2006年03月09日

"HIDE YOUR EYES" Alison Gaylin

Signet Novel ISBN: 045121448X

 ヴァレンタイン・デーだというのに一緒に過ごす人もいないサマンサは、ハドソン川河畔でふたりの男女がアイスボックスを川に投げ込んでいるのを見た。サマンサに向けられた男の目は鏡のように光っていた。男の不気味な目はサマンサにつきまとう。男は何者か? アイスボックスの中には何が?

 スピード感のあるミステリ。会話のテンポも良く、小気味よい。続編"YOU KILL ME"も読んでみたい。将来が楽しみな作家である。
posted by 如月 at 15:52| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

2006年03月08日

『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ 稲葉明雄訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

"PHANTOM LADY" William Irish
ISBN: 4150705518

 妻のマーセラと口げんかになった株式仲買人スコット・ヘンダースンは、5月の夜の町にふらりと出ていく。「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。」ある店に入ったスコットは、南瓜そっくりの帽子をかぶった女に出会う。女とショウを見物後、帰宅したスコットは、妻が彼のネクタイで絞殺されているのを発見した。

 死刑判決を下されたスコットを救うため、若き愛人キャロル・リッチマンは、唯一のアリバイ証人である奇妙な帽子をかぶった女を捜すが、なぜか皆、異口同音にそんな女は見なかったと証言する。あの女は「幻」だったのか?

 死刑執行の日は迫る。女はどこに? そしてスコットは?

 サスペンスの傑作。スリルだけでなく、文学的香気にあふれ、冒頭から読者を惹きつけ、最後までとらえて離さない。濃厚なニューヨークの街の匂いにむせかえりそうだった。

 アイリッシュがお好きだという方の気持ちがよくわかった。他の作品も読んでみたい。

 
posted by 如月 at 17:15| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

2006年02月13日

『アイルランドの柩』エリン・ハート 宇丹貴代実

"HAUNTED GROUND" Erin Hart
ランダムハウス講談社文庫 ISBN: 4270100249

 アイルランド中西部の湿原で泥炭を掘り出していた農夫ブレンダンが赤毛の女性の頭部を発見し、考古学者コーマックと解剖学者ノーラが調査に向かう。その町では4年前、地元の名士ヒュー・オズボーンの妻ミーナと幼い息子クリストファーが失踪した。さまざまな憶測が流れる中、刑事デヴァニーは地道に捜査を続けていた。

 片目を見開き、唇をかみ締めたその死体は17世紀に斬首された若い女性のものだった。赤毛娘――カリーン・ルア――は何者か、なぜ斬首されたのか、死体の他の部分はどこにあるのか?

 開発を前提として小修道院の調査を依頼されたコーマックはノーラとともにオズボーン家先祖伝来の館ブラックリン・ハウスに客人として滞在する。館にはヒューのいとこで夫を亡くしたルーシーとその息子ジェレミーが住んでいた。館に最も近いのは赤毛娘を掘り出したブレンダンの農場だった。頑なに昔のままの生活を守ろうとするブレンダンは、妹ウーナとその娘イーファ、弟フィンタンと暮らしていた。

 失踪事件を気にかけつつ、赤毛娘についての手がかりを探すコーマックとノーラの前に、、暗い影が忍び寄る。

 2つの事件はやがて意外な展開を見せる。そしてそれは、アイルランドの哀しい歴史と深く結びついていた――。


 2004年アガサ賞、アンソニー賞最優秀処女長編賞ノミネート作品。読みごたえのある作品でした。2006年のベスト5に入れたい作品です。

 以前からアイルランドに惹かれていましたが、その歴史については過酷だったという印象しかなく、どんなことが起こったかはまるっきり無知でした。今さらにして、そうか、そうだったのかと、深く深く考え込んでいます。

 このお話の主人公は、何と言っても、泥炭層から掘り出された赤毛娘(カリーン・ムア)ですね。この娘の存在の重さがずしっと心に残ります。そして、もう一人の赤毛の娘、ノーラの妹トリーナも……。

