2005年06月16日

『殺しの儀式』ヴァル・マクダーミド 森沢麻里訳 集英社文庫

"THE MARMAIDS SINGING" Val McDermid
ISBN 4087603075


 イギリス中部の都市ブラッドフィールドで連続殺人事件が起こる。被害者はすべて男性。遺体にはむごたらしい拷問の跡が残されていた。女性警部補キャロル・ジョーダンは心理分析官トニー・ヒルとともに殺人犯を追う。その間にも、まるで警察をあざ笑うかのように、次々と痛ましい死体が発見される。犯人の意図は何か。そして何ものなのか。犯人の手記をはさんで物語はじりじりと展開していく。

 手記を読みながら、何度も悪寒が走った。殺しに美学を求める連続殺人犯は、ただ殺すのが目的ではなく、いかに苦しみを長引かせ、印象的なものとするかに心を砕く。拷問についての歴史的資料を収集し、みずから図面を引いて拷問具をつくる犯人にとって、殺しはまさに神聖な儀式なのだ。

 この本は読み始めてから読み終わるまでかなり時間がかかった。CWA賞ゴールドダガー受賞作品であり、フェミニズムを根幹に置いているという評判を聞いて期待して読み始めたが、微に入り細に入り執拗に描かれる拷問場面に辟易してなかなか読み進められなかった。人間関係をじっくり描く作品は好きだが、残虐な拷問場面をじっくり描かれるのは何ともおぞましく、嫌悪感が募ってやり切れなかった。

 あまりの残虐さに中断も考えたが、残り3分の1を切ったところからは手が止まらなかった。忍び寄る魔手、追う刑事たち――刑事だからといって正義の味方ばかりではない。抜け駆け、情報のリーク、保身、そねみ、さまざまな姿がリアルに描かれる。おぞましさを感じながらも読後に愛を求める魂の哀しさが切なく刻まれた。

 好悪がはっきり分かれる作品だと思う。途中で放棄される方も多いだろう。だが、作者の並々ならぬ才能はこの作品からも十分感じられ、他の作品を読まずにはいられない気持ちにさせられる。えぐみはあるけれども、妙に後を引く作家である。

 キャロル・ジョーダン・シリーズは『殺しの四重奏』『殺しの迷路』と続く。

 ヴァル・マクダーミドには他にスコットランド人のフェミニストであるジャーナリスト、リンゼイ・ゴードン・シリーズ、マンチェスターの女性私立探偵ケイト・フラナガン・シリーズがある。

 2005年3月にスタンドアローン『過去からの殺意』が出版されている。



posted by 如月 at 14:26| Comment(0) | TrackBack(0) | M | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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