2007年12月23日

『イラクサ』アリス・マンロー 

小竹由美子訳 新潮クレスト・ブックス
"HATESHIP,FRIENDSHIP,COURTSHIP,LOVERSHIP,MARRIAGE" Alice Munro
ISBN: 4105900536

 最初に収録されている「恋占い」のざらっとした読後感が気に入らず、途中放棄しようかと思ったが、あちらこちらで高い評価を受けている作品なので、とりあえず続けて読んでみた。読んでよかったとは思う。ただ、正直言ってあまり好きな作風ではない。わたしは人間が甘いせいか、読後のほろ苦さやざらつきが苦手なせいである。短編ならばジュンパ・ラヒリやアリステア・マクラウドの方が好みかもしれない。

 
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『ハマースミスのうじ虫』ウィリアム・モール 

霜島義明訳 創元推理文庫
"THE HAMMERSMITH MAGGOT" William Mole
ISBN: 4488161022

 ワイン商キャソン・デューカーは、会員になっているクラブで、いつになく酒を過ごす銀行家ロッキャーに興味を抱き、事情を尋ねる。どうやらロッキャーは、バゴットなる男から強請られたらしい。犯罪に並々ならぬ関心を抱くキャソンは、謎の男バゴットを追い始める。

 1955年の作品。長く、伝説の逸品とされてきたが、このたび、新たに翻訳された。独特の雰囲気を色濃く漂わせながらも緊迫感を満喫させてくれる作品である。サスペンスも英国ものだとこういう仕上がりになるのかと感心した。

 題名で引いていた。青縁眼鏡さんが紹介されてなかったら、たぶん手が出なかったと思う。これまで読んだことのないタイプだが、他にもあれば読んでみたいと思う。解説も充実していて、著者に対する興味をかき立ててくれる。著者の他の作品も読んでみたくなった。
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『あなたの犬は幸せですか』シーザー・ミラン、メリッサ・ジョー・ペルティエ 

片山奈緒美訳 講談社 ISBN: 4062137291

 犬とともに育ち、だれよりも犬を知るドッグ・トレーナー、シーザー・ミランが、どうすれば犬たちともっと幸せに暮らせるか、深い絆を結べるのかについて、ヒントを与えてくれます。

 この本で、シーザーは、アメリカでもっとも満ち足りて情緒的に安定している犬はホームレスの人々と暮らす犬ではないかと語っています。

 少し前、山ほど空き缶を積んで走る自転車の傍らを疾走する犬を見ました。きっと、このおじさんと一緒に暮らしている犬なのでしょう。リードもないのに、犬は自転車に遅れまいと一生懸命ついて走っていました。その姿を見ていると、なんだか胸がいっぱいになってしまいました。人と犬との絆を目の当たりにしたからかもしれません。

 シーザーは「問題行動」を起こして保護施設に追いやられた犬たちについて語っています。戦う道具として育てられ、役に立たなくなると捨てられる闘犬たち――戦うことしか知らずに育った犬たちは容赦なく人間を襲います。

 問題行動を起こすのは、人間たちがそうするよう仕向けてきたからです。犬を愛しているつもりでも、犬がどういう動物であるか知らなかったために、問題行動を助長する結果になることもよくあります。愛しているから甘やかすのではなく、本当の意味で犬が求めているものを与えなければなりません。犬が求めるもの、それは規律、すなわちルールと境界と制限です。

 群れ社会で生きる犬に、序列は欠かせません。犬と幸せに暮らすには、飼い主こそがリーダーであるとはっきりわからせなければなりません。リーダーであるためには、24時間365日、穏やかで毅然としたエネルギーを保持していなければなりません。犬はいつも頼れるリーダーに従いたいと願っているのです。

 犬と暮らすにはそれだけ覚悟が必要です。リーダーであるのは、ほんとうに大変な仕事です。だけど、犬との暮らしはそれ以上に与えられるものも多いと思うのです。犬が与えてくれる喜びは何にも代え難いものであり、わたしたちの暮らしを豊かに彩ってくれるのです。

