6巻の日本語いつ出るの!」と待ちきれない様子である。
この巻で最も違和感を感じたのがルナの言葉づかいである。「我が輩」「俺様」はもう慣れたけど(^^;)。
邦訳でのルナの「だもン(小さいン)」だなんてしゃべり方はそぐわないように感じる。わたしは、ルナは風変わりだけど頭のいい、ちょっと神秘的な雰囲気の女の子だと好感を持っているのだけど、これでは頭の悪いヘンな子でしかない。この子はポイントごとに結構重要な発言もしてるのに、これはないと思う。
6巻に期待しよう。娘は今から「6巻の日本語いつ出るの!」と待ちきれない様子である。
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 J.K.ローリング
ハリー・ポッター第3作。子どもに邦訳本を買ったので、読んでみた。『秘密の部屋』は飛ばし読み、『炎のゴブレット』は図書館本なので、ざっと目を通しただけで返却した。
3作目はやっぱりおもしろい。文句なく楽しませてくれる。第1作から5作の中では、3作目がいちばん好き。
このシリーズの持ち味は、「小さな世界」あり、お化け屋敷あり、ジェットコースターありといった、遊園地にいるような楽しさを味あわせてくれるところにあると思う。そして、その真骨頂はこの第3作にあるといっていいだろう。ハラハラドキドキとゲラゲラとしんみりとがバランスよく配合されている。
第4作はクィディッチ・ワールドカップと3校魔法対決がいささか冗長だし、5作目に至っては読者にストレスがかかりすぎるところが×(^^;) 6作目はちょっとましみたいだ。いつになったら読む気になるのか、わからないけど(^^;)
3作目はやっぱりおもしろい。文句なく楽しませてくれる。第1作から5作の中では、3作目がいちばん好き。
このシリーズの持ち味は、「小さな世界」あり、お化け屋敷あり、ジェットコースターありといった、遊園地にいるような楽しさを味あわせてくれるところにあると思う。そして、その真骨頂はこの第3作にあるといっていいだろう。ハラハラドキドキとゲラゲラとしんみりとがバランスよく配合されている。
第4作はクィディッチ・ワールドカップと3校魔法対決がいささか冗長だし、5作目に至っては読者にストレスがかかりすぎるところが×(^^;) 6作目はちょっとましみたいだ。いつになったら読む気になるのか、わからないけど(^^;)
『情熱の赤いガラス』ノーラ・ロバーツ 清水はるか訳 扶桑社ロマンス
"BORN IN FIRE" Nora Roberts ISBN:4594049656
アイルランド西部の片田舎でガラス工芸に打ち込む28歳のマギーは燃えるような赤毛の情熱的な女性。父はマギーを愛し、ガラス工芸を学ぶためヴェネツィアに娘を留学させてくれたが、5年前、マギーの腕の中で亡くなった。
妹ブリアンナはマギーとは対照的に静かで家庭の切り盛りがうまく、父の死後、家をB&B(朝食付き宿泊施設)に改装し、忙しい毎日を送っていた。母は夢を追いかけてばかりいた父をなじり、結婚生活の不幸をかこち、マギーの妹ブリアンナをこきつかっていた。
マギーの工房にある日、国際的に画廊を展開しているローガン・スウィーニーがダブリンから訪ねてくる。マギーの才能を見抜いたローガンは、その作品の独占販売権を申し出る。強引で尊大なローガンに、マギーは激しく反発するが、心は動く。
ブリアンナを母の支配下から解放するためのお金が欲しかったのだ。ローガンの提示した条件をのんだマギーはこれまで無縁だった華やかな世界をかいま見る。ダブリンでの個展は大成功、続いてパリ、ローマでもマギーの作品は絶賛される。だが、マギーの心の中には茫漠とした寂しさが消えずにいた。そしてマギーは――。
ロマンスはめったに読まないけど、ローラ・ロバーツは好き。人物に魅力があり、作品の世界にぐいぐい引き込んでいく。この作品も期待どおりたっぷり楽しませてくれた。
アイルランドには行ったことがないが、その風土やそこに暮らす人々に惹かれる。緑豊かなときと荒涼たるときとの落差の激しい自然が闊達に描写されていて、その土地の香りや空気まで感じさせてくれる。ただ、方言の表現は田舎臭いだけでちっとも美しくなかったのでちょっとどうかと思った。おそらく鄙びてはいるが、独自の美しさのある言葉ではないかと推測しているが、実際はどうだろう?
