ISBN: 4488187064
1978年11月のある雨の夜、ロンドン南西部の住宅地グレアム・ロードに住む教師ミセス・ラニラは仕事からの帰り道、同じ通りに住む唯一の黒人女性アニー・バッツが自宅前の側溝に倒れているのを発見する。ミセス・ラニラが救急車を呼んでいる間にアンは息を引き取る。アニーの死は偶発事故によるものとして処理され、その後まもなくミセス・ラニラは夫と共にイギリスを離れた。
20年後、夫の心臓発作を契機にミセス・ラニラは夫と2人の息子とともにイギリスに帰国。ミセス・ラニラは20年前のアニーの死は殺人であると立証するため、当時の関係者らのもとを訪れる。薄い紙を1枚1枚はがすように、徐々に明らかにされていく事実とは? そして、アニーの死の真相は?
『女彫刻家』に続いて、ミネット・ウォルターズを読むのは2冊目。
ミネット・ウォルターズはうまい書き手だと認めるが、好きな作家ではない。この人は人間のいやな部分を書くことにかけては第一人者である。本書も、ミセス・ラニラの語りの合間に昔の手紙や報告書などを挟み込んだ凝ったつくりになっていて、その巧みさに感嘆する。だけど、この気持ち悪さ、後味の悪さときたら……。口直しならぬ目直し(?)にモンゴメリかピルチャーでも読まないと、いやな夢を見てしまいそうだ。
イギリスの女性作家はおしなべて、いやな人を書くのがうまいが、どこにでもいる普通の人の心の奥底に秘められたいやらしさや汚らしさを描くことにかけてはこの人の右に出るものはない。確かに、自分にもそういう部分があるのは認める。認めるしかないじゃないという半ば開き直りのようなものではあるが。だけど、何もここまで書かなくてもという気がしてしまうのだ。
それでも読んでしまうのは、設定が巧みであるのみならず、泣かせどころを心得ているからかもしれない。本作での最後の手紙や『女彫刻家』でナルニア国物語を語る場面に見られたように、泣かせるのもうまい。人の心の中に潜む邪悪な要素を容赦なく暴くと同時に、切ないほどの叙情性をも内に秘めている。だから、読まずにいられない。ミネット・ウォルターズにはそんなとらえどころのない不思議な魅力がある。
読むには覚悟が要るけれども、気になるミネット・ウォルターズ、追いかけていきたい作家である。
『だが、憎しみというのは不毛な感情だ。憎まれた側より憎んだ側を、だめにする。』