 犬と人との関係を考えると、人と人との関係にも思いを及ばさずにいられません。犬と暮らすことで、人は社会のあり方を学ぶのだろうと思います。

 犬好きさんだけでなく、この社会に生きるすべての方に読んでいただきたい本です。
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2006年05月30日

"LOUISA AND THE MISSING HEIRESS" Anna Maclean

 Signet Books/2004.04/ISBN: 0451211790

 1854年、ボストン。22歳のルイザと親友シルヴィアは、新婚旅行から帰ったばかりの幼なじみドッティからお茶の招待を受け、新居を訪ねた。

 ところが、約束の時間になってもドッティは姿を見せない。結婚すると変わってしまうのかと、ひそひそ話をするルイザとシルヴィア。

 1時間も遅れてようやく帰宅したドッティは、約束は明日だと言い張る。いとまを告げたルイザにドッティは「話したいことがあるから、明日は絶対来て」と念を押す。

 翌日、ルイザとシルヴィアは再び屋敷を訪れるが、そこで待っていたのは恐ろしい知らせだった。ボストン湾でドッティの遺体が発見されたというのだ!

 警察はドッティの死を事故死、もしくは自殺と推定する。幸せいっぱいのはずのドッティがなぜ? ルイザはドッティの死の真相をつかむべく、調査を始める。

『若草物語』が世に出る前の若き日のオルコットが探偵となって活躍するルイザ・メイ・オルコット・ミステリ第1作。

 検屍解剖に立ち会うルイザは想像の範囲外だった。意外さに驚いた。母アビゲイルことアッバや哲学者で理想家肌の父ブロンソン、家庭的で働き者の妹、10代になったばかりの末妹と、『若草物語』ファンには感涙ものの設定である。

 オルコットとミステリは一見ミスマッチに思われるが、実はB級ぽい冒険ものや悪女ものまで書いたルイザだから、自分が探偵役を務める物語ができたと聞くと、天国でジグを踊っているのではないだろうか。

 何不自由なく暮らす上流階級の友人と結婚したばかりの夫、それぞれ事情がありそうな姉たちと弟、複数の男性と浮き名を流すコケティッシュなメキシコ系の女優と、多彩な顔ぶれがそろう。ルイザに気のあるアイルランド系の赤毛の巡査コバンとルイザのやりとりがおもしろい。世間知らずのようでいて鋭いところのある親友シルヴィアも大活躍!

 ガス灯の淡い光のもと、玉石を敷き詰めた道路を走る乗合馬車、ふくらんだスカートと19世紀中ごろのボストンの雰囲気が伝わってくる。南北戦争を前に、黒人解放運動や貧しい女性たちのための救済施設や逃亡奴隷のための地下鉄道にも言及されており、時代のありようが伝わってくる。ミステリとしてだけではなく、歴史小説としても楽しめる。

 
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"THE BRIDE'S KIMONO" Sujata Massey

 Avon Books (2001)

 東京で暮らすアンティーク・ディーラー、シムラ・レイ(志村伶)のもとに1本の電話がかかってきた。ワシントンDCにあるアジア博物館から着物の展示と講義を依頼してきたのだ。

 もとはといえば、江戸時代の珍しい着物のコレクションで知られるモリオカ博物館から着物を借り受け、その学芸員に講義をという予定だった。だが、学芸員の都合がつかなくなったため、やむなく外部に依頼せざるをえなくなったところ、ある人の推薦でレイの名が挙がったという。好条件に気をよくしたレイは二つ返事で引き受ける。

 翌日、レイは打ち合わせのためモリオカ博物館を訪れる。予定していた着物のうちの1着が輸送に耐えられる状態ではないのを見たレイは、ある花嫁衣装に目をつけ、渋る館長に展示物に加えるよう頼み込む。貴重な着物とともにワシントンに向かったレイを思いがけない事態が待ち受けていた。

