2006年01月27日

『五輪の薔薇T〜X』チャールズ・パリサー 甲斐萬里江訳 ハヤカワ文庫

"THE QUINCUNX" Charles Paliser
ISBN: 4150410321 4150410356 4150410380 4150410402 4150410410


 19世紀初頭の英国。鄙びた郊外の村で少年ジョンは母とともに暮らしていた。ある日、ジョンは、通りかかった豪華な馬車の紋章に、自宅の銀器にあるのと同じ「五輪の薔薇」が描かれているのを見つける。「五輪の薔薇」には、5つの家系の5代にわたる愛憎が秘められていた!

 小難しい作品かと思っていましたが、おもしろいのなんの! これもディケンズ路線と呼ばれるものなのでしょうか? 時代設定は同じですけど。

 冒頭の〈慣習法〉〈衡平法〉に面食らいましたが、ここは理解できてなくてもお話は十分楽しめます。もちろん、知っていればそれだけ楽しみも増すのでしょうけど。2005年には『薔薇の名前』も読みましたし、薔薇づいているのかな。 

 おもしろかったのだけど……オススメできるかというと、二の足踏んでしまいます。何かスッキリしないものが残るし、後味がさっぱりしないので。余韻にひたるという作品でもないようです。

 展開が気になってどんどん読んでいける本ですが、不幸のてんこ盛りにはいささか食傷しますし、運命に翻弄されるがままのお母さまに最初は同情しても、巻が進むにつれ「もっとしっかりしなさい!」とどやしつけたくなってきます。それでも読んでしまうんですけどね(^^;)
 
 5つの家系の5代にわたる物語という設定はおもしろく、ディケンズが生まれたころのロンドンを活写している点は評価できます。とりわけ極貧層の生活がリアルに描かれており、華やかな文化の裏側で庶民がどんな暮らしをしていたか、その場にいるように感じられるのは、それだけでも読む価値は十分ありました。富裕な階層の家庭での使用人の役割や立場などの描写も興味深く読みました。ラストシーンではディケンズ『大いなる遺産』が思い出されました。

 スピード感もあり、最後まで引っ張る力はありますが、あれもこれも盛り込みすぎて、一つ一つをしっかり書き込み切れていないような気がします。人物をとっても「こんな人、ディケンズの小説に出てきたよね」と思うことがしばしばあり、懐かしく感じはしましたが、オリジナリティーと深みに欠けているように思います。確かにディケンズへのオマージュなのでしょうけど、借り物っぽい雰囲気がしてなりません。自分の言葉で語っていないような気がするのです。

 他の作品に対する評価は低いようですが、それもこのオリジナリティーのなさが原因なのかもしれません。もう少し枝葉を刈って、残った部分を丁寧に描いた方がいいように思います。ここまで風呂敷を広げなくてもいいんじゃないかなと思いました。

 しかしまあ、ここで描かれている極貧層の仕事ぶりは壮絶です。『荊の城』に出てきた故買屋なんてかわいいもんです。うまくいけばスラムのごみの山漁りよりもうけはいいのでしょうけど、リスクも高く、そして気が遠くなるほどおぞましい! でも、これが現実だったのでしょうね。

 実はこの本は資料のつもりで借りてきたのですが、しっかり楽しませてもらいました。やりすぎ感はありますが、好きな人ははまりそうな作品です。それなりにですけどね(^^;)
 ヴィクトリアン好きな方、ジェットコースター的展開がお好きな方にはオススメです。
posted by 如月 at 15:18| Comment(0) | TrackBack(0) | P | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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