 歴史の重み、家族の絆、愛憎、葛藤――その合間に流れるアイルランドの伝統音楽、歌い継がれてきた歌、奏で続けられる音楽、フィドル、パイプ、フルートにリール、ジグのリズム、人々が集うパブの熱気、守り継がれてきた生活が伝わってきます。

 ノーラの歌、コーマックのフルート、デヴァニーのフィドル、フィンタンのパイプ、暮らしの中に音楽が、というより血管の中に音楽が流れているようです。そして盲目の老女が歌う古謡、自分の耳で聞きたくてたまらなくなってしまいます。せめてサウンドトラック盤でもあればいいのに(^^;)

 ゴシック風というのでしょうか、荒涼とした湿原、先祖伝来の古びた館、呪われた塔などが謎めいた雰囲気をかもし出しています。情景描写、人物描写、そして最後まで引きつける緊迫感、どれをとっても満足できる作品です。
posted by 如月 at 17:23| Comment(1) | TrackBack(0) | G H I

2006年01月26日

『ホックと13人の仲間たち』エドワード・D・ホック 木村二郎編・訳

"HOCH'S DOZEN" Edward D.Hoch
ハヤカワ・ポケット・ミステリ ISBN: 4150012989

 短篇の名手エドワード・D・ホックが生み出した13人の探偵が勢ぞろい! どこから読んでもおもしろい1冊です。ホックの入門書に最適です。お好みはどの探偵さん?

日本語版への序文
〈怪盗ニック・ヴェルヴェット〉シルヴァー湖の怪獣
〈西部探偵ベン・スノウ〉ストーリーヴィルのリッパー
〈ポール・タワー〉ロリポップ警官
〈デイヴィッド・ヌーン神父〉技能ゲイム
〈サム・ホーソーン博士〉有蓋橋事件
〈オカルト探偵サイモン・アーク〉死者の村
〈インターポル〉第三の使者
〈コムピューター検察局〉コムピューター警官
〈ダブルCマン/ジェフリー・ランド〉ランド危機一髪
〈私立探偵アル・ダーラン〉火のないところに
〈詐欺師ユリシーズ・S・バード〉百万ドル宝石泥棒
〈秘密諜報員ハリー・ポンダー〉危険な座
〈レオポルド警部〉孔雀天使教団
posted by 如月 at 20:11| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『怪盗ニック登場』エドワード・D・ホック 木村二郎・他訳

ハヤカワポケットミステリ ISBN: 4150012563
"ENTER THE THIEF" Edward D.Hock

 怪盗ニック・シリーズ第1集です。2万ドルの報酬で価値のないものしか盗まない怪盗ニック・ヴェルヴェット。鮮やかな手並みにため息をつきました。このシリーズには『怪盗ニックの事件簿』、『怪盗ニックを盗め!』、『怪盗ニック対女怪盗サンドラ』があります。おいおい読んでいきたいと思っています。


[収録作品]
斑の虎
真鍮の文字
大リーグ盗難事件
カレンダー盗難事件
青い回転木馬
恐竜の尾
陪審員を盗め
皮張りの棺
からっぽの部屋
くもったフィルム
カッコウ時計
将軍の機密文書
posted by 如月 at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『夜はわが友』エドワード・D・ホック 木村二郎訳

"THE NIGHT MY FRIEND" Edward D.Hoch
創元推理文庫 ISBN: 4488201032

 のどかともいえるサム・ホーソーン・シリーズとはうってかわって、翳りと余韻のある作品を集めた短篇集。ホックの豊かな才能がうかがえる。やみつきになりそうな1冊である。


[収録作品]
黄昏の雷鳴
夜はわが友
スーツケース
みんなでピクニック
ピクニック日和
虹色の転職
待つ男
雪の遊園地
冬の逃避行
夢は一人で見るもの
秘密の場所
標的はイーグル
蘇った妻
おまえだけを
こういうこともあるさ
キャシーに似た女
人生とは?
初犯
谷間の鷹
陰のチャンピオン
われらが母校
posted by 如月 at 20:07| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『サム・ホーソーンの事件簿W』エドワード・D・ホック 木村二郎訳 創元推理文庫