 切れがよく、テンポの速い作品。謎解き、人間関係、そして着物にまつわる話と、読みどころ満載である。気っ風のいいレイと優雅な着物とのコントラストがおもしろい。英語は平易で読みやすい。

 現在の恋人であるタケオと元恋人ヒューとの間で、レイの心は激しく揺れる。結婚を間近に控えて残り少ない独身生活を満喫しようとする現代っ子ハナ、その友人キョウコはすぐ隣にいるように感じられる。レイと両親との会話には泣かされた。

 シムラ・レイ・シリーズ第5作。いきなり読んでも十分楽しめる。

 スジャータ・マッシーはアガサ賞の常連。この作品も2002年アガサ賞最優秀長篇賞にノミネートされている。
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2006年01月20日

『密造人の娘』マーガレット・マロン

密造人の娘』マーガレット・マロン 高瀬素子訳
"BOOTLEGGER'S DAUGHTER" Margaret Maron
ミステリアス・プレス文庫 ISBN: 4151000941
1993年度エドガー賞、アガサ賞、アンソニー賞、マカヴィティ賞最優秀長編賞
 
 ノースカロライナ州コルトン郡で弁護士として働くデボラ・ノットは、因習に凝り固まった法廷のあり方に憤慨し、折しも行われていた地方裁判所判事選挙に立候補した。激しい選挙戦の最中、デボラは昔ベビー・シッターをしていたゲイルから、母親の死の真相を突きとめて欲しいと依頼される。

 18年前、生後間もないゲイルは母ジャニーとともに行方不明となり、3日後、母の遺体の傍らで泣いているのを発見されたが、事件は迷宮入りとなっていた。断り切れず、デボラは関係者から聞き取りを始めるが、事件は意外な展開となり、選挙戦も混迷を深めていく――。

 コクと翳りのあるミステリ。土の匂いにむっとむせ返るような、とにかく匂う小説である。匂い、音、触覚、視覚、五感のすべてを揺さぶるような、そんな感じがする。

 そこにいない人の存在感に圧倒されそうだった。アーヴィングの『未亡人の一年』ではそこにいないマリオンの存在感が圧倒的だったが、ここでもちらっとしか出てこない父の存在感に圧倒された。主人公を食っているのではないかと思う。

 南部のホスピタリティ、そしてそれと表裏一体にあるような根深い偏見、ツタのように絡まる人間関係――そんな中で浮き上がることもなく、絡めとられることもなく、しっかり自分を持って、根をはって生きているヒロイン、デボラにエールを送りたくなった。

 アメリカ探偵作家クラブ賞、アンソニー賞、アガサ賞、マカヴィティ賞、それぞれの最優秀長編賞を受賞した作品、それももっともだと思わせる、素晴らしい作品である。

 デボラ・ノット・シリーズ第1作。4作まで邦訳が出ている。他にもニューヨーク市警シグリッド・ハロルドを主人公としたシリーズがあり、短篇も数多く書いている。興味をかき立てる作家である。

 ペカン・パイは何といっても私の大好物で、冬場は思う存分食べることにしているが――からだの線を隠してくれるバルキーセーターは何のためにあると思う?――スーの店のパイはおいしいとはいっても、叔母のゼルのに比べたら、足下にもおよばない。それに、私は誰かほかの人間が作ったパイで、五百カロリーを余分に摂取したりはしない。

 彼の猛々しい青い瞳が鳥たちの動きを追った。八十二歳、それでも彼は、臆病者たちの鋭いくちばしを背に感じながら、鷹のように生きるということがどんなものか知っていた。
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2005年12月23日

