2006年09月22日

『バッテリーU』あさのあつこ

『バッテリーU』あさのあつこ

 中学に入学した巧たちは野球部に入部する。待ち受けていたのは管理主義的な学校体制と陰険な先輩たち。そして、ある日、事件が起こる。

 うーん、あの事件はいやだなぁ……。こんなことするかなぁ、ここまでするかという気持ちと、やっぱりあるんだろうなという気持ちと。好きでもないのに内申を上げるために部活を続けるというのが、わたしにはよくわからないし、読んでいて居心地が悪い。そんな気持ちで続けられるのかなぁ。

 事件を起こした少年たちには、他にしたいことがなかったのだろうか? 

 Tでも少し感じたことだけど、脇役の人物は類型的で薄っぺらい感じがする。とりわけコマチ先生がしゃべるのを聞いていると、お尻がむずがゆくなってくる。

 きれいごとかもしれないけど、わたしはもっと直球勝負のスッキリした本が読みたい。

 どうもこの作者とは相性が悪いのかもしれない。
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『わらの女』カトリーヌ・アルレー 

『わらの女』カトリーヌ・アルレー 安堂信也訳 創元推理文庫
"LA FEMME DE PAILLE" Catherine Arley
ISBN: 4488140017

 ヒルデガルドは34歳。ハンブルク大空襲ですべてをなくしたヒルデガルドは週刊新聞に掲載されていた億万長者の求妻広告に応募する。広告主からカンヌに招待されたヒルデガルドはまんまと玉の輿に乗る。だが、そんな彼女を待ち受けていたのは、巧妙に計算しつくされた完全犯罪計画だった。

 安楽な生活がしたいというヒルデガルドの心情はわかるような気がする。まして何もかもなくしたなら。これを「打算と虚栄」といわれると、ちょっと違うような気がする。世の中にはもっと「打算と虚栄」に満ちた女性がいるのだから。

 悪女ものというより、原題の意味のとおり「囮にされた女」の物語なのだと思う。ヒルデガルドがほんとうに悪女なら、もっとずる賢く立ち回れたかもしれない。

 それやこれやといろいろ思うところはあるが、読者を一気に引き込んで物語の世界の虜にする、サスペンスの傑作であるのは間違いない。
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2006年07月18日

『バッテリー』あさのあつこ 角川文庫

 ピッチャーとして類いまれな才能の持ち主である原田巧は、中学入学を目前に控え、父母、弟の青波と岡山県境の地方都市、新田に引っ越してきた。低体重で生まれた青波は病弱で、母の関心は青波に向かいがちだった。

 父母の故郷である新田では、母方の祖父で、かつて高校野球の監督としてその人ありと知られた井岡洋三と同居することになっていた。祖父は地元の新田高校を何度も甲子園へ送り出していた。

 ランニング中、道に迷った巧は、体格のいい同い年の少年、永倉豪に出会う。少年野球チームのキャッチャーだった豪は、巧の試合を見たことがあった。豪は巧をキャッチボールに誘う。

 この作品が高く評価されているのは知っていたが、読んだのはつい最近である。高校生の息子の読書感想文課題本リストに載っていたので、とりあえず購入し、息子に読ませてみたら、おもしろかったらしく、4巻まで一気に読んでしまった。

 著者自身があとがきに書いているように「未熟で稚拙な作品」ではある。ときに言い回しがたどたどしく、こなれていない感じが否めない。にもかかわらず、多くの読者を惹きつけるのは、物語に人の心を揺り動かす力があるからではないかと思う。登場する人物たちに、自分を重ね合わせ、嫌悪し、憧れ、愛おしく思う。読者の中に何かをかき立てる力がとても強いのだ。

 中学時代のわたしは何を考え、どう感じながら生きていたのだろう。そして、母親としてのわたしは、子どもにどう接しているのだろう。

「自信家」とされる巧だが、わたしには、人並み以上の才能を持ちながら居場所を持てずにあがいているようにしか思えなかった。ほんとうに自信があるならば、これほど尖った言動はとらないだろう。強気の顔の内側にある脆さが痛々しい。 

 巧の母、豪の母の言動は痛かった。子どものことを誰よりも知り、思っているつもりでも、知らず知らずのうちに、子どもを自分のわくにはめようとしていないか。複数の子どもを平等に愛せるのか。