登場人物は美男美女の取り合わせというだけではない。それぞれに長所や強さともに、弱点や弱さも合わせもち、隣にいるような存在感がある。
ガラス工芸の描写も素敵だった。まだ目の裏でキラキラ光っているみたいだ。マギーの作品を見てみたくなる。とりわけ最後に出てきた〈ルパート王子の雫〉が印象に残る。
本作は〈海辺の街トリロジー〉第1作。2作目『心やすらぐ緑の宿』はB&Bを営む、静かだけれど芯の強い妹ブリアンナの物語、そして3作目『夢描く青いキャンバス』は異母妹シャロンの物語とのことである。
お気に入りの3部作になりそうだ。
アイルランド西部の片田舎でガラス工芸に打ち込む28歳のマギーは燃えるような赤毛の情熱的な女性。父はマギーを愛し、ガラス工芸を学ぶためヴェネツィアに娘を留学させてくれたが、5年前、マギーの腕の中で亡くなった。
妹ブリアンナはマギーとは対照的に静かで家庭の切り盛りがうまく、父の死後、家をB&B(朝食付き宿泊施設)に改装し、忙しい毎日を送っていた。母は夢を追いかけてばかりいた父をなじり、結婚生活の不幸をかこち、マギーの妹ブリアンナをこきつかっていた。
マギーの工房にある日、国際的に画廊を展開しているローガン・スウィーニーがダブリンから訪ねてくる。マギーの才能を見抜いたローガンは、その作品の独占販売権を申し出る。強引で尊大なローガンに、マギーは激しく反発するが、心は動く。
ブリアンナを母の支配下から解放するためのお金が欲しかったのだ。ローガンの提示した条件をのんだマギーはこれまで無縁だった華やかな世界をかいま見る。ダブリンでの個展は大成功、続いてパリ、ローマでもマギーの作品は絶賛される。だが、マギーの心の中には茫漠とした寂しさが消えずにいた。そしてマギーは――。
ロマンスはめったに読まないけど、ローラ・ロバーツは好き。人物に魅力があり、作品の世界にぐいぐい引き込んでいく。この作品も期待どおりたっぷり楽しませてくれた。
アイルランドには行ったことがないが、その風土やそこに暮らす人々に惹かれる。緑豊かなときと荒涼たるときとの落差の激しい自然が闊達に描写されていて、その土地の香りや空気まで感じさせてくれる。ただ、方言の表現は田舎臭いだけでちっとも美しくなかったのでちょっとどうかと思った。おそらく鄙びてはいるが、独自の美しさのある言葉ではないかと推測しているが、実際はどうだろう?
登場人物は美男美女の取り合わせというだけではない。それぞれに長所や強さともに、弱点や弱さも合わせもち、隣にいるような存在感がある。
ガラス工芸の描写も素敵だった。まだ目の裏でキラキラ光っているみたいだ。マギーの作品を見てみたくなる。とりわけ最後に出てきた〈ルパート王子の雫〉が印象に残る。
本作は〈海辺の街トリロジー〉第1作。2作目『心やすらぐ緑の宿』はB&Bを営む、静かだけれど芯の強い妹ブリアンナの物語、そして3作目『夢描く青いキャンバス』は異母妹シャロンの物語とのことである。
お気に入りの3部作になりそうだ。
2005年05月12日
"DIVIDED IN DEATH" J.D.Robb ISBN: 0425197956
かつてシークレットサービスだったリーヴァは夫と友人がベッドの中で殺害されているのを発見する。事件の裏にうごめくのは? テクノテロリストや謎の政府機関などとの戦いをとおして、互いの関係を見つめ直し、新たな絆を結んでいく人々の姿が描かれたイヴ&ロークシリーズ第18作。
事件の背後で不気味にうごめく謎の組織やテクノテロリストとの戦い、捜査の過程で明らかになる複雑な人間関係、明かされる痛ましい過去、温かな家庭の温もり、苦しみを経てゆるぎないものとなる絆──読みごたえのある作品である。
イヴの心の動きが切なくて、それでいてまぶしいほどだった。家庭というものを知らずに育ったイヴがキャロの母親としての心情に耳を傾ける場面、居心地のよさそうな自宅でのマイラとその夫に向けるまなざし、自分とロークの関係を顧みるイヴ、そして──。イヴに心から声援を送りたくなった。