『過去からの殺意』ヴァル・マクダーミド 宮内もと子訳

"THE DISTANT ECHO" Val McDermid
集英社文庫 ISBN: 4087604837
2004バリー賞最優秀英国ミステリ賞

 1978年、クリスマスも間近い12月半ばの未明、スコットランドの小村セントアンドルーズの丘で、瀕死の女性が倒れているのを4人の若者が発見する。すぐに通報するが、女性は死亡。第一発見者の4人に容疑がかけられる。カーコーディのハイスクールで出会った4人は強い絆で結ばれていたが、いつしか互いに疑いの目を向けるようになる。だが、真犯人は見つからず、事件は迷宮入りする。

 25年後の2003年、事件の見直しが始まるや、4人組がひとり、またひとりと不審な死を遂げる。事件の真相は? そして友情は?

 そして25年後という設定は『ミスティック・リバー』と似ていますが、こちらはハイスクールから始まり、大学時代をともに過ごした4人組の物語です。固い絆で結ばれていたはずの4人がどう変わっていったか? ひととき、みずからの学生時代を懐かしんでしまいました。


「その場はたちまち静まりかえり、彼らはジギーのラジオが中継するビッグ・ベンのきんきんした鐘の音を聴こうと耳をすませた。鐘が鳴りだすと、”カーコーディの若造ども”は互いの顔を見つめた。一本の糸に引かれたように、四人の腕が同時に上がり、十二時の鐘の最後の一打が響いたとき、四つの手がしっかりと握り合わされた。「新年おめでとう」四人はそろって声をあげた。アレックスは他の三人を見て、彼らも自分と同じように胸がいっぱいになっているのだとさとった。」152p
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2005年10月13日

"CALEB'S STORY" Patricia MacLachlan

Joanna Cotler Books ISBN: 0064405907

 ぼくは父さんと母さんのサラ、姉さんのアンナ、そして妹のキャシーと暮らしている。学校を卒業したアンナは町の病院で働くことになる。家をたつとき、アンナはぼくに帳面を手渡した。アンナがつけていた日記だ。これからはぼくがつけるよう、アンナは言った。

 父さんがアンナを町まで送っていった夜、吹雪に見舞われた納屋に見知らぬ人がいるのを発見する。父さんのことをよく知っているようなこの人はだれ?

 厳しい自然を背景に家族の絆を描く「のっぽのサラ」シリーズ第3作。これまでアンナの視点から語られていた物語が、今度は弟ケイレブから語られる。父ジェイコブの不器用な愛情表現に胸打たれる。 
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2005年08月03日

『影のオンブリア』パトリシア・A・マキリップ 井辻朱美訳 早川書房

"OMBRIA IN SHADOW" Patricia A. McKillip ISBN 4150203822
カバーイラスト Kinuko Y. Craft

 表紙画がずっと気になっていた本。ルネッサンス期の絵画かと思っていたら現代のものだった。神秘的でそれでいて郷愁を誘うような独特の美しさを持つ絵である。
 
 古く、美しく、豊かな都オンブリア。その都を治める大公が亡くなり、酒場の娘だった愛妾リディアは大公の大伯母ドミナ・パール(黒真珠)によって宮殿から追い出された。宮殿には若君カイエルと大公の妹の私生児デュコンが残された。

 もう一つの都、それは影のオンブリア。女魔法使いや蝋人形が動き回る街。オンブリアと影のオンブリアは不思議な経路で結ばれている。

 この二つの都がどうかかわっていくのか、リディアは、カイエルは、そしてデュコンは? ドミナ・パールはオンブリアを意のままにできるのか? 