 豪は、中学に入る直前の男の子にしては、気配りが効き過ぎるように見える。これくらいの子だと、本人は気をつかっているつもりでもどこかピントがずれていたり、自分のことに夢中になったり、落ち込んだりしたら、周りのことなど見えなくなるものだけど、豪にはそういう面はあまりないようだ。ちょっとできすぎかとも思うが、巧が俺様なだけに、青波を気遣う豪に心が温まる。

 巧と豪はどんなバッテリーを組んでいくのか。祖父とはどんな関係を築いていくのか、青波はどんな男の子に育っていくのか。物語はまだ、始まったばかりである。


「いろんな人がいたけど、やっぱり、いるのよね。野球をするために生まれてきたような人。そんな人は、他人に憧れたりしないの。誰かに憧れて、同じように野球をしたいなんて思ってる人はだめよ。いつか、だめになる。自分の野球に憧れることができる人、自分を誰よりも優れていると思える人じゃないとだめなの」193p
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『罪』 カーリン・アルヴテーゲン 柳沢由実子訳 小学館文庫

"SKULD" Karin Alvtegen ISBN: 4094054626

 多額の負債を抱えて破産宣告を受けたペーターは、ある日、見知らぬ女から奇妙な依頼を受ける。夫のオフィスに小箱と萎びたバラを届けてほしいというのだ。

 メモ用紙に書かれたビルに依頼品を届けに行ったペーターに、夫であるはずのオーロフ・ルンドベリは、妻は3年前に死んだと言う。オーロフから借金返済とひきかえに探偵役をしてほしいと持ちかけられ、やむなく引き受けたペーターは、いつしか女が仕掛けた罠にはまる。

 ペーターは生きるのが下手な男である。不器用な男と言ってもいい。幼くして父を亡くし、母に愛されず、恋は実らず、会社経営にも失敗し、パニック発作に苦しむペーターの心の奥に何があり、何を求めているのか。ペーターの心の動きが克明に描かれ、他人とは思えなくなってくる。

 謎めいた女を追いつつ、ペーターはオーロフと信頼関係を築き、疎遠だった姉エーヴァとも心を通わせ合うようになる。緊迫感にあふれたサスペンスであると同時に、癒しの物語でもあるように感じられる。

 スウェーデン・ミステリ界の新星カーリン・アルヴテーゲンのデビュー作。事故死した兄に捧げられている。著者にとっても本作は癒しの物語といえる。どこか温かさが感じられるのはそのためかもしれない。
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『喪失』カーリン・アルヴテーゲン 柳沢由実子訳 小学館文庫

"SAKNAD" Karin Alvetegen
ISBN: 4094054618

 ホームレスのシビラは金回りと人のよさそうな男をうまく言いくるめて、何の代償もなしにストックホルムで最高級のホテルの夕食と一夜の宿を手に入れる。

 たっぷりお湯の入ったバスタブにつかり、ぐっすり眠ったシビラは翌朝、ドアを激しく叩く音で目を覚ます。「警察です」の声にシビラはあわてて部屋を飛び出す。昨夜だました男がホテルの自室で惨殺され、シビラは容疑者として追われる身となる。

 猟奇的な事件が続き、シビラの犯行をほのめかすメッセージが残される。逃亡生活を続けるなかで生きる気力を失いかけたシビラだが、ある少年と出会ったことで、真相を突きとめ、自らの潔白を証しようとする。

 シビラは地方の工場主の娘だった。何不自由のない暮らしをしていたはずの娘がなぜ15年間もホームレス生活を続けているのか? 逃亡生活とかつての暮らしが交互に描かれ、シビラがどのような家庭でどのように育てられたかが少しずつ明らかにされていく。

 自ら選んで社会の枠組みから外れて生きてきたシビラが社会から犯罪者として追われるのはなんとも皮肉な話である。そんなどん底から立ち上がろうとするシビラに向ける著者の眼差しは温かい。

 犯行の背景はいかにも現代的で、いろいろなことを考えさせられる。前作『罪』につながる疎外された人間が自分らしく生き始めるというテーマは本作にもしっかりと受け継がれているように思う。本作はベスト北欧推理小説賞を受賞している。

 スピード感あふれるサスペンスとほのかな温かみを楽しめるカーリン・アルヴテーゲンにこれからも注目していきたい。
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"BETRAYAL" Karin Alvtegen

Translated from the Swedish by Stephen T. Murray
Canongate Books/2005.06.09/ISBN: 1841956104