題名の"DIVIDED IN DEATH"とは、結婚の誓いの「死が二人を分かつまで」と関係あるのかなと思ったが、考えすぎだろうか。
このシリーズの魅力はイヴやロークだけでなく、個性豊かな脇役を含めた人物に負うところが大きい。懐かしい友人に会いに行くようなつもりで、これまでの作品もぽつぽつ読んでいきたい。
ピーボディは第2作で、マクナブは第6作でお目にかかっているので、この作品で元気な姿を見ることができて、うれしくなった。今回、サマーセットの出番がないのが、ちょっと物足りなかった。文句をつけるとしたら、この点だけである。
事件の背後で不気味にうごめく謎の組織やテクノテロリストとの戦い、捜査の過程で明らかになる複雑な人間関係、明かされる痛ましい過去、温かな家庭の温もり、苦しみを経てゆるぎないものとなる絆──読みごたえのある作品である。
イヴの心の動きが切なくて、それでいてまぶしいほどだった。家庭というものを知らずに育ったイヴがキャロの母親としての心情に耳を傾ける場面、居心地のよさそうな自宅でのマイラとその夫に向けるまなざし、自分とロークの関係を顧みるイヴ、そして──。イヴに心から声援を送りたくなった。
題名の"DIVIDED IN DEATH"とは、結婚の誓いの「死が二人を分かつまで」と関係あるのかなと思ったが、考えすぎだろうか。
このシリーズの魅力はイヴやロークだけでなく、個性豊かな脇役を含めた人物に負うところが大きい。懐かしい友人に会いに行くようなつもりで、これまでの作品もぽつぽつ読んでいきたい。
ピーボディは第2作で、マクナブは第6作でお目にかかっているので、この作品で元気な姿を見ることができて、うれしくなった。今回、サマーセットの出番がないのが、ちょっと物足りなかった。文句をつけるとしたら、この点だけである。
『復讐は聖母の前で』 "VENGEANCE IN DEATH"
J・D・ロブ/青木悦子訳
ヴィレッジブックス/2004.09.20発行 800円(税別)
ISBN: 4789723526
これは神の名のもとでの復讐――男の声が通信機を通して挑戦するかのように警部補イヴに告げた。犯行現場に駆けつけたイヴの目に写ったのは惨殺された死体と純白の聖母像。同じ手口の殺人が続き、被害者はすべてイヴの夫ロークが故国アイルランドにいたときのある事件にかかわっていたことが明らかになった。事件の陰に見え隠れするロークの暗い過去と向き合うため、イヴはロークとともにアイルランドに向かう。近未来を舞台としたロマンチック・サスペンス、イヴ&ロークシリーズ第6作。
◇bk1へ
『海外ミステリ通信』2004年10月号より転載
ヴィレッジブックス/2004.09.20発行 800円(税別)
ISBN: 4789723526
これは神の名のもとでの復讐――男の声が通信機を通して挑戦するかのように警部補イヴに告げた。犯行現場に駆けつけたイヴの目に写ったのは惨殺された死体と純白の聖母像。同じ手口の殺人が続き、被害者はすべてイヴの夫ロークが故国アイルランドにいたときのある事件にかかわっていたことが明らかになった。事件の陰に見え隠れするロークの暗い過去と向き合うため、イヴはロークとともにアイルランドに向かう。近未来を舞台としたロマンチック・サスペンス、イヴ&ロークシリーズ第6作。
◇bk1へ
『海外ミステリ通信』2004年10月号より転載
2005年05月10日
"HARRY POTTER AND THE SORCERE'S STONE" J.K.Rowling
ISBN 059035342X SCHOLASTIC いわゆるUS版 309ページ(再読なので加算はしない)
