2007年12月23日

"NOTHING TO FEAR BUT FERRETS"  Linda O. Johnston

Berkley Prime Crime Mystery 265ページ

 資格停止中の弁護士でペットシッターでもあるケンドラは、膨大なローンを返済するため、ハリウッド・ヒルズにある豪壮な自宅を賃貸に出していた。借家人、シャーロットは、実録番組の花形でパーティが大好き。

 シャーロットが暮らす家(所有者はケンドラ)で、番組で共演していたチャド・チャッツワースの死体が見つかった。死体の周りにはフェレットが5匹、甲高い声を上げていた。カリフォルニア州ではフェレットの飼育は禁止されているが、シャーロットの同居人ユルがひそかに飼っていたのだ。シャーロットは、少し前にあったパーティでチャドと言い争っているのが目撃されたため、容疑は彼女にかけられた。シャーロットとフェレットの容疑を晴らすため、ケンドラが真相追求に走る!

 ペット探偵シリーズ第2作。今回も意外な動物が活躍する。いざこざの解決に、ペットがからんでくるのがおもしろい。私立探偵ジェフや宿敵のはずのノラレス刑事、ゴシップ好きなご近所さんとの絡みが楽しめる。肩の凝らない楽しいコージー・ミステリである。 

邦訳『いたずらフェレットは容疑者』 ヴィレッジ・ブックス 片山奈緒美訳
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2005年12月23日

『殺人展示室』P・D・ジェイムズ 青木久惠訳

"THE MURDER ROOM" P.D.James
ハヤカワ・ポケットミステリ ISBN: 4150017662 1800円+税

 高級住宅地として知られるハムステッド・ヒースに建つ私設のデュペイン博物館は知る人ぞ知るユニークな博物館である。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時代をテーマとしており、中でも著名な殺人事件を扱う「殺人展示室」は密かな人気を集めていた。創設者は既に亡く、3人の子どもが後を継いで理事を勤めていたが、博物館の存続をめぐっていがみ合っていた。

 ある日、理事のひとりで創設者の息子ネヴィルが炎上した愛車の中で焼死体となって発見される。その状況は「殺人展示室」に展示されている事件に酷似していた。模倣殺人か? 相続をめぐるいざこざか? そしてまた、新たな殺人が!

 ダルグリッシュ・シリーズ最新作。博物館を舞台に、そこに生きる人々の姿がじっくりと描かれています。さすが大御所P・D・ジェイムズ! ミステリとしての面白さも人物描写もますます冴えています。82歳にしてまったく衰えを見せないどころか、より精緻を尽くした筆致に驚かされます。しっとりとした大人のロマンスも魅力の一つ。ダルグリッシュとエマのこれからが気になります。ケイトも幸せにしてやってください!

 迷わず、ことしのベスト5に挙げました。
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2005年08月03日

『九年目の魔法』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 浅羽莢子訳 創元推理文庫

"FIRE AND HEMLOCK" Diana Wynne Jones ISBN:4488572022

 ポーリィは休暇を自宅で過ごしているとき、不思議な感覚に見舞われた。記憶が妙にずれている。なぜ? 答えを求めるポーリィは、幼い頃の出来事をたどり始める。

 そうだ、あのときだ。9年前のハロウィンの日、10歳だったポーリィは迷い込んでしまったお葬式の場でチェロ奏者のリンさんに出会った。あのときからポーリィの記憶の中にはいつもリンさんがいた。リンさんとは何者なのか? リンさんは今どこに?
 
 リンさんが送ってくれる本のタイトルを見ているだけでも胸がときめく。そして、本の中で不思議な時間にとっぷりひたらせてもらったような感じがしている。

 良質のファンタジーであるのみならず、少女小説でもあり、文学へのオマージュでもあり、苦しいほど切ないロマンスでもあり――万華鏡のようにさまざまな姿を見せてくれる。読み返せばそのときどきで違う姿を見せてくれそうな本である。

 ポーリィに喝采を送ると同時に、胸の奥の方でなくしたものを悼む気持ちが揺らめいている。大事にしたい1冊である。

 各章の冒頭にはタム・リンにまつわるバラッドが付されている。この本を読んでいると、いろいろな本が読みたくなってくるが、タム・リンについて書いてある本が読みたくなった。

『九年目の魔法』に出てきた本 みどりさんのサイト
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2005年03月04日

"HOWL'S MOVING CASTLE" Diana Wynne Jones

 魔法が存在する国インガリー。帽子屋の娘、ソフィーは3人姉妹の長女。美少女レティ、継母ファニーの実子であるマーサ。長女であるがゆえのソフィーの屈託。五月祭の日、ソフィーは隣町で働く妹レティーのもとを訪れるが、実はレティーは……。