《繰り返される裏切り――その果てにあるものは?》

 ストックホルム郊外の閑静な住宅街。マネジメント・コンサルタントのエーヴァは、夫ヘンリク、保育所に通う6歳の息子アクセルと暮らしていた。一家は幸せそのものに見えたが、夫の心は妻から離れていた。エーヴァは夫の愛を取り戻そうとするが、ふとしたことから、夫の愛人の存在に気づく。しかも、その愛人とは夫婦ともよく知る女性だった。夫の裏切りに傷つき、ひとり夜の町をさまようエーヴァは、酒場で出会った気の弱そうな青年ジョナスと一夜をともにする。

 ジョナスは約2年半前の事故以来昏睡状態にある恋人アンナの病室に泊まり込んで介護を続けていた。エーヴァにとっては一夜の過ちに過ぎなかったが、ジョナスはエーヴァこそ運命の女性と決め込む。かつてのアンナの裏切りを思い起こして死期の迫った恋人に見切りをつけ、ジョナスはエーヴァとの新たな生活を夢見て、エーヴァにつきまとう。

 離婚して、ひとりで息子を育てようと決意するエーヴァだが、心の中には夫と浮気相手に対する憎しみがたぎっていた。やり場のない怒りに駆られてエーヴァがとった行動は、思いもかけない結果を引き起こす。

 裏切られ、傷つきながらも必死で自分と子どもの生活を建て直そうとするエーヴァが痛々しい。追い詰められていくエーヴァの心の動きと並行して、母の面影を求め続けるジョナスの屈折した心理が緻密に描かれている。物語の結末はやり切れないものであるが、これでよかったのかもしれないという安らぎめいたものが漂う。

 スウェーデンのみならず、日本を含む20か国で翻訳されて幅広い読者を得ているカーリン・アルヴテーゲンの第3作。前2作と同様に本作もまた、息をもつかせぬサスペンスであると同時に、疎外された者の心の痛みや動きを丁寧に描いた心理小説であり、心弱き者への熱い思いが込められている。視点が切りかわる場面での手際は鮮やかで、完成度の高さがうかがえる。


  本作は2006年8月、『裏切り』という邦題で訳書が出版された。著者の作品は4作目 "SKAM" が既に出版されており、英訳 "SHAME" が今年8月に出版されている。

『海外ミステリ通信』2006年7月号掲載原稿に加筆・修正。

◇著者のサイトはこちら
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2006年03月09日

"THE PLAINS OF PASSAGE" Jean M.Auel

Bantam Books ISBN: 0553289411

 この人しかいないと思い定めたエイラは、ジョンダラーとともに彼の故郷の地ゼランドニをめざして、ヨーロッパの東端から西端への旅に出る。出会いと別れを繰り返し、好奇の目が温かな心の通い合いに変わるのを体験し、苦しむ人を癒しながら旅を続けたふたりは最後の難関に挑む。そして――。

 えーと、あらすじというと、これだけです。旅の場面だけで859ページ費やしています。それなりにおもしろかったのですが、いかんせん、冗長すぎます。マンモスの生態や氷河越えなど壮大な場面は見応えがあり、原人と新人との確執、暮らしの工夫などはとても興味深かったのですが、何といいますか、エイラとジョンダラーのダラダラした場面はもう結構! 行き違いがあって仲直りして、互いの素晴らしさに打たれて〜〜、なんていうのは1つか、2つあれば十分です。

 ジョンダラーに魅力がないのも致命的な欠点ですね。どうしてエイラがなじんだ暮らしを捨ててついていくのかがよくわかりません。眉目秀麗なのでしょうけど、思考は短絡的だし、エイラを愛しているといいながら他の女の腹に自分の子どもができていないかばかり考えてるし、女心はまるっきりわかってないし、言葉は足りないし、頼りないし。イライラするばかりでした。

 余計なところを削って半分か3分の1くらいに縮めたら、それなりにオススメできるのでしょうけど、これではね……。

 エイラのこれからが気にはなりますが、どうも、ここから先はホームドラマになりそうな気配なので、躊躇しています。図書館に訳書が入っていれば、それで済ませようかな?
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2005年10月13日

"JO'S BOYS" Louisa M.Alcott

 Puffin Books ISBN: 0140367144

 プラムフィールドが創設されてから10年が経ち、ローレンス老人の遺産をもとに大学も創設された。ナンは医学を学び、エミルは船乗りに、ナットも音楽家への道を歩み始め、皆それぞれの夢に向かって進んでいる。だが、ダンからは何の便りもない。

 作家としても活躍しているジョー。リポーターやストーカーまがいのファンに追われたあわただしい1日が終わろうとしているとき、髭面の男がぜひにと訪ねてきた。怯えたメイドは男を追い返そうとしたが、なおも迫るその男の顔を見たジョーは?