だれもが知っているといっても言いすぎではない、あのハリポタの第1巻。両親を亡くしたハリー・ポッター。おじの家の押し入れで寝起きし、同い年のいとこダドリーにいじめられ、いじけて暮らしていた。そんなハリーが11才の誕生日を迎えようとしている矢先、不思議な手紙が舞い込んできた。ホグワーツ魔法学校からの入学許可だった。実はハリーは魔法使いだった! すったもんだのあげく、魔法グッズなら何でもそろう横丁で必要なものをそろえ、キングス・クロス駅9と4分の3番線からハリーはホグワーツに旅立つ。魔法学校1年生のハリーを待っていたのは――。
6巻発売を前に読み返してみようと思い、本棚から出してきた。もうかなり黄ばんでいる。PBだから仕方ない。
読了した日付を見てみると、2002年1月と6月になっていた。3年前だ。わたしにとっては、洋書を読むきっかけになった本である。
読み返してみると、ああ、ここにこんなことが、とか、この人が実は、とか、いろいろ思い返すことができて、楽しく読めた。第1巻はよくできていると、今さらながら感心している。映画の場面も思い浮かんだ。ホグワーツの雪景色、きれいだった……。ラストの場面は映画の方がわたしは好きだ。
ただ、今読んでみると、お話はおもしろいが、文章に香気とか精神性が感じられなかった。「クリーシェを並べただけ」というふうにどなたかが書かれているのを見たが、まさにそのとおりだと思う。ローリングさんは文章で読ませる作家というよりプロットで読ませる作家さんのようだ。そのプロットも巻を進めるにつれ、冗長になっているように思われてならない。
個人的には、文章やプロットについて批評できるようになるよりも、何も考えずに魔法の世界にとっぷりひたって楽しんでいたときの方が幸せだったんじゃないかという気がして、ちょっと複雑な気分である。
だれもが知っているといっても言いすぎではない、あのハリポタの第1巻。両親を亡くしたハリー・ポッター。おじの家の押し入れで寝起きし、同い年のいとこダドリーにいじめられ、いじけて暮らしていた。そんなハリーが11才の誕生日を迎えようとしている矢先、不思議な手紙が舞い込んできた。ホグワーツ魔法学校からの入学許可だった。実はハリーは魔法使いだった! すったもんだのあげく、魔法グッズなら何でもそろう横丁で必要なものをそろえ、キングス・クロス駅9と4分の3番線からハリーはホグワーツに旅立つ。魔法学校1年生のハリーを待っていたのは――。
6巻発売を前に読み返してみようと思い、本棚から出してきた。もうかなり黄ばんでいる。PBだから仕方ない。
読了した日付を見てみると、2002年1月と6月になっていた。3年前だ。わたしにとっては、洋書を読むきっかけになった本である。
読み返してみると、ああ、ここにこんなことが、とか、この人が実は、とか、いろいろ思い返すことができて、楽しく読めた。第1巻はよくできていると、今さらながら感心している。映画の場面も思い浮かんだ。ホグワーツの雪景色、きれいだった……。ラストの場面は映画の方がわたしは好きだ。
ただ、今読んでみると、お話はおもしろいが、文章に香気とか精神性が感じられなかった。「クリーシェを並べただけ」というふうにどなたかが書かれているのを見たが、まさにそのとおりだと思う。ローリングさんは文章で読ませる作家というよりプロットで読ませる作家さんのようだ。そのプロットも巻を進めるにつれ、冗長になっているように思われてならない。
個人的には、文章やプロットについて批評できるようになるよりも、何も考えずに魔法の世界にとっぷりひたって楽しんでいたときの方が幸せだったんじゃないかという気がして、ちょっと複雑な気分である。
2005年03月04日
『シミソラ』ルース・レンデル 宇佐川晶子訳 角川文庫
ウェクスフォード警部シリーズ。
イギリス西南部の小さな町で、恵まれた家庭に育った黒人の若い女性の姿が消えた。その女性、メラニー・アカンデの姿が最後に目撃されたのは職業安定所(ESJ)。メラニーの捜索中、新たな殺人事件が起こる。メラニーはどこに? そして、殺人事件の犯人は?