 荒地の魔女の魔法で老婆にされたソフィーは家を出る。ハウルの城に転がり込んだソフィは、掃除婦として城に居座ることにする。そこで、火の悪魔カルシファーに出会い、ある取り引きをする。それは……。

  ハウルの城に入り込んだソフィーはけっこう楽しそうです。マイケルともいいコンビですね。 キザで伊達者のハウルは、今までの魔法使いのイメージとはちょっと違ってますけど、おもしろいキャラですね。 読みながら次から次へと情景が浮かんできます。アニメ化されるのも当然だと思わせます。

 どうなるのだろうとハラハラしながら読んでいたら、いつの間にか最終章。たたみかけるような展開のあと、最後は温かい気持ちで読み終えることができました。

 色彩豊かでテンポの速いファンタジーです。人物が型にはまっておらず、意外性があり(お風呂好きの魔法使いとか)、とても生き生きしているのが魅力です。

 荒地の魔女やかかしに犬ときたら、思い浮かべるのは『オズの魔法使い』ですね。『指輪物語』に出てくる館の名前が使われていたり、さりげなくシェイクスピアや『不思議の国のアリス』(そもそもソフィの名字はハッターですもんね!)いろいろな仕掛けが隠されています。一度目はお話を楽しみ、二度目はパズルをぱちんぱちんとはめていくように楽しみ、と、何度読んでも楽しめる作品です。

 ファンタジーが読みたくなったので(現実から逃避したいだけのことだけど)積んでいたこの本を引っ張り出してきました。この人の作品を読むのは初めてでしたが、楽しかった!

 長女であるがゆえの屈託、わたしも長女なのでよ〜くわかります(^^;) ソフィーがとても身近に感じられ、思わず応援してしまいました。 物事が思い通りに運ばないのは自分が長女だからと思い込んでいるソフィ。自分に自信が持てないでいるソフィが老婆に姿を変えられたのをきっかけにころりと変わっていきます。ソフィにはものに命を通わせる魔力がありました。怒ったり笑ったりしながら、大冒険を経て、自分を受け入れられるようになったソフィ。

 ソフィの気持ちの揺れやハウルへの気持ちの動きがさりげなく、だけどきめ細かく描かれています。かんしゃくを起こしたくなるのもわかるよね、なんて思ってしまいました。

 そして、ソフィの傍らにはハウルがいました。酷薄さで恐れられていたハウルは、実は長風呂好きで移り気な伊達者。一見軽薄そうだけど、その心はとても温かです。

 いつも一生懸命で気のいいマイケル、機嫌がよいときには鼻歌を歌うカルシファーはじめ、出てくる人物(だけではありませんが)はみな個性鮮やかに生き生きと描かれています。

 色彩豊かで躍動感あふれるこのお話を早く映画で見てみたいですね!  
  
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『神学校の死』 P.D.ジェイムズ 青木久惠訳

 神学校の生徒の死体が海岸で発見された。事故として処理されたが、その養父の依頼を受け、ダルグリッシュは神学校に赴く。少年時代に夏休みを過ごしたその学校で、嵐の夜、残忍な殺人事件が起こる。

 あこがれつつも原書で読むのは蛮勇かと判断し、図書館にあった訳書を借りてきた。丁寧にきっちりと書き込まれた文章は、やはり原書で読んでみたいと思わせる。読みごたえのありそうな一冊。

 ミステリを読んで感動するなんてという気もするが、この本には感動した。情景描写もさることながら、人物一人一人が丁寧にきめ細かく書き込まれ、その鮮やかさに感嘆した。ずっしりと厚みを感じさせる作品である。P.D.ジェイムズは一流の作家であると実感した。

 人里離れた海岸沿いの神学校、その冒しがたいほど重厚な雰囲気の中での残忍な殺人事件。吹きすさぶ嵐とあいまって、劇的な効果を上げている。

 神学校というある意味で閉鎖的な環境の中で人々の思いは錯綜し、過去があぶり出される。そして、最後に明らかにされたのは……。

 警視長ダルグリッシュが実にいい味を出している。詩を愛し、知的で思慮深く、その深いまなざしの奥に悲しみと慈しみを秘めている、そんなダルグリッシュの心の揺らめきまで伝わってきそうだった。ほのかなロマンスには、冬の遅咲きの薔薇がためらいがちに咲き初めていくような、そんな印象を受けた。まさに大人のロマンスである。
 著者が敬愛するドロシー・L・セイヤーズのピーター卿とハリエットに似ているのはご愛敬。
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2005年02月13日