 それぞれの道を歩み始めた子どもたち。その歩みは危うく、間違いを犯すこともしばしばである。そんな子どもたちを見守り、導くジョーとベア先生、そしてメグ、エイミー、ローリーたち。親となった彼らの姿に胸打たれる。

 かなえられた夢、かなえられなかった夢。それぞれの荷を抱えてここまで来たジョーたちの歩みに、しばし思いを馳せる。

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『偶然のラビリンス』デイヴィッド・アンブローズ 鎌田三平訳

"COINCIDENCE" David Ambrose
 ヴィレッジブックス ISBN: 4789726665

 大衆紙向けのノンフィクション・ライター、ジョージ・デイリーは父を亡くした。その遺品の中から出てきた写真には、見知らぬ男女と並ぶ自分がいた。それは自分だったのか? 一緒に写っているのはだれなのか? なぜ覚えていないのか?

 過去をたどり始めたジョージの身辺に偶然としか思えない出来事が次々起こり、まるで偶然に絡めとられるかのようにジョージの運命は変転する――。


 物理学の理論や易経についての説明がいきなり出てきて面食らってしまったが、世界史上の偶然についての説明は興味深く、とりわけリンカーン大統領とケネディ大統領との「偶然の一致」の箇所では鳥肌が立った。

 どのように評価すればいいかよくわからないのだが、ただ一つ、はっきり言えるのは、不思議な読後感を残す小説であるということ。この日常は幻ではないのか? わたしはわたしなのか? なぜここにいるのか?

 そこにもある、ここにもある「奇妙な偶然」。その偶然はわたしをどこに導こうとしているのか?

 おもしろい小説だと思うが、ただ、どこがどうおもしろいのかうまく説明できないのがもどかしい。自分の理解力が足りないためなのだろう。読む人を選ぶ小説だと言えそうだ。

 
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『ロラおばちゃんがやってきた』フーリア・アルバレス 作 神戸万知 訳

 "HOW TIA LOLA COME TO (VISIT) STAY" Julia Alvares
 講談社 ISBN; 4062123134

 両親が離婚し、9歳の少年ミゲルは母、妹のファニータとともに、住みなれたニューヨークからヴァーモントへ引っ越した。母は仕事で忙しく、学校にはミゲルのように柔らかな小麦色の肌と黒い髪の子はいない。

 留守番をする子どもたちを気遣い、母は故郷ドミニカからロラおばさんに来てもらった。回りの大人たちとは一風変わったおばさんに戸惑うミゲル。だが、新しい土地に少しずつ根を下ろしていく中で、いつしかおばちゃんに向けるミゲルの視線が変わっていく。

 息苦しいほどの緊迫感に溢れた"BEFORE WE WERE FREE"とはまた少し感じが違う。こちらの方が明るく、読みやすい。かといって、軽いお話ではない。作者の視点は、ヒスパニック系シングルマザー家庭で育つ子どもたちの抱える生きづらさにしっかりと向けられている。そして、そこから目をそらすことなく、その息づかいが伝わるかのように生き生きと描かれている。

 そして、何より魅力的なのは、ドミニカの太陽と海そのもののようなロラおばちゃんの存在である。慣れない英語で一生懸命しゃべるおばちゃん、メレンゲに合わせて踊るおばちゃん、お話の上手なおばちゃん――ミゲルでなくても、「おばちゃん、ずっと一緒にいて」と言わずにいられなくなる。

世界の美しいものは、みんなへのすてきな贈りものだ。ロラおばさんはいつもいっている。その贈りものは、ただ、手をのばして、感謝しながら受けとればいい。 171ページ
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"BEFORE WE WERE FREE" julia alvarez

Laurel-leef books ISBN: 044023784X

 1960年代初頭のドミニカ共和国に生きた12歳の少女アニータの物語。

 同じ敷地内に暮らしていた親戚が突然アメリカに移住することになり、仲良しのカーラも家族と一緒に行ってしまった。にぎやかだった敷地内からどんどん人がいなくなる。トニおじさんの行方もわからないままだ。父さんは蝶々がどうしたとか謎めいた電話をする。家の回りに秘密警察の車がとまる。学校は休校になった。時代が暗さを増す中で、アニータは日記をつけ続ける。そしてある日――。

 ドミニカという国がどこにあるか、どのような歴史を歩んできた国か、恥ずかしいことにわたしはほとんど知らなかった。ほんの40年ほど前のことなのに。そして今もどこかで、アニータのような少女がいるのかもしれないということを心にとめておかなければならない。