 空気の揺らぎまで伝わってきそうな繊細な描写にうっとりしながら読んでいる。イギリスの作家かと思ったが、ヨーロッパに長く住んではいたが、アメリカの作家とのこと。近ごろ流行りの派手でスピーディだけど後には何も残らないお話より、こういうみっちり描かれた物語の方が性に合っているようだ。

 ファンタジーの真骨頂とでも言うべき作品である。やっぱりファンタジーはこうでなくちゃと思わせる。読む人を異世界に誘い、その世界でたっぷり遊ばせてくれる、それこそがファンタジーのおもしろさだろう。

 これほどとっぷりと作品世界に酔えるのはそうそうあることではない。読んだ後もまだ自分がオンブリアの影の世界にたゆたっているような、そんな不思議な余韻にひたっている。

 個人的に今年のベスト10、そしてオールタイムベストに入りそうな予感がしている。

 重層的でかつ繊細な描写、しっかり練られたプロット、緊迫感溢れるクライマックス、そして何より人物に魅力がある。それぞれに謎を抱えながらもその息づかいまで伝わるような気さえする。

 マキリップにはまってしまいそうだ。
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『天より授かりしもの』アン・マキャフリー 赤尾秀子訳 創元推理文庫

"AN EXCHANGE OF GIFTS" Anne McCaffrey ISBN: 4488597025

 意に添わない相手と結婚させられそうになり、森の奥の廃屋に逃げ込んだ王女ミーアン。慣れない暮らしに悪戦苦闘するミーアンの元にあらわれたのは、背中に痛々しい鞭跡のある少年ウィスプ(ささいなもの)。ときに大人の男を感じさせるウィスプの正体は? そして、2人の暮らしは?

 120ページの小品であるのに加え、ページの下にイラストがついている(このイラストは必要なのだろうか?)ので、あっけないほど短時間で読んでしまった。ちょっぴりざらざらした味わいの角砂糖のようなお話だった。さらりと読めて、あとに残るものはさほどなく、ちょっと物足りない。

 初マキャフリーはこんなもんかなという感じである。
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2005年06月16日

『ひとりで歩く女』ヘレン・マクロイ 宮脇孝雄訳

"SHE WALKS ALONE" Helen McCloy
創元推理文庫 ISBN:4488168035

「誰かがわたしを殺そうとしています。何者かはわかりません。証拠もないのです。」謎めいた書き出しの手記から物語は始まる。西インド諸島のむっとするような熱気とけだるさの中で交わされる奇妙な会話。船旅での一風変わった同行者たち。何かにつけねらわれているような恐怖感をはらみながら、物語はアメリカへと舞台を移し、展開していく。

 サスペンスの古典とされている作品である。緻密な構成、幻想的な描写、息詰まるほどの緊張感――

 確かにおもしろかったし、優れた作品だと思うが、途中で犯人がわかってしまったのが興ざめである。

 これまでミステリはそれなりに読んできたが、犯人を当てたことは一度もなく、いつも最後まで騙されている。それが癪だったり、おもしろかったりで、実はそういう駆け引きを楽しんでいたりする。

 今回、初めて当ててしまい、嬉しいと言うよりちょっとショックを受けている。結末で思いっきりびっくりさせてもらえると期待していたのだが。すれた読者になってしまったみたいで、ちょっぴり寂しく感じている。

 犯人がわかったところでおもしろさが全くなくなってしまうわけではない。とりわけ、前半の西インド諸島での場面や船旅の場面は読み返したくなるほど趣があった。
『家蝿とカナリア』は本格推理ものとされているのだけど、ヘレン・マクロイは論理より描写で読ませるタイプなのかもしれない。
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『殺しの儀式』ヴァル・マクダーミド 森沢麻里訳 集英社文庫

"THE MARMAIDS SINGING" Val McDermid
ISBN 4087603075


 イギリス中部の都市ブラッドフィールドで連続殺人事件が起こる。被害者はすべて男性。遺体にはむごたらしい拷問の跡が残されていた。女性警部補キャロル・ジョーダンは心理分析官トニー・ヒルとともに殺人犯を追う。その間にも、まるで警察をあざ笑うかのように、次々と痛ましい死体が発見される。犯人の意図は何か。そして何ものなのか。犯人の手記をはさんで物語はじりじりと展開していく。