人種差別、偏見、失業、暴力……。差別は黒人と白人の間だけでなく、有色人種――カラード――の間にも厳然と存在する。その中で次々と起こる事件。そして、身元のわからない遺体。
複雑に絡み合った糸が一気に解きほどけていく、その展開には息を呑むほどであった。そして、最後に残る思いをどう表現すればいいのだろうか。今のわたしは、「シミソラ」とつぶやくことしかできないでいる。
英国社会でのカラードの問題は、この作品に集約されているような気さえする。『ホワイト・ティース』に求めていたのはこれだったのかもしれない。
テーマは重いが、わざとらしいところはなく、多数の登場人物もすべて血が通っており、しんどい話でありながら、一瞬たりとも緊張感がゆるむことがない。作者の力量の素晴らしさに目を見張る思いである。
訳文に「それ」が多用され、一部原文が透けて見えるような表現もあり(わざとかもしれないが)気になるところが多々あったけれど、後半は一気に読んでしまった。レンデルの他の作品、他の訳書も読んでみたいと思う。
"SIMISOLA" Ruth Rendell
イギリス西南部の小さな町で、恵まれた家庭に育った黒人の若い女性の姿が消えた。その女性、メラニー・アカンデの姿が最後に目撃されたのは職業安定所(ESJ)。メラニーの捜索中、新たな殺人事件が起こる。メラニーはどこに? そして、殺人事件の犯人は?
人種差別、偏見、失業、暴力……。差別は黒人と白人の間だけでなく、有色人種――カラード――の間にも厳然と存在する。その中で次々と起こる事件。そして、身元のわからない遺体。
複雑に絡み合った糸が一気に解きほどけていく、その展開には息を呑むほどであった。そして、最後に残る思いをどう表現すればいいのだろうか。今のわたしは、「シミソラ」とつぶやくことしかできないでいる。
英国社会でのカラードの問題は、この作品に集約されているような気さえする。『ホワイト・ティース』に求めていたのはこれだったのかもしれない。
テーマは重いが、わざとらしいところはなく、多数の登場人物もすべて血が通っており、しんどい話でありながら、一瞬たりとも緊張感がゆるむことがない。作者の力量の素晴らしさに目を見張る思いである。
訳文に「それ」が多用され、一部原文が透けて見えるような表現もあり(わざとかもしれないが)気になるところが多々あったけれど、後半は一気に読んでしまった。レンデルの他の作品、他の訳書も読んでみたいと思う。
"SIMISOLA" Ruth Rendell
"HARRY POTTER AND THE ORDER OF THE PHOENIX" J.K.Rowling
シリーズ物は、エイラ4が読むのは時間のムダとしか思えない代物でしたのでちょっと引いていたのですが、ハリポタはちょっと違うかな。ハリーやシリウス、ロン母の気持ちなど、けっこう掘り下げて書かれているように思います。確かに、引きつけるものがありますね。
噂には聞いていましたが、ハリーの不機嫌なこと! ロンやハーマイオニーにあたってばかり。こちらも振り回されているような気がして、ちょっと疲れます。これでは――になれなかったのも当然じゃないの、と、意地悪を言いたくなってしまいます。ファンタジーというよりも、学園ものといった雰囲気ですね。
シーズン最初のクィディッチの試合は、とんでもない結果になります。そして、ハグリッドは……。
20章からは、ぐんと展開が早くなります。ふっと気がつくと、27章まで一気でした。やっと物語らしくなってきましたね! ここで気にさわったのはチョウ。一体、どうしたいんだ、この子は! 泣いてばかりで、全然魅力ない。こんなに精神力が弱くて、クィディッチのシーカーが務まるのでしょうか? ハリーはどうしてこんな子に惹かれるのでしょう? 全く納得できません。今度泣いたらひっぱたいてやりたい、なんて思ってしまっています。
ハリーの父の意外な姿や、ハグリッドの帰校がなぜおくれたのか、などが明らかにされます。
うーん、ハリポタが好きな人なら文句なしにオッケーでしょうけど、そうでない人にとっては評価が分かれそうですね。 魔法学校を舞台としていますが、ファンタジーというにはワクワク感がちょっと足りないような気がします。かといって、YA(ヤングアダルト)かというと、インパクトや深みの点でちょっと弱いのでは?