 アニータはドミニカ共和国のアンネ・フランクと言っていいだろう。アニータがくぐり抜けてきた試練は思春期の少女にとってあまりに過酷なものであった。暗い時代の中でも恋をし、明日に希望をかけ、日記をつけ続ける。重苦しい雰囲気に包まれた時代の物語ではあるが、どんな状況に置かれてもひたむきに生きるアニータにエールを送らずにいられない。

 さまざまな思いが胸を去来する。蝶たちが空高く自由に飛べるよう、願わずにいられない。
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2005年08月03日

"BEHIND A MASK" Louisa May Alcott

ISBN: 1843910861

 裕福なコヴェントリー家にひとりのガヴァネスが来た。その名はジ−ン・ミューア。謎めいた彼女に男たちは魅了され、女たちは憧れ、嫉妬する。彼女をめぐって兄弟がいがみ合い、血が流れる。金髪白い肌、甘い声、ほっそりした体つき、優美な身のこなしに加え、その生まれには謎が秘められていた。美貌の裏に隠された真実の顔とは……。

 まさに昼メロといった(見ていないが)B級ロマンティック・サスペンス。一人の作家がこれほど正反対の作品を書けるとは信じられないくらいだ。ジョーがこんな作品を書いたらマーチ夫人はジョーを勘当して家族の聖書から名前を消すだろう。

 ある意味、陳腐な展開なのだけど、人物像がしっかりしているので、それなりに楽しめる。

『愛の果ての物語』では、まだ、可憐なヒロインに涙をこぼせるが、このヒロインには同情など似合わない。

 ヒロイン、ジーンはとても強い女だ。頭が切れ、意志が強く、粘り強い。欲しいと思ったものは手段を問わず手に入れる。オルコットが生きた時代には珍しいタイプだったのではないか。『若草物語』のベスと対極にあるような人物である。

 あまり知られていないが、オルコットは晩年、フェミニストの運動に近づいていたそうだ。この作品を読むと、それも納得できる。オルコットは単なる道徳家ではなく、女性の力を信じていたのだ。

 モンゴメリも牧師の妻という縛りがなければ、このような作品を書きたかったのかもしれない。

 わたしはこの作品はおもしろいと思うけど、『若草物語』を書いた人としてオルコットを崇拝している方には衝撃が大きすぎて受け入れがたいかもしれない。性的な描写こそないが、道徳的とはいえないし、今どきの風潮から見ても、ここまでするかというところがある。オルコットという作家をどうとらえるかによって評価が分かれる作品かもしれない。
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2005年06月16日

『最後の真実』 リズ・アレン 森沢麻里訳 集英社文庫

"LAST TO KNOW" Liz Allen ISBN 4087604853

 ダブリンで売春婦がレイプされ、瀕死の状態で発見された。容疑者としてギャングのボスの息子マイケルが浮かぶ。弁護士デボラ・パーカーが弁護を担当し、マイケルは無実となる。だが、そんなデボラに疑惑がかけられる。同僚の男性弁護士パトリックはデボラを妬んで陥れようとし、警察はデボラが収入以上に贅沢な生活をしているのに目をつけ、身辺を探り始める。そんな中でデボラは――。

 事件のサイドストーリーとして、30年前、アイルランドの寒村で身分違いの恋を阻まれ、意に添わぬ男との結婚を強いられた貧しい娘シーラ・ダンの半生が語られる。
 現代のダブリンと30年前の寒村と。何のかかわりもなさそうな、この2つの物語が交差したとき、驚くべき真実が明らかになる。

 若手の活躍が顕著なアイルランド・ミステリ。そこにまた1人、新たな実力派が登場した。本作は、記者出身のリズ・アレンがみずからの体験をもとに書き上げた、渾身のデビュー作である。

 目を覆うばかりの家庭内暴力、陰湿さを募らせる職場内セクシャル・ハラスメントをこれでもかというくらい描きながら、その中に生きる女性のしたたかなほどの不屈の精神を浮かび上がらせている。

 本作に描かれているのはきれいごとの世界ではない。ヒロイン、デボラはギャングのボスであっても仕事は仕事と割り切って引き受け、納得できないことは納得できないと訴える。デボラを陥れるパトリックの妬みとパトリックを信頼しきってその進言を受け入れる所長には、これでも弁護士かと呆れるばかりだ。むしろ、ギャングのボスであるマグシーが強面ではあるけれど、人情深さを感じさせ、好感が持てる。
 