"DIAGNOSIS:IMPOSSIBLE 4" Edward D.Hoch
創元推理文庫 ISBN: 4488201067


 発売日に本屋さんに走り、帰宅後一気に読みました。ノースモントの医師サム・ホーソーン・シリーズ第4集です。

 時代は1935年から1937年夏まで。大恐慌の影響が消えずにいる中、ドイツではナチスドイツが台頭します。サム先生の診療所では、開業時から右腕のような存在だったエイプリルが結婚してメイン州に去り、次に来た看護婦さんはいろいろあって退場し、しばらくは看護婦さん不在でしたが、どうやらいい人が見つかったようです。看護婦さんといっても病院勤めと違い、受付や事務もこなす秘書のような存在なのですね。

 12編の中では、ほかの短篇集にも収録されている「革服の男」がホラーぽくて、それでいて余韻があって印象的でした。収録されている作品には、当時のベストセラー『風とともに去りぬ』のペイパーバックがテーブルの上に置いてある場面や、『華麗なるギャツビー』にあこがれて自宅にプールをつくった男の話もあり、この時代の雰囲気が伝わってくるようです。こんなところも、このシリーズを読む楽しみのひとつといえるでしょう。

「呪われたティピーの謎」では、老いたる西部探偵ベン・スノウがふらりとあらわれ、かつてインディアン集落で起こった出来事を語ります。ボーナス作品「フロンティア・ストリート」は、このベン・スノウの名刺代わりともいえる作品です。西部劇のテーマ音楽が聞こえてきそうです。

 第5集はいつ出版されるのでしょう? 東京創元社さん、なるべく早くお願いします<(_ _)>


[収録作品]
青いロードスターの謎
二つの母斑の謎
重体患者の謎
要塞と化した農家の謎
呪われたティピーの謎
青い自転車の謎
田舎協会の謎
グレンジ・ホールの謎
消えたセールスマンの謎
革服の男の謎
幻の談話室の謎
毒入りプールの謎

フロンティア・ストリート 西部探偵ベン・スノウ
posted by 如月 at 20:05| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『サム・ホーソーンの事件簿V』エドワード・D・ホック 木村二郎訳

"DIAGNOSIS: IMPOSSIBLE3" Edward D.Hoch
創元推理文庫 ISBN: 4488201059

 ノースモントの医師サム・ホーソーン・シリーズ第3集。1930年から1935年までに起きた、12の事件が収録されています。

 1929年10月24日、ウォール街での株価大暴落に端を発した世界大恐慌が、ニューイングランドの片田舎の町ノースモントにも、暗い影を落としています。1933年のフランクリン・ルーズヴェルトの大統領選出、禁酒法の廃止など、時代を象徴するような出来事が取り上げられ、アメリカ史を勉強したくなってきます。

大恐慌 Wikipedia

フランクリン・ルーズヴェルト Wikipedia

 サム先生の身の回りにも変化が訪れます。これからどうなっていくかが気になります。

 今回のボーナス作品「ナイルの猫」も小品ながら印象的な作品でした。次はどんな作品がボーナスとしてつくのか、これもまた、このシリーズを読む楽しさのひとつです。


[収録作品]
ハンティング・ロッジの謎
干し草に埋もれた死体の謎
サンタの灯台の謎
墓場のピクニックの謎
防音を施した親子室の謎
危険な爆竹の謎
描きかけの水彩画の謎
密封された酒びんの謎
消えた空中ブランコ乗りの謎
真っ暗になった通気醸成所の謎
雪に閉ざされた山小屋の謎
窓のない避雷室の謎

ナイルの猫
posted by 如月 at 20:03| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『サム・ホーソーンの事件簿U』エドワード・D・ホック 木村二郎訳

"DIAGNOSIS: IMPOSSIBLE2" Edward D.Hoch
創元推理文庫 ISBN: 4488201040


 ノースモントの医師サム・ホーソーン・シリーズ第2集。1927年から1930年までに起きた、12の事件が収録されています。あいかわらず鋭い推理を働かせています、サム先生!