800ページ近い作品をさほどだれずに引っ張っていくお手並みは、今回もお見事でした。これまでの謎の解明、そして、新たな謎……。だけど、お話としては、あまり進んでいないのでは? あと2巻で、どのように展開させていくのかな?
これは、作者について(または、販売戦略かも)思うところですが、発売前に「重要な人物が死ぬ」という発表をしたところが、どうもいやでした。出版社の意向かもしれませんが、あおって話題づくりをして盛り上げようというのが、いやな感じでした。きれいごとかもしれませんが、いい作品ならそんなことをしなくても売れるでしょうに、と、一言嫌みを言いたくなりました。読了したから、もう言ってもいいかな。
これから、どんな評価が出てくるのか、じっくり見守っていきたいと思っています。
噂には聞いていましたが、ハリーの不機嫌なこと! ロンやハーマイオニーにあたってばかり。こちらも振り回されているような気がして、ちょっと疲れます。これでは――になれなかったのも当然じゃないの、と、意地悪を言いたくなってしまいます。ファンタジーというよりも、学園ものといった雰囲気ですね。
シーズン最初のクィディッチの試合は、とんでもない結果になります。そして、ハグリッドは……。
20章からは、ぐんと展開が早くなります。ふっと気がつくと、27章まで一気でした。やっと物語らしくなってきましたね! ここで気にさわったのはチョウ。一体、どうしたいんだ、この子は! 泣いてばかりで、全然魅力ない。こんなに精神力が弱くて、クィディッチのシーカーが務まるのでしょうか? ハリーはどうしてこんな子に惹かれるのでしょう? 全く納得できません。今度泣いたらひっぱたいてやりたい、なんて思ってしまっています。
ハリーの父の意外な姿や、ハグリッドの帰校がなぜおくれたのか、などが明らかにされます。
うーん、ハリポタが好きな人なら文句なしにオッケーでしょうけど、そうでない人にとっては評価が分かれそうですね。 魔法学校を舞台としていますが、ファンタジーというにはワクワク感がちょっと足りないような気がします。かといって、YA(ヤングアダルト)かというと、インパクトや深みの点でちょっと弱いのでは?
800ページ近い作品をさほどだれずに引っ張っていくお手並みは、今回もお見事でした。これまでの謎の解明、そして、新たな謎……。だけど、お話としては、あまり進んでいないのでは? あと2巻で、どのように展開させていくのかな?
これは、作者について(または、販売戦略かも)思うところですが、発売前に「重要な人物が死ぬ」という発表をしたところが、どうもいやでした。出版社の意向かもしれませんが、あおって話題づくりをして盛り上げようというのが、いやな感じでした。きれいごとかもしれませんが、いい作品ならそんなことをしなくても売れるでしょうに、と、一言嫌みを言いたくなりました。読了したから、もう言ってもいいかな。
これから、どんな評価が出てくるのか、じっくり見守っていきたいと思っています。
『心地よい眺め』ルース・レンデル ハヤカワ・ポケットミステリ
愛されることを知らずに育った青年テディ。彼の心を捉えるのは「美」だけ。七歳の時、射殺された母親の血だまりに座り込み、それからしばらく言葉をなくした少女フランシーン。継母の手で風にも当てぬように育てられたフランシーンは美しい少女に成長する。ふとしたことでフランシーンに出会ったテディは、その完璧な美しさに魅了される。次第に惹かれ合う二人だが、 その行く手にあるものは……。
何ともブラックな終幕です。どろどろと暗く、重い。暗くて重くてどろどろはどちらかというと好みなのですが、そんなわたしでもかなり濃いと感じてしまう作品でした。それでも読ませてしまうのだから、やっぱりレンデルはすごいなと妙に感心してしまいました。よくこんな作品が書けるものだなと。
継母のこわれっぷりがあまりにリアルで怖いくらいでした。だれよりもフランシーンのことを配慮し、その成長を願っていたはずだったのに……。心が壊れていくときって、こういうものなのかなと考えさせられました。
互いのことを思い合いながらもずれていく歯車、壊れていく心……。愛されたことがないゆえに、愛することも愛されることも知らないテディ。その心にあるのは独占欲だけなのでしょうか?