 途中で物語の展開は大体読めてしまうが、迫真の描写と構成の巧みさ、人物の魅力で惹きつけ、読ませる作品である。犯罪レポートを報道してきた経験が見事に生かされた、力のこもった作品といえるだろう。

 2005年5月に第2作"THE SET UP"がイギリスで出版された。これからの活躍に注目したい作家である。

 
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2005年05月12日

LITTLE MEN Louisa May Alcott

 プラムフィールドで寄宿学校を始めたジョーとベア先生。とりどりに個性豊かな子どもたち、その中でも、元ストリートチルドレンだったダンと自立心に富む勇敢なナンがとりわけ印象に残る。

 それぞれの特質をどう生かしていくか、子どもたち一人一人とどうかかわっていくか。教育や社会のあり方についても、いろいろ考えさせられた。 

 かいま見えるローレンス夫妻、ブルック夫妻、マーチ夫妻に懐かしさを感じ、子どもたちの成長を楽しみながら読んだ。

 小さなカップルが何組か誕生している。この子たちはどういう人生を歩むのだろう。次作"JO'S BOYS"は10年後のお話とのこと。懐かしい顔ぶれとの再会が楽しみだ。
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2005年03月04日

"TUESDAYS WITH MORRIE" Mitch Albom

 スポーツコラムニストとして成功していたが、なにかもの足りない思いを抱いていたミッチ・アルボムはある日、偶然見たテレビがきっかけで大学時代の恩師モリーと再会する。16年ぶりに会ったモリーは難病のため死を待つ身だったが、その知恵、明るさ、洞察の深さは昔のまま、いや、ますます深みを増していた。先生との授業は週1回、火曜日に先生の自宅で行われた。世界、後悔、死、家族、愛、結婚……。

 魂にふれる会話を残してモリーは逝った。だけど、ぼくらの授業は今も続いている。
 
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"LITTLE WOMEN" Louisa M.Alcott

 マーチ家の4人姉妹の物語。クリスマスに始まって、季節はめぐり、そしてクリスマスを迎えて終わります。何度も読んだお話ですが、今回も読んでよかったなという満足感にひたっています。

 今回、痛感したのは人物描写の巧みさ。誘惑に負けたり、怠けたり、意地をはったり。まるですぐ隣にいるように、一人一人の人物を身近に感じることができました。
 ストーリー展開も絶妙で、そしてどこかくすりと笑えるところもある。読むたびに新しい発見があるように思います。

 このお話にはPilgrim's Progress(『天路歴程』)が大きな役割を果たしています。『若草物語』を本当に理解しようと思うのなら、まず『天路歴程』を読まなければいけないんじゃないかな。そんな気がしています。
 
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"GOOD WIVES" Louisa M.Alcott

"LITTLE WOMEN"第2部。

  第1部が幕を下ろしてから3年後、メグの結婚式からお話は始まります。

 芸術に、文学に、奮闘するエイミーとジョー。ジョーは自分のペンでお金を稼げるようになり、ベスが母と共に海辺で過ごせるように取り計らいます。書いて書いて書きまくるジョーは、ある時期のルイザそのものだったのでしょう。ペンで家族を支えることを彼女は何よりも誇らしく思っていたに違いありません。

 新婚家庭でのメグ。貧しいながらも夫にとって天国とも思える場所をつくろうと粉骨砕身しながらも、経験不足のためうまくいかなくてヒステリーを起こしてしまいます。同じころに結婚したサリー・モファットに誘われ、絹のドレスを買ってしまい、家計簿を調べる夫の目を恐れるメグ。 そうでしたね。そんな時期もありました。料理書と首っ引きで夫の好きなものをつくってみたり、狭いながらも楽しい我が家にしようとちょっとした飾り付けをしてみたり……。随分、昔のことのような気がします(^^;) 

 新婚家庭での夫と妻の微妙な主導権争いの気配も漂っていますね。あとから考えれば、全く別の環境で育った二人がいきなり一緒に暮らすのだから、ぶつかって当たり前なのですが、なぜか結婚当初はこの「当たり前」が頭に浮かびませんでした。一生懸命心をつくせば何とかなると思っていたのでしょうね。世の中にはどうにもならないことも多いというのを、あとになって思い知らされました。

 そんなメグもデイジーとデミという双子のお母さんになります。これからどんな物語を繰り広げてくれるのでしょうか? 楽しみです。

 エイミーはおじ一家とヨーロッパ旅行へ。『風去り』のアシュレも確か、ヨーロッパを回ったとありました。南北戦争勃発前ではありましたけど。この当時、アメリカからヨーロッパに旅行するのは、裕福であることの証明だったのでしょうか?