 ほのかなロマンスかと思わせる場面もあり、30代に入った先生がどんな女性を選ぶのか、はたまたハッとする出会いに恵まれないまま終わってしまうのか、ちょっと気になります。

 大恐慌を経て時代は1930年代へ。変わっていくアメリカの姿がかいま見られるのもまた、このシリーズを読む楽しさのひとつといえるでしょう。

 ボーナス作品「長方形の部屋」も楽しめました。

[収録作品]
伝道集会テントの謎
ささやく家の謎
ボストン・コモン公園の謎
食料雑貨店の謎
醜いガーゴイルの謎
オランダ風車の謎
ハウスボートの謎
ピンクの郵便局の謎
八角形の部屋の謎
ジプシー・キャンプの謎
ギャングスターの謎
ブリキの鵞鳥の謎

長方形の部屋 レオポルド警部もの エドガー賞受賞作品


 その日の朝、郵便局で一つのロマンスが消えたとしても、もう一つのロマンスの絆が強く結ばれたのかもしれない。
posted by 如月 at 19:56| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『サム・ホーソーンの事件簿T』エドワード・D・ホック 木村二郎訳

"DIAGNOSIS:IMPOSSIBLE" Edward D.Hoch
創元推理文庫 ISBN: 4488201024


 ニュー・イングランドの田舎町ノースモント。今は老いたる医師、その名もサム・ホーソーン先生が、客人に御神酒をすすめつつ、若き日に解決した数々の不可能犯罪を語ります。

 本作は、日本で独自に編纂された短編集の第1集です。ここでは、サム先生が開業した1922年から1927年までの6年間に起きた、12の事件が収録されています。禁酒法が施行されていた時代です。

禁酒法 Wikipedia 1920年から1933年までの13年間。

 冒頭の[有蓋橋の謎」で意表をつく結果に息を呑むと、あとはもうとめられなくなります。サム先生とともに、ノースモントで暮らしているような気持ちになります。不可能犯罪を解く痛快さと、歴史小説を読むおもしろさを同時に堪能できるこのシリーズにはまり込んでしまいました。

 シャーロック・ホームズを偲ばせる構成です。それもそのはず、サム先生のイニシャルはかのホームズと同じなのですから。

 そして、この時代のアメリカ、とりわけニューイングランドの空気が伝わってくるところがいいですね。複葉機が空を飛び、自動車が少しずつ普及していき、電話はまだクランク式。『かすみ草にゆれる汽車』や『ゲイルズバーグの春を愛す』の時代ですね。そんな時代のアメリカの空気を自分も吸っているような、そんな気さえしてきます。

 たっぷりとノースモントの雰囲気を堪能した後、サム先生のシリーズとはうってかわった「長い墜落」にまたまた頭がクラクラするような感覚を味わいました。短篇ではあるものの上質の企業ミステリといえる、この作品を読んで、ホックという作家の幅広い才能を見せつけられた思いでした。

 お気に入りの作家、お気に入りのシリーズがまたひとつ増えました。

[収録作品]
有蓋橋の謎
水車小屋の謎
ロブスター小屋の謎
呪われた野外音楽堂の謎
乗務員車の謎
赤い校舎の謎
そびえ立つ尖塔の謎
十六号独房の謎
古い田舎宿の謎
投票ブースの謎
農産物祭りの謎
古い樫の木の謎

長い墜落
posted by 如月 at 19:48| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

2005年08月03日

"tokyo" Mo Hayder

ISBN 0553814621

 ロンドン大学で学ぶ女子学生「グレイ」は、南京大虐殺のフィルムを求めて来日する。フィルムの持ち主は南京大虐殺を生き延び、今は東大で教鞭をとるShi Chongming。

 だが、頑なに口をつぐもうとするShiは、グレイにある条件を課す。それは、やくざの親分フユキが隠し持つ不老不死の薬を盗むこと。クラブのホステスとなったグレイはフユキに近づく機会をうかがう。