 手記を読みながら、何度も悪寒が走った。殺しに美学を求める連続殺人犯は、ただ殺すのが目的ではなく、いかに苦しみを長引かせ、印象的なものとするかに心を砕く。拷問についての歴史的資料を収集し、みずから図面を引いて拷問具をつくる犯人にとって、殺しはまさに神聖な儀式なのだ。

 この本は読み始めてから読み終わるまでかなり時間がかかった。CWA賞ゴールドダガー受賞作品であり、フェミニズムを根幹に置いているという評判を聞いて期待して読み始めたが、微に入り細に入り執拗に描かれる拷問場面に辟易してなかなか読み進められなかった。人間関係をじっくり描く作品は好きだが、残虐な拷問場面をじっくり描かれるのは何ともおぞましく、嫌悪感が募ってやり切れなかった。

 あまりの残虐さに中断も考えたが、残り3分の1を切ったところからは手が止まらなかった。忍び寄る魔手、追う刑事たち――刑事だからといって正義の味方ばかりではない。抜け駆け、情報のリーク、保身、そねみ、さまざまな姿がリアルに描かれる。おぞましさを感じながらも読後に愛を求める魂の哀しさが切なく刻まれた。

 好悪がはっきり分かれる作品だと思う。途中で放棄される方も多いだろう。だが、作者の並々ならぬ才能はこの作品からも十分感じられ、他の作品を読まずにはいられない気持ちにさせられる。えぐみはあるけれども、妙に後を引く作家である。

 キャロル・ジョーダン・シリーズは『殺しの四重奏』『殺しの迷路』と続く。

 ヴァル・マクダーミドには他にスコットランド人のフェミニストであるジャーナリスト、リンゼイ・ゴードン・シリーズ、マンチェスターの女性私立探偵ケイト・フラナガン・シリーズがある。

 2005年3月にスタンドアローン『過去からの殺意』が出版されている。
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2005年05月21日

『ヴァイキング、ヴァイキング』 シャーロット・マクラウド 高田恵子訳

創元推理文庫
"WRACK AND RUNE" Charlotte MacLeud ISBN 4488246044

 まもなく105歳を迎えようとしているとはいえ元気なヒルダと82歳の甥ヘニーが守るホースフォール農場で作男のスパージが無惨な遺体で発見された。農場の近くにあるヴァイキングの遺跡の呪いではないかといううわさがあっという間に広がる。スパージの死は他殺ではないかと疑うシャンディだが、スヴェンソン学長の102歳になる大おじスヴェンはヒルダに色目を使うは、やり手の不動産屋はしつこくつきまとうは、野次馬はうようよするは、次から次へと騒ぎは続く。スパージの死の真相は? 農場の行く末は? スヴェンとヒルダは? 

 おなじみシャンディ教授シリーズ第3作。今回も脇役たちがしっかり活躍している。トシなどまったく気にしていない元気な老人カップルに喝采を送りたくなる。圧巻は見事な金髪をたなびかせ、屈強なオーディンに乗り、疾駆する、学長の妻シーグリンデ・スヴェンソンの北欧神話の女神と見まごうばかりの美しさ! 付き従うシャンディの妻ヘレンがまるでお小姓のように見えるのが微笑ましい。

 持ち前のユーモアに磨きがかかり、ノリに乗っているシャンディ教授と仲間たちの今後の活躍が楽しみである。
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2005年04月29日

『煮たり焼いたり炒めたり―真夜中のキッチンで―』 宮脇孝雄 早川書房

ISBN 4150306079

 ダニング『死の蔵書』等の翻訳でおなじみの宮脇孝雄氏が書かれた料理うんちく(?)本。好奇心に溢れ、かつほどほどに大ざっぱなところがいかにも男の料理という感じ。ついつい試してみたくなる料理が満載。料理本の翻訳を志す方必読の書。
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2005年03月24日

