2006年06月26日

『時の旅人』アリソン・アトリー 松野正子訳 岩波少年文庫

 さし絵 フェイス・ジェイクス
"A TRAVELLER IN TIME" Alison Uttley
ISBN:4001145316

 病気がちな少女、ペネロピー・タバナー・キャメロンは、兄イアン、姉アリソンとともに、母方の大おじバーナバスと大おばティッシーの住むダービシャーのサッカーズ農場に赴く。

 ふとしたことから、ぺネロピーは300年前の世界に入り込む。それは、スコットランドの女王メアリー・スチュアートとそのいとこでヘンリー8世の娘エリザベスが王位継承をめぐって熾烈な戦いを繰り広げていた時代だった。

 当時、サッカーズはアンソニー・バビントンの荘園屋敷だった。美しいメアリーに忠誠を誓うアンソニーは、囚われの身の女王を身を賭して救おうとする。現代と16世紀を行き来する少女が見たものは――。

 時を旅する少女、ペネロピーとともに、自分も16世紀の農場と現代とを行き来しているような気分になる。今よりもときはゆるやかに流れ、人々は穏やかに日々の営みを繰り返しているように見える。ティッシーおばさんそっくりのシスリーおばさん、凛々しいアンソニー殿様、たおやかな奥方、やんちゃな若君フランシス。

 だが、そこには激しい権力闘争が暗い影を落としていた。結末を知りながらどうすることもできないペネロピーの悲しみが胸を打つ。フランシスの呼ぶ声と『グリーンスリーブス』の歌声が今も切なく響く。

 グリーンスリーブスよ、いざ、さらば!
 神の恵、君が上にあらんことを。
 われ、今も君を愛す、
 ふたたび来たりてわれを愛せ。
 グリーンスリーブスはわがよろこびよ、
 グリーンスリーブスはわがたのしみよ、
 グリーンスリーブスはわが心の宝、
 ああ、うるわしのレディ・グリーンスリーブス。437p


 時とは何か。あのときとこのときを隔てるのは何かに思いを馳せたくなるファンタジーの傑作。ときの流れの不思議さに身をゆだねながら読みたい物語である。

私は、あの女王のロケットを首にかけ、ポケットには、昔、ジュードが作った古びた木の糸巻き坊やを入れていました、この2つは私に、サッカーズは昔、今のティッシーおばさんやバーナバスおじさんがしているのと同じように勇敢に、そして質素に暮らし、人に与えて見返りを求めず、人生で出会うものを恐れずに受けとめて生きた人々の”我が家であったことを思い出させました――かりに私がそれを忘れることがあったとしてのことでしたが――。
posted by 如月 at 16:38| Comment(0) | TrackBack(0) | U V W | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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