 1937年の南京で書かれた手記と1990の東京に生きる人の姿が交互に描かれる。そして、明らかにされたのは――。

 テーマとしてはおもしろいが、惹きつける力が弱い。おもしろくないわけではなく、459ページを一気に読ませるだけのものはあるが、だからといってほかの人に勧められるかというとそんな気になれない。

 人物にリアリティが感じられない。南京時代の手記に描かれた人々にはそれなりの存在感があるが、東京での人々の印象はふわりと宙に浮いているような感じだ。グレイがわざわざ来日し、身を危険にさらしてまでフィルムを見たがる理由が今ひとつ説得力に欠ける。グレイという人物に惹きつけられるものが感じられないのだ。

 猟奇的な話を盛り込んで人目を引こうという意図があるのだろうか。英国ミステリの伝統を踏まえると言うよりハリウッド的なのか? 

 南京大虐殺にまつわる話にしても、日本に住んでいればどこかで見たような気がするのではないかと思う。途中で展開が読めてしまうが、このあたり英国ではどうだったのだろう?
 
 南京大虐殺自体、いろいろな説がある。資料としてどれをとるかによって見方が180度変わってしまう。巻末に示された資料をどうとるかでこの作品に対する評価も変わるだろう。裏づけとして提示された資料が2冊だけというのは、根拠として弱いような気がするが、いかがなものだろう?

 おもしろいのはおもしろいが、えぐみがある。そのえぐみもマクダーミドとはちょっと違っていて、妙に後味が悪い。けれんみがある。

 それなりに読ませる力はあるけど、モー・ヘイダーはわたしにとっては積極的に追いかけたい作家ではなさそうだ。
posted by 如月 at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

2005年05月21日

『マルタの鷹』ダシール・ハメット 小鷹信光訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

THE MALTESE FALCON Dashiell Hammett

 今さらと言われそうな、定評ある1冊。ハードボイルドの古典といってもいいのだろうか。

 1930年代、サンフランシスコでサム・スペードは相棒マイルズ・アーチャーと探偵事務所を営んでいた。謎めいた美女ブリジットの依頼を受け、サーズビーという男を尾行したマイルズが翌朝射殺体で発見され、サーズビーもまた射殺される。マイルズとサーズビーを殺したのはだれか? そして、マルタの鷹とは?

 どちらかというと、ミステリの中でもみっちり書き込まれたものが好きなので、読み始めてしばらくは正直言って違和感を感じたが、気がついたら入り込んでおり、いつの間にか読み終えていた。

 マルタ騎士団の残した宝というのは昨今はやりの題材。今ならこちらをテーマにした方が話題になりそうだ。

 時代的な面もあるだろうけど、女と言えばかわいこちゃん(死語?)か悪女、ちょっぴり色っぽい場面はお約束? というのには抵抗を感じるし、サム・スペードの粋がりぶりにはかっこよさだけでなく、どことなくおかしみも感じてしまうのだが、余計なものを省いた文章は清々しい。この清冽さがハードボイルドの魅力なのだろうか。

 チャンドラー『長いお別れ』も本棚で待機している。しばし、ハードボイルドにひたってみるのもいいかな。
 
posted by 如月 at 00:03| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

2005年04月29日

"A WIDOW FOR ONE YEAR" John Irving

ISBN 034543479X

 1958年夏、32年後の1990年秋、その5年後の1995年秋の3部で構成されている。

 1958年夏の夜、聞き慣れない物音で目を覚ました4歳のルースは、親の姿を求める。ルースの父テッドと母マリオンは別に暮らしており、ルースの住む家には交代で寝泊まりしている。今夜、ルースの家に来る番は母。両親の寝室でルースが見たのは――。

 児童文学者として名をはせつつ、妻ある身で若い女性を追いかけてやまない飲んだくれの父テッド。5年前に事故で亡くした息子トーマスとティモシーの写真を家中に飾る美しい母マリオン。後に作家となる娘ルース。この夏、その家に来た16歳のエディ。アーヴィングらしいちょっとはずれたような人物がつくり出す独特の世界がある。