『夢の破片(かけら)』モーラ・ジョス 猪股美江子訳 ハヤカワ・ミステリ

"HALF BROKEN THINGS" Moras Joss ISBN 415001762X

 コッツウォルドにあるマナー・ハウス、ウォルデン・マナー。壮麗な館の書斎の窓からジーンが庭を見下ろしている。そこにいるのは幼子をあやすステフとマイクル。絵に描いたように幸せそうな「家族」。だが、その4人に血のつながりはなかった。

 64歳のジーンはこの館の留守番役として派遣会社から派遣されているが、仕事はこれで最後と宣告されていた。中年のマイクルは孤児院育ち。職もなく、抑鬱症に悩まされながら泥棒稼業でその日その日を暮らしていた。身重の体で男に捨てられたステフもまた、先の見えない生活をしていた。

 ふとしたことから、まるで運命の糸にたぐり寄せられるかのように、ジーンとマイクル、ステフはともに暮らし始め、そこに幼子が加わる。少しずつ「家族」の絆を結び始める4人。だが、それは虚構の上に築かれた偽りの幸福。そして、ある出来事が起こり――。

 荘重で精緻、かつ叙情あふれる作品。おぞましい描写はあるものの、読後、まぶたに残るのが館に降り注ぐ日差しの移り変わりや庭に咲く小さな花々や幸せな家族の姿であるのはなぜだろう。

 それぞれによるべなく、生計を立てるすべもない3人が心を通い合わせる過程がそれぞれの抱える寂しさに寄り添うように描かれており、3人に共感せずにはいられない。寂しさ、その中でも母を求めて得られなかった寂しさ、母に対する屈折した思いを強く感じた。そんな3人なのに、幼子を抱くステフと見守るマイクル、ジーンはまるで聖家族かと見まごうばかりである。寂しさと裏腹のその姿が心に突き刺さる。

 虚構の上に築かれた幸せが長く続くはずはないとどこかで意識しつつも、この「家族」の幸せがいつまでも続くようにと願ってしまう。それだけに結末は衝撃的ではあるが、そこに不思議な安らぎさえ覚えた。

 全編を通して感じるのは、古い館の持つ圧倒的な存在感と死者の存在の大きさである。まるで館が自分の意志で4人を呼び寄せ、死者ががんじがらめに絡めとった、そんなふうに思えてくる。

 同時に、ジーンというひとりの女性の持つ恐ろしいまでの複雑さが心の底にずんと沈んでくる。 

 ここのところ、どうも乗り切れない作品が続いたが、この作品は文句なくお薦めできる。わたしが選ぶことしのミステリベスト5入りは確実である。他の作品も読んでみたい。

 英国推理作家協会(CWA)賞シルヴァー・ダガー賞受賞作品。
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2004年12月04日

『正義』 P D ジェイムズ 青木久惠訳 ハヤカワ・ミステリ 

A CERTAIN JUSTICE ISBN; 4150016682、 4150016690

 ミドル・テンプル法曹学院所属の敏腕弁護士ヴァニーシャ・オールドリッジの遺体が学院の自室で発見された。遺体の頭部には法廷用の鬘がかぶせられ、その上に血が流されていた。学寮長ラングトンはみずからの記憶の確かさに不安を覚え、辞任を考えており、次期学寮長の座や今後の運営方針をめぐって、ヴァニーシャと他の弁護士や書記、受付との間に対立が見られた。一人娘オクタヴィアとは心が通わず、自分が弁護して無罪を勝ち取った青年アッシュと娘との交際をヴァニーシャは不審に思っていた。さらに、ヴァニーシャには別れ話の出ている愛人がいた。捜査に当たったダルグリッシュは、ヴァニーシャをめぐって複雑に絡み合う糸をほぐしていく。正義とは何か? 人が人を裁くとは何かを考えさせる大作。

 精緻で重厚な作品。人物の服装、インテリアの描写が細やかに描かれ、そこから一人一人の生き方がくっきりと立ち上がってくる。読みごたえがあり、読後に深い余韻が残る。読後、しばし本を置いて考え込んでしまった。ジェットコースターばりに展開の早い作品がはやっているが、その対極といえそうだ。
 
「ヴァレリーは真実が人を傷つけうることを知っていた。時に嘘以上に致命的なこともある。」(上)239p
「能力と正気を失わないためには、現実を受け入れ、距離を置くための殻を、どんなにもろい殻であろうと、作っておく必要がある。心に恐怖は入ってくるが、いつまでも居座らせてはならないのだ。」(下)107p
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