  ルイザ自身、富裕な令嬢のヨーロッパ旅行――grand tour――への同行を依頼され、ヨーロッパを見聞しています。その時の経験がこの作品に生かされているのでしょう。ちょっとした旅行気分を味わえました。

 ベスは心に何か秘めているような憂い顔。そして、ジョーはニューヨークへ。巣立っていこうとする娘たちを見守るマーチ夫人の心境はいかに?

 住み込み家庭教師としてニューヨークに赴いたジョーは、ドイツから来たベア先生と出会います。身なりにはかまわないけれども、包容力と奥深い優しさを持つベア先生にジョーは惹かれます。
 今や出版社の要請に従い、センセーショナルな小説を書いてお金を稼いでいる(これはルイザの実体験でしょうね)ジョーですが、ベア先生との出会いによってそんな自分を見直します。ベア先生にまた会えるでしょうか?

 ローリーには心に秘めた女性がいます。その女性に認めてもらいたくて大学での勉強にも熱が入りました。そして、輝かしい成績を収めて卒業。ローリーはその女性に自分の思いを伝えますが、彼女は……。

 傷心のローリーを気遣い、祖父は一緒にヨーロッパを旅しようと提案します。ただし、それぞれ自分のぺースでという条件をつけて。

 そして、ニースでローリーはエイミーと再会します。小さな女の子だと思っていたエイミーはいつの間にか一人の美しい女性に成長していました。クリスマスの夜のパーティでダンスを楽しむ二人はなかなかお似合いです。

 ベスの体調はよくなる兆しがありません。ジョーはベスの頬に赤みが戻ることを願ってベスと共に海辺へ。

 ベスは自分の運命を悟っていました。その運命を受け入れるのは難しかったけれども、心は既に安らいでいます。大好きな姉ジョーの膝に頭を乗せ、そんな自分の気持ちを打ち明けるベス。Beth,my dear!

 ブルック家の様子が変です。メグは双子の世話に追われ、夫のことなど眼中にありません。安住の地を求めて、ブルックさんは友人宅に入りびたり。わたしは悪くないのに、なぜわたしばかりが重荷を背負うの……と泣くメグをマーチ夫人は諭します。

  双子を早く寝かせ、夫を温かく出迎えようとするメグ。だけど、デミは寝かそうとしてもなかなか寝ません。厳しくあろうとする夫は情に動かされるメグをいさめます。そして、静かになった部屋でメグが見たものは……。
 身につまされるお話です。デミってめちゃくちゃわがまま! でも、だから可愛くて仕方がないという気持ちもわかります。
 一人泣くメグは育児ノイローゼだったのかも? 母に支えられ、夫と協力していくことを学んだメグは、ここでやっと一人前の母親になれたのかもしれません。
   
 ジョーの孤独が痛いくらい伝わってきました。それだけに、幸せをつかんだジョーを心から祝福したくなりました。これからも幸せに!

 プラムフィールドはマーチおばさんの資産だったのですね。学校を始めるというところでは、ルイザの父に寄せる思いが感じられました。理想家だった父のことをだれよりも理解していたのはルイザだったでしょうから。

 しかしまあ、当時のgrand tourは実に長期に及んだのですね。エイミーたちは3年、4年近くヨーロッパに滞在していたのでしょうか? キャロルおばさまご一家は、もう一冬パリで過ごすとか……。裕福な階級の特権だったようですね。

 ジョーたちの学校はこれからどうなっていくのでしょう? 子どもたちの成長も楽しみです(親戚のおばさんみたいですが)  お話は"LITTLE MEN""JO'S BOYS"と続きます。うーん、読みたいですね、両方とも(^^;)

 "LITTLE WOMEN"も好きですが、"GOOD WIVES"はまた、違った意味で読みごたえのある小説ですね。一人一人の気持ちの動きがとてもきめ細やかに描かれており、大人の読者をしっかり惹きつける作品だと思います。いい作品ですね!
 "JO'S BOYS"はすぐ手に入りそうなのですが、 "LITTLE MEN"はお手頃な版は入手しにくそうです。続けて全部読みたいですね!  ちらっと書評を見てみると、原書よりアニメの方が評判よかったりするようです(^^;)   
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『「風と共に去りぬ」のアメリカ――南部と人種問題――』青木冨貴子著 岩波新書