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』アリステア・マクラウド 中野恵津子訳

 新潮クレストブックス
"NO GREAT MISCHIEF" Alistair MacLeod ISBN4105900455

 1779年、スコットランドから赤毛の男が家族を連れてカナダ東端の島に移住した。その男の名はキャラム・ルーア。船に乗った家族を泳いで追うほど情が深すぎてがんばりすぎる犬とともに。幾星霜が過ぎ、一族の末裔のある者はトロントで身を持ち崩し、ある者は矯正歯科医として裕福な暮らしを送っている。遠く離れた故郷の言葉ゲール語を忘れず、語り継がれてきた家族の歴史がここに描かれる。今は亡き愛しい人々への思いを込めて――。

 オンタリオ州南部で矯正歯科医となったアレグザンダー・マクドナルドを語り手とし、その長兄とのかかわりを軸として、スコットランドからセント・ローレンス湾に浮かぶカナダ東端の島ケープ・ブレトン島に移り住んだ一族の歴史が語られる。冬の国と呼ばれる寒さの厳しい地方での人々の暮らし、その生と死、生きること、代々語り継がれた先祖の魂を大切にして生きること、人にとっての故郷、家族の重みを感じさせてくれる名編。

 原題"NO GREAT MISCHIEF"とは「大した損失ではない」の意。1759年、かつてハイランドの氏族に過酷な報復を加えたジェームズ・ウルフが、ハイランダーとともにフランスを相手にカナダで戦った「アブラハム平原の戦い」の際、かつての敵だったハイランダーをひそかな敵と見なして書いた言葉であり、作品中に何度か引用されている。

 この作品を読みながら、わたしはモンゴメリの作品と同じ匂いを感じていた。もしモンゴメリが現代に男として生を受けたなら、このような作品を書いたのではないだろうか。そう思いつつ読んでいた。

 マクラウドはプリンス・エドワード島の出身と聞くが、この作品の舞台はそのお隣りとも言えるケープ・ブリテンである。さらに、マクラウドと同じくモンゴメリもまたスコットランド移民の子孫である。そして、この作品で語られる「赤毛、双子、孤児」はモンゴメリの作品を読み解くときのキーワードでもある。この作品はだれもが認める名編ではあるが、モンゴメリを愛する者としてはちょっと複雑な気分を感じずにはいられない。

 片やモンゴメリは少女小説家とくくられ、片やマクラウドは実力派の作家と讃えられる。マクラウドを讃える人の多くは、モンゴメリを「少女小説家」と軽んじているのではないか。ひがみかも知れないが、そう思われてならない。

 この作品を読み終えて、モンゴメリの伝記をまた手にとっている。モンゴメリのルーツを再度検証してみたいと思っている。
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2005年03月08日

『蹄鉄ころんだ』シャーロット・マクラウド 高田恵子訳 創元推理文庫

"THE LUCK RUNS OUT" Charlotte MacLeod ISBN 4488246028

 4月のマサチューセッツ。年に一度の競技大会を目前に控えたバラクラヴァ農業大学は、早くも興奮の渦に沸き立っていた。だが、どうもおかしい。馬房の蹄鉄がひっくりかえされ、シャンディ夫妻が買い物に行った先で金銀が強奪され、大学が誇る若く美しい雌豚ベリンダが出産を控えた大事な体であるにもかかわらず行方がわからなくなった。

さらには、あろうことか、蹄鉄工のミス・フラックレーの遺体が豚舎の粉末給餌器の中から見つかったのだ。フラックレー家は代々蹄鉄工として大学の馬の蹄鉄を打っていた。ミス・フラックレーは何代めかの蹄鉄工として、時計のようにきっちりとみずからの仕事を遂行する、地味ではあるが、律儀な女性だった。シャンディ教授はスヴェンソン学長の命を受けてまたまた調査に乗り出す。