邦題は『心地よい眺め』となっていますが、全然心地よい眺めではありませんでした。むしろ不快。テディの育った家に似た場所を最近見たせいでしょうか。読みながら吐きそうになってしまいました。
作品としては、人物に存在感があり、緊迫感もあって一気に読ませます。伏線の張り方も見事です。一流のサスペンスと言えるでしょう。ただ、今のわたしにはちょっと濃すぎました。好みが分かれる作品だと思います。
再読はちょっときついですね。レンデルはしばらくお休みしようかな?
"A SIGHT FOR SORE EYES" Ruth Rendell
何ともブラックな終幕です。どろどろと暗く、重い。暗くて重くてどろどろはどちらかというと好みなのですが、そんなわたしでもかなり濃いと感じてしまう作品でした。それでも読ませてしまうのだから、やっぱりレンデルはすごいなと妙に感心してしまいました。よくこんな作品が書けるものだなと。
継母のこわれっぷりがあまりにリアルで怖いくらいでした。だれよりもフランシーンのことを配慮し、その成長を願っていたはずだったのに……。心が壊れていくときって、こういうものなのかなと考えさせられました。
互いのことを思い合いながらもずれていく歯車、壊れていく心……。愛されたことがないゆえに、愛することも愛されることも知らないテディ。その心にあるのは独占欲だけなのでしょうか?
邦題は『心地よい眺め』となっていますが、全然心地よい眺めではありませんでした。むしろ不快。テディの育った家に似た場所を最近見たせいでしょうか。読みながら吐きそうになってしまいました。
作品としては、人物に存在感があり、緊迫感もあって一気に読ませます。伏線の張り方も見事です。一流のサスペンスと言えるでしょう。ただ、今のわたしにはちょっと濃すぎました。好みが分かれる作品だと思います。
再読はちょっときついですね。レンデルはしばらくお休みしようかな?
"A SIGHT FOR SORE EYES" Ruth Rendell
2004年12月17日
『わが手に雨を』 "A FISTFUL OF RAIN"
グレッグ・ルッカ/佐々田雅子訳
文藝春秋/2004.09.30発行 2100円(税別)
ISBN: 4163233601
《そぼ降る雨が奏でる魂の再生と家族の絆の物語》
人気急上昇中のロックバンドのギタリスト、ミムにはつらい過去があった。11歳の時、飲んだくれの父に母がひき殺された。父は殺人犯として収監され、家庭は崩壊し、ミムは養家を転々とする。やがて、ロックギタリストとしての才能を発揮し、富も名声も手に入れるが、生きることに倦んでいたミムは酒に逃げ道を求め、溺れていく。
海外公演のさなか、飲んだくれてステージで醜態をさらしてメンバーからはずされ、ひとり、アメリカへ帰ったミムを何者かが追う。ストーカーめいた男に誘拐され、いかがわしく加工された盗撮写真がネット上にばらまかれる。追い打ちをかけるように悲しい出来事が起こり、さらに、セキュリティをかいくぐって自宅に侵入したパーカの男がミムを殴打する。
ミムの行動はすべて男の監視下にあり、男は、出所した父の命とひきかえに大金を要求する。与えられた期間は4日。パーカの男が残した言葉を手がかりに、ミムは封じ込めていた過去に向き合う。大切なものを守るため、ミムはたったひとりで敵に立ち向かう。真実に近づいたとき、ミムが見たものは――。
冒頭に、雨上がりの空の下、ハロウィンのカボチャちょうちんをつくる女の子と母親が描かれる。トラックのタイヤがきしみ、女の子の目に、排水溝に雨水と混じって血が流れているのが写る。
母を亡くした女の子の上に降りしきった雨はまた、相次ぐ衝撃に打ちのめされそうになるミムに降り注ぐ。飲んだくれて血と吐瀉物にまみれるミムのうちに居場所をなくしてさまようおびえた女の子の姿が透けて見え、読者の心に切なく迫る。
追い詰められたミムが音楽への道を開いてくれた養母とともに子どもたちのおねだりにこたえるハロウィンの場面は、懐かしく、温かい。