 みんな勝手なのだけど、なぜかだれも憎めない。アーヴィングの筆致が哀歓を感じさせるものだからかもしれない。哀しくて、おかしくて、そして何よりとっくりと語りを楽しませてもらった。アーヴィングが語る物語にいつまでも耳を傾けていたい気分だ。

 2年前に"THE CIDER HOUSE RULES"を読んだとき、アーヴィングの他の作品も読みたいと思って買ってはみたものの積んであった本である。

"THE CIDER HOUSE RULES"を読んでいたときに、自分にはアーヴィングはまだ難しい、わかりっこないとなぜか決めつけてしまった。それ以来、いつかはアーヴィングをと思いつつ、でもやっぱりわたしには理解できないんじゃないかという葛藤というか、トラウマめいた気持ちにとりつかれていた。

 だけど、今回、たまたま気が向いて読んでみると、期待どおりしっかり楽しんでいる。あの葛藤は一体何だったのだろう?

 合間に何冊かほかの本を読みながら、じっくり時間をかけて読んだこの1冊。最初は"THE CIDER HOUSE RULES"の方がおもしろいんじゃないかと思ったが、読み終えてみると、こちらの方がすぐれているような気がしている。

 人物たちは"THE CIDER HOUSE RULES"より一層常軌を逸し、ぱっと見て共感しかねる部分もあるが、読み終えた今、登場した人物すべてが愛おしく思え、温かい何かに包まれているような、そんな余韻にひたっている。小説としては"THE CIDER HOUSE RULES"よりすぐれているのではないかと思う。

 アーヴィングを読むのはわたしにはまだちょっぴり背伸びすることになるが、それでも、わたしはアーヴィングが好きだ。他の作品もぼちぼち読んでいきたい。





続きを読む
posted by 如月 at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

2005年03月04日

"SOPHIE'S WORLD" Jostein Gaarder

 わたしはだれ? 差出人のない手紙がソフィーを哲学の世界へと導く。

 哲学ブームを巻き起こした本。ギリシア哲学から現代哲学まで、解説と共に、謎めいた話が展開される。

 哲学してみたいときにお薦めの1冊。
 
posted by 如月 at 17:04| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

"THE REMAINS OF THE DAY" Kazuo Ishiguro

 ダーリントン卿に長年仕えていた執事のスティーヴンスは、卿の死後、富裕なアメリカ人に雇われていた。そこへ、かつて女中がしらであったミス・ケントンから、もう一度屋敷で働かせてもらえないかという手紙が届く。休暇をもらい、車を借りて、スティーヴンスは過去への旅に出る。

 執事としてのdignityにこだわるスティーヴンスは、父の死に目にも会わず、自分にほのかな好意を寄せるミス・ケントンに対しても距離を置いた態度を崩さない。戦争に翻弄されていくダーリントン卿の姿にも、感情を押し殺してひたすら従順であろうとする。

 スティーヴンスは何を守ろうとし、何を失ったのか。歴史の流れに抗しようとしながらも流されていった人々、滅び行くものの一瞬の輝き、そして、ひとりひとりにとっての日の名残……。
 読んだ後に、いろいろな思いが残る作品である。
posted by 如月 at 16:19| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

"ONE CHILD" Torey.L.Hayden

 邦題『シーラという子』。

 シーラは極端な例だとしても、シーラに近い例はいくらでもあるのでしょう。
 200ページちょっとと薄いけれども、内容はずっしりと重い本です。

 さまざまな事件を経てシーラがトリイに心を開いていく過程が描かれています。 愛されたことのないシーラがトリイにべったりとくっついていくところはちょっと重苦しいような気さえします。距離の取り方の難しさを感じます。
 愛してくれると思っているから、ちょっとしたことにでも反発して、相手の愛情を試すようなことをしてしまう、まだ信頼関係がほんものじゃないからかな?  頭のいい子だけによけいにやりにくいところもありそうです。

 10章で、トリイはシーラに"Charlotte's Web""The Little Prince"を読んでいます。シーラのお気に入りはThe Little Prince"。きつねと王子、バラのエピソードから「愛する」ことをシーラは学んでいるようです。でも、ほんとうの意味で愛すること、愛されることをシーラは知っているのでしょうか? 何と言ってもまだ6歳、幼すぎます。トリイの気持ちがほんとうにシーラに伝わるのか、いつか必ず来る別れの日をシーラはどのように受けとめるのでしょう?  シーラがほんとうの愛を知るのはいつのことでしょう?