"GONE WITH THE WIND" は、確かに好きな作品なのだ。話の展開はスピーディで緊迫感があり、人物は個性的で生き生きしている。伏線の張り方もみごとである。だけど、何か、ひっかかるのだ、今回。これでいいのか、というような……。

 という気持ちで、この本を手に取った。(例によってユーズドである。一般書店にはもう出ていないのかもしれない)

"GONE WITH THE WIND"、やはり黒人社会からは、非常にアンビバレントな評価をされているとのこと。確かに、この作品で、黒人は劣った人種として描かれ、白人は、そんな黒人を保護する立場にあるとされている。

 書きたいことはあふれているのだけど、ここは論文を発表する場所ではないので、差し控えておく。

 歴史、文化が違う国の本を読むとき、今の自分の基準ではなく、その国の歴史、背景を知ることがどれほど大切か、改めて痛感している。

『風と共に去りぬ』を読むにあたって、必ず読んでおきたい本である。 2003/07/06
posted by 如月 at 15:26| Comment(0) | TrackBack(0) | A

『エマ』ジェーン・オースティン 工藤政司訳 岩波文庫

"EMMA" Jane Austen 
 
 クリフ古典文学の部屋で原書を読んでいたとき、参考までにと図書館で借りた訳書を先に読んでしまいました。

 何不自由なく育ったお嬢様エマが年下の友人ハリエットの幸福を願い縁結びに奔走するが、なぜかうまくいかない。だが、ことごとく計画は失敗。果たしてエマとハリエットに幸せは訪れるのだろうか?

 おしゃべりしてはちょっと考え、おしゃべりしてはちょっと考え、がだらだらと続きます。オースティン本人が書いたように、エマはいやな女です。おごり高ぶって保護者気取りで他人の運命を自分の思い通りに動かそうとします。どこがおもしろいのかと聞かれると、返答に困ってしまいます。

 が、なぜか読んでしまいました。登場人物がどうなるかが気になったというのもありますが、このだらだらがなぜかおもしろいのです。おごり高ぶったエマの独りよがりな考えが横から見ているとなんともおかしくて。エマの目に映った人々の姿も何とも言えないくらいおかしみがあります。いるいる、こんな人、とか、わかるわかる、その気持ち、と、大いに共感してしまいました。

 取り立てて事件というほどのこともなく、描写に味があるというわけでもなく、それでいて、そこはかとないおかしみがあり、ついつい読んでしまうという不思議な作品です。

 こんな作品を書いたジェーン・オースティン、不思議な女性ですね。他の作品も読んでみたいと思っています。  
posted by 如月 at 15:18| Comment(0) | TrackBack(0) | A

『昏き目の暗殺者』マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子訳

[書名]    『昏き目の暗殺者』(The Blind Assassin)
[著者名]    マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood)(訳:鴻巣友季子)
[発行年月日] 2002.11.20
[出版社]    早川書房
[ISBN]     4-15-208387-5 C0097
[定価]     3400円
 
 釦工場主の娘、アイリスとローラ。八十二歳になったアイリスが語る回想と新聞記事、二十五歳で車ごと橋から転落して死んだローラが書いた物語『昏き目の暗殺者』が交互に語られていく。

 歴史の中で没落していく一族の物語であり、時代に流されつつ生きた女性の一代記であり、不審な死をめぐるミステリであり、その中に裕福な人妻と逃亡生活を送る男との人目を忍ぶ逢瀬、そこで男が寝物語に語る、ざらざらした紙の感触まで伝わってきそうな安物SFを含むという複雑な構造である。だが、いったん物語の世界に入ってしまうと、魂まで奪われてしまいそうなほどの引力があり、途中で止めることなどできなくなってしまう。

 作中作『昏き目の暗殺者』で語られる、安物っぽいSFがおもしろい。トカゲ男や桃女もばかばかしくていいけど、とりわけ惹かれるのは、舌を抜かれた生け贄の乙女と盲目の暗殺者のほのかなロマンス。この生け贄の少女とローラが重なって見える。だとしたら、盲目の暗殺者とは誰? 地界の王とは?

 昏き目なのはだれ? 暗殺者とは?

 読み終わったとき、語り手の老女の言いようのない悲しみや孤独が伝わってくる。

 手織りの絨毯のように一分の隙もない構成で物語の世界を堪能させてくれると同時に、生きることについても考えさせられる作品である。  
posted by 如月 at 13:50| Comment(0) | TrackBack(0) | A