屈辱にまみれ、何もかもなくそうとしていたミムが、ただひとつの思いを胸に危険を顧みず不気味な追っ手に立ち向かう姿に熱いものを感じる。背後から何かが迫る緊迫感が全編を貫き、心地よい疾走感で読者を終局まで一気に導く。雨を効果的に用いた描写は鮮烈なリリシズムにあふれ、雨上がりのような読後感を与える。
アティカス・コディアックを主人公とする身辺警護シリーズで知られるグレッグ・ルッカは1970年生まれの気鋭の作家。初の単発作品である本書では、周囲の状況に流されるばかりで戦うことを知らなかったひとりの女性がみずからの力で立ち上がる姿が力強く描かれ、加えて家族の絆の切なさをも感じさせてくれる。
久しぶりにギターを弾きたくなった。ケースのほこりを払って音を合わせ、そっと爪弾いてみる。雨の音が聞こえる。
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合はBOOKS WHODUNITへ
◇bk1へ
『海外ミステリ通信』11月号掲載
文藝春秋/2004.09.30発行 2100円(税別)
ISBN: 4163233601
《そぼ降る雨が奏でる魂の再生と家族の絆の物語》
人気急上昇中のロックバンドのギタリスト、ミムにはつらい過去があった。11歳の時、飲んだくれの父に母がひき殺された。父は殺人犯として収監され、家庭は崩壊し、ミムは養家を転々とする。やがて、ロックギタリストとしての才能を発揮し、富も名声も手に入れるが、生きることに倦んでいたミムは酒に逃げ道を求め、溺れていく。
海外公演のさなか、飲んだくれてステージで醜態をさらしてメンバーからはずされ、ひとり、アメリカへ帰ったミムを何者かが追う。ストーカーめいた男に誘拐され、いかがわしく加工された盗撮写真がネット上にばらまかれる。追い打ちをかけるように悲しい出来事が起こり、さらに、セキュリティをかいくぐって自宅に侵入したパーカの男がミムを殴打する。
ミムの行動はすべて男の監視下にあり、男は、出所した父の命とひきかえに大金を要求する。与えられた期間は4日。パーカの男が残した言葉を手がかりに、ミムは封じ込めていた過去に向き合う。大切なものを守るため、ミムはたったひとりで敵に立ち向かう。真実に近づいたとき、ミムが見たものは――。
冒頭に、雨上がりの空の下、ハロウィンのカボチャちょうちんをつくる女の子と母親が描かれる。トラックのタイヤがきしみ、女の子の目に、排水溝に雨水と混じって血が流れているのが写る。
母を亡くした女の子の上に降りしきった雨はまた、相次ぐ衝撃に打ちのめされそうになるミムに降り注ぐ。飲んだくれて血と吐瀉物にまみれるミムのうちに居場所をなくしてさまようおびえた女の子の姿が透けて見え、読者の心に切なく迫る。
追い詰められたミムが音楽への道を開いてくれた養母とともに子どもたちのおねだりにこたえるハロウィンの場面は、懐かしく、温かい。
屈辱にまみれ、何もかもなくそうとしていたミムが、ただひとつの思いを胸に危険を顧みず不気味な追っ手に立ち向かう姿に熱いものを感じる。背後から何かが迫る緊迫感が全編を貫き、心地よい疾走感で読者を終局まで一気に導く。雨を効果的に用いた描写は鮮烈なリリシズムにあふれ、雨上がりのような読後感を与える。
アティカス・コディアックを主人公とする身辺警護シリーズで知られるグレッグ・ルッカは1970年生まれの気鋭の作家。初の単発作品である本書では、周囲の状況に流されるばかりで戦うことを知らなかったひとりの女性がみずからの力で立ち上がる姿が力強く描かれ、加えて家族の絆の切なさをも感じさせてくれる。
久しぶりにギターを弾きたくなった。ケースのほこりを払って音を合わせ、そっと爪弾いてみる。雨の音が聞こえる。
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合はBOOKS WHODUNITへ
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『海外ミステリ通信』11月号掲載