 シャンディ教授シリーズ第2作です。今回もたっぷりと楽しませていただきました。

 今回はスヴェンソン家の内情(?)が暴露されます。そろって美しい7人姉妹なのですが、バラクラヴァ農業大学在学中のビルギッドはどうやら黒い羊さんのようです。〈ヴィギーズ〉ヴィジャラント・ヴェジタリアンズの活動家で、大学中の女の子の心をとらえるハンサムさんなのだけどちょっと間が抜けているヤルマル・ウールセンとお熱い仲のこの娘、何やらしでかしそうな気配です。

 目立たないけど自分の仕事はきちっとこなす蹄鉄工のミス・フラックレー、好きでした。お友だちになりたかったのに……。出番が少なかったのがとても残念です。

 ヘレンのサウスダコタでのお友だち、イデューナ・ビョルクンドがいい味出しています。気球そっくりの体形ではありますが、料理上手で細やかな心遣いのできる優しい女性です。場の雰囲気を明るくしてくれるイデューナに幸あれ!

 やっぱり好きです、このシリーズ。ほのかに香る土の匂いも、大人たちの味のある恋模様もとても気に入っています。『ヴァイキング、ヴァイキング』『猫が死体を連れてきた』『オオブタクサの呪い』まで入手しているのでぼちぼち読んでいこうと思っています。
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2005年03月04日

"TOUJOURS PROVENCE" Peter Mayle

 ERC英国特集、現代文学。

 前作"A YEAR IN PROVENCE"に続く、南仏プロヴァンスでの暮らしを描くエッセー。

 とにかく、美味しい話が満載。トリュフ(食べたことはないのだけど)、pastis(地酒だと思う)などの美酒、新鮮な野菜などの話が次々出てくるので、空腹のときには読まない方が賢明かも。

 トリュフに目がくらむ人々、俗化していく村など、どこにでもありそうな人々の姿を描きつつも、プロヴァンスの土地と人々をこの上もなく愛する著者の心が伝わってくる。

 プロヴァンスに行きたくてたまらない気持ちにさせる本である。


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"SKYLARK" Patricia MacLachlan

"SARAH,PLAIN AND TALL"の続編。

 雨が降らず、干上がる平原。親しくなった家族が、次々と平原を去っていく。そして、サラと子どもたちも……。

 このところ、「読んだ!」という満足感が味わえなかったため、気持ちがゆったりするような本を一気に読んだ。期待通りで、やっと満たされた気分

 Calebの物語も読んでみたい。
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"SARAH,PLAIN AND TALL" Patricia MacLachlan

 数時間でさらりと読めますが、実に内容の濃い本です。

 悲しみをうちに含んだ静けさ 。

 遊び足りて、満ち足りて眠る幼子の健やかな寝顔すら、気づかわしげな少女の愁い顔すら、目に浮かぶような。

 生きることの切なさと喜びが、繊細な筆致で描かれています。

 お父さんの頑張りぶりが『大草原の小さな家』を思い起こさせましたが、こちらの方がもっと繊細ですね。

 ニューベリー賞受賞作品。続編"SKYLARK"も読んでみたいですね。
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"WINNIE-THE-POOH" A.A.Milne

『クマのプーさん』石井桃子訳がよく知られています。コラム記者であったミルンが、子ども部屋のぬいぐるみにヒントを得て息子クリストファー・ロビンに語りかける形で始まっています。

 100エーカーの森に、コブタ、うさぎ、ふくろう、カンガルーなど、それぞれ個性豊かな仲間が繰り広げる愉快な物語、というのが定評ですが、わたしにとってはなかなか手ごわい本でした。何だか、まだよくわかっていないような気がします。

 調べているとき、いろいろなサイトに出会いました。Poohとタオイズム? よくわからないのだけど、なにやら深そうな思想と結びつけているサイトもあったりして、Poohは奥が深いんだと思いました。何のことだか全然わからなかったのだけど。

 Poohファンのサイトもたくさんあり、英語サイトなど読むだけで勉強になりそうでした。ちゃんと読んでいたわけではありませんが。
 
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