 州立病院に空きが出たとの知らせが入ります。トリイは、チャドやアントン、学校関係者と共にその処分が不当であり、シーラの教育を続けることを求める訴えを起こし、その訴えは認められます。 喜ぶトリイたちの傍らでぽつんとひとりぼっちで座るシーラの父。妻に逃げられ、酒浸りになり、シーラに手を上げずにはいられない彼もまた、弱い人間なのでしょう。

 お祝いに街に繰り出し、生まれて初めて目の前に出されたピザにかぶりつくシーラ。欲しかったレースのついた可愛いドレスも買ってもらい、トリイの腕の中で眠るシーラ。まるで家族のように……。でも、ほんとうの家族ではない。ただひとときの家族ごっこ。シーラが傷つかなければいいのだけど……。

 その後、シーラの身に起こった事件はあまりに過酷でした。6歳の少女にこんなひどいことをするなんて……。チャドに買ってもらったドレスを着たシーラはとても可愛かったのでしょう。でも、だからといって……。

 退院後、トリイのクラスでは母の日のつどいとして『オズの魔法使い』のお芝居をすることになりました。そこへチャドが目を見張るようなすばらしいドレスを持ってきてくれましたが、それはシーラにとってはつらい事件を思い出させる結果になってしまいました。トリイの腕の中で泣くシーラ。泣きもせず、しゃべろうともしなかったシーラが泣いています。

 そして、近づく別れの時。シーラは、トリイは、そしてチャドは……。

 何とも重い本でした。それでも、何度でも読んでしまいそうです。それは、シーラに対してトリイが弱さも含めてありのままの自分を出しているからでしょう。この子たちが幸せになるためには自分たちは何をすればいいのか、読者に問いかけています。

 英文はとても平明でわかりやすいです。光景が浮かんできます。内容は重いのですが、こういう本が苦手でない方にはお薦めです。
posted by 如月 at 16:10| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

"THE OLD MAN AND THE SEA" Ernest Hemingway  

 老人と巨大なカジキマグロとの闘い、そして芽生えた不思議な連帯感。海の上でのたった一人の闘い、その中で、彼は何を見たのだろうか。  ただの一つも無駄な言葉がない。なのに、伝わってくる。老人のしわの一本一本、汗の滴り、こわばる肩、海の波立ち、魚の匂い、鳥の声まで。完成された作品というのは、こういう作品のことをいうのだろうか。

 Jack Londonに似ているけれども、もっと陰影深く、もっと洗練されており、かつ力強い。100ページ強の小品ではあるが、じっくり読ませる作品であった。

 今も、舟の上で網をたぐる老人の姿が脳裏に刻まれているようだ。読んだあとにずっしりと何かが残っている。それが何なのか――。何度も読み返したくなる作品である。
posted by 如月 at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『O.ヘンリー短編集』講談社英語文庫 O.Henry

 ERC古典読書会

 翻訳はどこかで読んでいるけど、原書で読むのは初めてでした。講談社英語文庫で読みました。

 ひとつひとつのお話は短く、字面だけを追っていけばすぐ読めるのだけど、何を描いているのかよくわからないという作品もありました。一人では間違いなく挫折していたところです。

 今回、読書会の課題本として取り上げたので、いろいろな意見や感想を出し合う中で、最初はよくわからなかった作品もだんだんおもしろくなってきました。

 市井の人々の暮らしの哀歓がちょっとしたウイットや警句を込めて描かれていました。一番好きなのは、天窓のある部屋に暮らす若い女性のお話The Skylight Roomかな。薔薇を胸にさした金庫破りのお話Retrieved Reformationも捨てがたいですね。

 いつかはPBを読んでみたいですね。

収録作品
"The Gift of the Magi""One Thousand Dollars""The Last Leaf""A Retrieved Reformation""The Green Door""The Cop and the Anthem""Spring a la Carte""The Skylight Room""The Clarion Call"  
posted by 如月 at 16:08| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『ギャスケル短編集』エリザベス・ギャスケル 松本光治編訳 岩波文庫

 エリザベス・ギャスケル(Elizabeth Cleghorn Gaskell, 1810-65)はブロンテ姉妹、オースティンらと同時代の作家。この時代は才媛百花繚乱時代だったようだ。ディケンズに才能を見出され、ディケンズが編集していた雑誌に乞われて寄稿している。
 モンゴメリと同じく牧師夫人であるが、比較的穏やかな生涯を送ったとされている。
 ネット散歩していて初めて目にした作家。作風が好みかもと思い、図書館で見かけたときに借りてきた。

 収録されているのは八編である。
○ジョン・ミドルトンの心 The Heart of John Middleton  人の心に潜む愛と憎しみと赦しの物語
○婆やの話 The Old Nurse's Story 哀切な幽霊物語
○異父兄弟 The Half-Brothers 継父に疎まれた腹違いの兄の物語 
○墓堀り男が見た英雄の話 The Saxton's Hero 戦うことをやめた男の物語
○家庭の苦労 Bessy's Troubles at Home 母が入院。子どもたちは家庭の幸せを守ろうとしながらも互いの歯車が食い違っていく。
○ペン・モーファの泉 The Well of Pen-Morfa 美しく、陽気な少女の運命を変えた泉。舞台はウェールズ。
○リジー・リー Lizzie Leigh 都会に奉公に出された娘が父親の名を言えない子どもを身ごもり、奉公先を追い出され、父からも勘当される。最期の時に父は娘を赦し、母は娘の行方を求めて、娘の兄弟らと都会へ出る。  
○ 終わりよければ The Sins of a Father  後見人であるおじ夫婦に反対されながらも医学博士であるジェームズ・ブラウンと結婚したマーガレット。新婚家庭は小間使いの老女クリスティ、おじが見つけてくれた有能な従僕クロフォードに助けられて順調なスタートを切った。だが、あるとき、事件が起きる。前の夜、引き出し付大机に入れた大金が翌朝なくなっているのが発見されたのだ。それ以来、ふさぎ込む夫にマーガレットは心を痛める。盗んだのはだれか? そして、夫がそれほどまでにふさぎ込んだわけは?
 秀作である。マーガレットの強さに惹かれる。テンポよく話が展開し、人物が生きている。

 前半四編は文句なくおもしろかった。筋も人物もしっかりしており、印象に残る作品である。フラナリー・オコナーに似ているかな? オコナーをちょっとソフトにしてイギリス風の味付けをしたという感じである。
 次の三編はそれなりにおもしろいのだけど、教訓色が強くいま一つ。日曜学校の副読本に載っていそうな作品だった。牧師夫人という立場が強く出ているように思われた。本人も作品の出来については不本意だったらしい。

 ギャスケルの他の作品も読んでみたい。   
posted by 如月 at 15:21| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I

『コンチキ号漂流記』ハイエルダール著 神宮輝夫訳 偕成社文庫

 LTN娯楽小説翻訳クラブ内西洋冒険譚翻訳倶楽部の必読書で挙げられている本。届くとすぐに息子に読まれてしまった。やっと時間がとれて読むことができた。

 横断中、メカジキやサメにあうところでは、The Old Man and Seaを思い出していた。老人の孤独な戦いに比べると、こちらは楽しげだ。

 実話だったのだということも知らずにいたわたし(^^;) 「また、読むわな〜」と、息子が予約していきました。うん、いかにも冒険好きな子が好きそうなお話。冒険の世界にちょびっと足を踏み入れた気分です。
posted by 如月 at 15:10| Comment(0) | TrackBack(0) | G H I